これまで、いくつもの仮想現実(VR)デバイスを試してきた。例えばGoogleの「Daydream」や、スマートフォンを利用するサムスンのVR製品などだ。しかし、VRが自分の目的にかなうと確信できたことは一度もない。その後、Appleの「Vision Pro」が登場し、実際に使った人たちのレビューを読んでいるうちに、仕事と遊びの環境を最適化するために、拡張現実(AR)やVR、クロスリアリティー(XR)の可能性をもっと探究してみようと思うようになった。そして3種類の製品を試し、何度かソフトウェアアップデートを経た結果、ついに仕事の生産性を高めつつ、休憩時間には気晴らしにも活用できる製品は存在すると確信できた。
筆者は電車で通勤している。片道45分近く電車に乗っているが、車内では仕事をしたくても使えるスペースは少ない。毎月発生する出張では、ノートPCが主な仕事道具になる。しかし自宅やオフィスでは2台の外部ディスプレイを使って効率的に仕事をしているので、ノートPCの小さな画面だけで仕事をこなすのはつらい。
それに移動中はモバイル端末を使って映画や「YouTube」も楽しみたい。これは筆者が(他の多くの人と同様に)長年続けてきた習慣だ。最近は、移動中でも大画面でコンテンツを楽しめる技術がでてきたため、実際に自分の目で確かめてみることにした。結論から言うと、筆者の目論見は外れた。
以前、Vision Proを使って生産性を高められるかという記事を書いた。あのとき使ったVision Proは結局、Appleに返品した。今後のソフトウェアアップデートに期待して手元に残すという選択肢もあったが、4300ドル(約65万円)の買い物をして、30年以上連れ添っている大切な妻を失いたくない。筆者の目的は生産性を高めることだ。この目的に照らすと、仮想ディスプレイを1つしか表示できず、しかも「Mac」にしか対応していないことが大きなネックになった。マルチモニター環境で仕事をすることに慣れている人には、この制約は残念ながら致命的だ。少なくとも、今のところは。
Quest 3は米ZDNETが2023年の最優秀製品に選んだデバイスだが、自分では試したことがなかった。しかし、Quest 3は複数の仮想デスクトップを表示できるという話を聞き、ノートPCの仕事環境を強化できるかもしれないと考え、Quest 3を注文した。
正直なところ、Quest 3の性能には驚かされた。価格はVision Proの7分の1なのに、Vision Proに迫る体験ができるのは信じられない。Quest 3は明らかにゲームを意識しており、ゲーム性能はVision Proをはるかに上回る。しかし、筆者はゲームのためにQuest 3を試したわけではない。
筆者が知りたいのは、Quest 3によって仕事環境をどう効率化できるかだ。そこでQuest 3と「MacBook Pro」に「Immersed」「Remote Desktop」「Meta Horizon Workrooms」をインストールした。ImmersedとMeta Horizon Workroomsでは、仮想ディスプレイを3つ、またはそれ以上表示できる。これこそ、筆者の通勤・出張に必要な機能だと思えた。
しかし、Quest 3こそ理想のヘッドセットだと確信した矢先に、VITUREが「macOS」版の「SpaceWalker」をリリースした。このモバイルXR体験を提供するアプリを1時間ほど試した結果、その便利さに驚き、Quest 3は返品することにした。いや、返品はせずに自宅で使えばいいのかもしれない。時折、VR空間に入って現実から逃避するのは楽しいものだ。
VITURE Oneは、空間に大きな仮想ディスプレイを配置できるが、形は軽量なサングラスだ。実を言うと、筆者が最初に試したのはXREALのスマートグラス「Air 2 Pro」だった。しかし映像の鮮明さに不満があり、数日で返品した。専用アプリの「Nebula」も、VRっぽさはあるもののできることは少なく、便利とは思えなかった。
当時、筆者はロサンゼルスからオーストラリアのブリスベンに行く予定を控えていた。機内で15時間も過ごすことになるので、代わりにVITURE Oneと専用アクセサリーの「モバイルドック」を注文し、試してみることにした。VITURE OneはAir 2 Proに似ているが、個人的にはAir 2 Proよりも快適で、光学系も優れていると思う。特に、両目の上にある度数調節ダイヤルが画期的で、おかげでコンタクトレンズをつけてもつけなくても使用できた。「iOS」や「Android」、macOS、「Windows」だけでなく、「Nintendo Switch」などのゲームプラットフォームにも対応する。
「Apple TV」やNetflix、Amazonからダウンロードしたコンテンツを観たり、Nintendo Switchに入れたゲームで遊んだりしているうちに、ロサンゼルスとオーストラリアの往復フライトはあっという間に終わった。VITURE Oneは快適で軽い上に、コンテンツを提供しているデバイスから給電もできる。生産性に関しては、筆者の「MacBook Pro」「Surface Pro」を投影できる拡張ディスプレイは基本的に1つのみだ。
「拡張」と言っても、筆者の場合はVITURE Oneをかけて拡張ディスプレイを見ているときも、定期的に視線を落として、手元のノートPCの画面を確認する必要があった。MacBook Proのディスプレイは市場でもトップクラスに解像度が高いため、大事な作業はMacBook Proの画面で行った方が効率がいい。つまり、VITURE Oneはスマートフォンやゲーム機の画面を仮想の大画面に映し、エンターテイメントを楽しむという用途が最もふさわしい。
しかし、VITURE Oneには隠し球があった。最近リリースされたmacOS用のSpaceWalkerだ。このアプリはVITURE Oneの可能性を飛躍的に高める可能性を秘めている。
SpaceWalkerは、最初はiOS向けに開発されたVR体験用のアプリだ。当初は機能もかなり少なく、実用性よりVR技術のデモンストレーションが目的のように見えた。現在はAndroid版もリリースされている。VITURE Oneは「Samsung DeX」に対応していることも指摘しておきたい。Samsung DeXはスマートフォンをディスプレイにつないでPCのように扱う機能で、ほとんどのサムスン製スマートフォンで使える。
SpaceWalkerを使えば、コンピューターのデスクトップを最大3つの仮想ディスプレイに投影でき、設定を変えることで体験のカスタマイズもできる。生産性の向上が目的の筆者にとっては、この機能だけでVITURE Oneが最高の選択肢となった。対応しているメディアやゲームも多く、満足度はきわめて高い。生産性、ゲーム、メディア――どの観点から見ても、VITURE Oneの有用性はAppleのVision ProとMetaのQuest 3に勝る、というのが筆者の結論だ。
Windows版のSpaceWalkerはまだないが、VITUREは現在、複数の仮想ディスプレイを行き来するためのWindowsアプリ「ARMoni」を開発しており、現在はオープンベータの段階にあるため、近いうちに試してみたい。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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