ソフトバンクは、電波によって離れたデバイスに電力を供給する技術を試せる「ワイヤレス電力伝送ラボ」を開設した。2024年度中に一般企業や団体に開放することで、オープンイノベーションの創出を狙う。
ワイヤレス電力伝送(WPT)をめぐっては、スマートフォンの「Qi」(チー)で知られる電磁誘導型や、EVで実証が進む共鳴型などがある。
一方でソフトバンクが注力しているのは「空間伝送型」だ。これは、電波(マイクロ波)によってデバイスを無線給電する方式で、携帯基地局のように電波を吹くことで、電波が届く範囲のデバイスに電力を供給できる。
また、携帯基地局との一体化が可能で、基地局の周囲のデバイスを無線で充電することも可能。その際、盗電などを防ぐために、スマートフォンのSIMカードのような識別番号を受電側のデバイスに付与し、資格のあるデバイスだけが受電できるといったプラットフォームの構築も進めている。
同方式のターゲットとなるのはセンサーなどのIoTデバイスだ。AIやデジタルツインの本格普及によって、デバイス数の急拡大が予測されるが、無数のデバイスの電源を個別に管理するのは手間だ。そこで、電波によってエリア内のデバイスに一斉に電力を供給できれば、バッテリーレス化が可能になり、電池交換や充電のコストを大きく削減できるというわけだ。
ワイヤレス電力伝送ラボでは、総務省から認可された920MHz帯による商用環境を気軽に試せる。受電装置はボタン電池型とし、既存のボタン電池で動作するデバイスでも無線給電を試せる。
920MHz帯のアンテナは天井に設置されている。メディア向けのデモでは、机の上にIoT温湿度センサーが並べられていたが、バッテリー非搭載にも関わらず電波からの給電を受け、LEDインジケーターが点滅し、温湿度データを送信し続けていた。
ソフトバンクによると、ボタン電池で動作するデバイスであれば、十分な電力を給電できるという。紛失防止トラッカーの「Tile」やAppleの「AirTag」にも使えることを確認したという。もちろん、バッテリーと組み合わせた運用も可能だ。
アンテナをストラップ形状とすることで、身につけるデバイスにも使える。服に隠れても給電できるという。安全性に関しては、総務省がWPT向けに認可した920MHz帯を用いており、問題ないことが確認されていると担当者は強調した。
現状、「人体に問題ない」として総務省から認可された920MHz帯を用いる場合、平均消費電力が1mW程度のデバイスへの給電に対応する。これは前述の通り、ボタン電池で駆動するようなデバイスが対象となる。
スマートフォンを充電できれば便利そうだが、実現は難しいという。電波の周波数を高めれば伝送できる電力は増加するが、人体への影響が顕在化する恐れなどがあるためだ。人体を避ける高度なビームフォーミング技術などが実現すれば、より高い消費電力のデバイスに対応する可能性はあるという。
ソーラー電池など他の方式と比較したメリットについて、ソフトバンク 基盤技術研究室の長谷川直輝氏は「環境に左右されないメリットが大きい」と話した。
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