2月28日に行われたCNET Japan Live 2024のオンラインセッションに、JR東日本スタートアップ、東急、小田急電鉄、西武ホールディングスによる鉄道横断型社会実装コンソーシアム「JTOS(ジェイトス)」のメンバーが登場。「鉄道横断型社会実装コンソーシアム『JTOS』とは--鉄道4社と挑戦者が共に拓く社会実装への道」と題して、スタートアップとの共創で社会課題を解決することを目的に4社で設立した、JTOSの活動内容と趣旨を紹介した。
セッションには、JR東日本スタートアップ 営業推進部 アソシエイト 澤田智広氏、東急 フューチャー・デザイン・ラボ 事業創造担当 満田遼一郎氏、小田急電鉄 デジタル事業創造部 ポリネーター 和田正輝氏、西武ホールディングス 経営企画本部西武ラボ 小泉佳織氏が参加。4名はそれぞれ社内でスタートアップとの共創や新規事業創出支援を行いつつ、JTOSとしてもスタートアップとの共創活動を行っている。
前段として、まず各社がスタートアップとの取り組みを紹介した。JR東日本は、2018年に100%子会社のJR東日本スタートアップを設立。スタートアップとの協業推進、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動、事業会社からスタートアップに課題を提示する課題先行型マッチングイベントなどを実施し、「これまでの実績としてPoCを121件、そこから事業化・実用化に至ったのが57件、出資44件、そのうちIPOが4社という実績を持つ」(澤田氏)という。
さらにスタートアップとのジョイントベンチャーとして、無人AI決済店舗やシステムを開発する「TOUCH TO GO」、無人駅をホテルのフロント、沿線全体をホテルに見立てて沿線開発をしていく「沿線まるごと」、小型ドローンを用いて狭い場所を点検したり、撮影したデータをアップロードするだけで三次元データを自動生成できるデジタルツインソフトウェアなどで保守業務を支援する、「CalTa」を設立している。
東急グループは、2015年からアクセラレートプログラムを実施。現在は「東急アライアンスプラットフォーム(TAP)」として、年に1回のピッチ形式ではなく、24時間365日エントリーを受け付ける形でのマッチングプラットフォームを運営している。「参画しているグループ会社28社のオープンイノベーション担当者や新規事業担当者が毎月会議や審査をし、常に共創を進めていく仕組み。ウェブサイトに課題やニーズを更新しながら掲載することによって、スタートアップとの共創のスピードアップを図っている。現在までに応募数は1千件を突破している」と満田氏は特徴を説明する。また、渋谷でオープンイノベーション施設「Shibuya Open Innovation Lab(SOIL)」を運営し、そこで毎年3月に共創の成果を発表するDemodayも開催している。
小田急グループではCVCやアクセラレートプログラムは行わず、同社が必要としている機能を提供するスタートアップと組む形で共創を実施している。具体的な社内の新規事業として立ち上げているのは、同社のサーキュラーエコノミー事業である「WOOMS」と米国RUBICON社との協業や、子育て支援に注力する中で同領域の複数のスタートアップと幅広く連携しているケースがあるという。「先に自社の取り組みを進める際に必要な要素や技術を探して、そこを事業領域とするスタートアップに我々から声を掛けてご一緒していることが多い」と、和田氏は同社での共創の流れを説明する。
西武グループでは、グループが保有する豊富なアセットを活用し様々な取り組みを実施している。「我々は鉄道に限らず、プリンスホテルや西武ライオンズ、不動産関連のハードアセットがあり、そこにソフトコンテンツをかけ合わせることで新たな事業を創出している」と小泉氏は語る。具体的な取り組みとしては、SPACERと駅や商業施設のスマートロッカーで商品の受け取りができる「bopista」サービスを開始し、2月時点で西武鉄道の駅を中心に56拠点で展開されているという。また西武造園が持つ公園管理ノウハウと、R.project社が有するアウトドア事業全般のコンテンツノウハウを掛け合わせて事業運営を行うジョイントベンチャー「STEPOUT」を設立し、バーベキューやキャンプ場の運営を中心にアウトドア事業を展開している。
このように各社はそれぞれスタートアップ共創による新規事業開発に取り組んでいるが、実はその中で課題が生じていたと澤田氏は明かす。「まずスタートアップにとっては、経営資源が限られている中で1社ずつとの連携では各社に提案しなければならないことや、個々に実証を進めても成果や影響力が小さいことから、次の取り組みや社会実装につながりにくい。一方で鉄道会社には共通の課題や現場のニーズがあるので、1社ずつの取り組みはお互い非効率的になってしまう」(澤田氏)
そこで、1社では解決できない“鉄道×スタートアップ”の様々な障壁を共創により乗り越えるため、2023年9月に鉄道大手4社が手を組んでJTOSを発足した。JTOSという名称は「Japan Transformation and Open-innovation Supporters」の略称であり、4社の頭文字でもある。
始動にあたり、初年度の取り組みとして「NATURE」「MOVE」「CULTURE」「WELL-BEING」の4テーマを設定。これまでにNATURE領域で環境スタートアップのバイオーム、MOVE領域では電動キックボードを展開するLuup、ウェルビーイング領域では、ITを活用した一時保育支援サービスを行うgrow & partnersとの共創を進めている。
バイオームとは、4社の沿線を対象に生き物を探して投稿してもらう「いきものGO」を実施した。参加者は楽しみながらデータを集め、4社は投稿された生物データを今後の街づくりや行政と連携しながら生態系の維持に活用する。結果として3か月間で8万件以上の生物データが記録され、その中には絶滅危惧種も400種類以上あったという。「行政も生物の定点観測をしているが、税金を使う必要がある。一方、ここでは楽しみながら調べてもらえるし、見つけた人には守っていこうという感情も生まれる。今後近隣の自治体にも声を掛けて、脱炭素に続いて世界的に情報開示が求められつつある生物多様性情報のデータベースを作ることも検討している」(和田氏)
Luupとは、東京でのマイクロモビリティ展開を中心に4社で連携することを検討する中で、第一弾として観光地の移動課題の解決や観光における移動を楽しくするという観点で、4社連携の実証実験を実施。各社保有またはゆかりのある観光地に電動キックボードを展開し、移動課題の解決を図る。「観光地ではドライバー不足問題があるので、移動の不便さを補うという趣旨でLuupと組ませていただいた。西武は秩父と飯能、JR東は武蔵五日市、東急は別府、小田急は秦野で展開していて、都内とは別の観点で普及を促進していくことを考えている」(満田氏)
grow & partnersとは、ウェルビーイングな育児の実現を目指し、鉄道系ならではの駅や電車のアセットを活用した一時保育サービス「駅いく」を展開していく。
「一時預かり中が、子どもが思う存分楽しめる時間や学べる時間であれば、預けることに対する抵抗感も軽減され、その時間が親のリフレッシュタイムになり子どもも親もハッピーになる。駅いくを通じて一時保育が前向きなものという認知の浸透を図り、誰もが当たり前に一時保育サービスを利用できる社会を作り、ウェルビーイングな育児を実現していきたい」(小泉氏)
現在JTOSでは4つのテーマで活動を開始しているが、そこに限らず広く共創を進めていく構えである。スタートアップが共創を希望する際には、まずJTOSのウェブサイトから応募し、JTOSがスタートアップの想いを聞いた上でメンバー各社がどんな支援ができるか、スタートアップが叶えたい未来や構想を実現できるかを議論し、できそうであれば実証実験を進めていくという流れとなる。各社の保有リソースの問題からJTOSとしては共創できないテーマの場合でも、個社での協業に繋がるケースもあるという。
セッションでは最後に、4名がそれぞれスタートアップに対する想いと、JTOSとの共創を促すメッセージを送った。
「我々の役割は、挑戦者の想いを受け取ってどうやったら社会実装できるかを一緒に考えること。鉄道のアセットを使ったり、コラボレーションしたりすることで、大きな展開や成果創出につながるはず。鉄道4社だけ、スタートアップだけでは発想できないことが対話の中で生まれてくると思うので、皆様と様々な話しをしたい」(澤田氏)
「我々には、スタートアップの皆様と中長期かつ1社だけでは解決が困難な社会課題やテーマに取り組んでいきたいという想いがある。バイオームの事例のように、生物多様性の時代が来るのが分かっていても、単独だとなかなか意思決定が降りないということが往々にしてある。これからやってくるであろう課題の領域で、皆様と4社で共創し、早い段階から解決に取り組んでいきたい」(満田氏)
「我々は短期的に稼ぐ事を得意としない業態。線路を引いて駅を作って街を作ってという企業が母体なので、夢物語のような大きな話を聞きたい。実現に向けては様々な課題があると思うが、そこを一緒に検証していって、素晴らしい未来があるという大きな絵を描いていきたいので、夢を持っている方々に応募してもらいたい」(和田氏)
「我々は大手といわれているが、コロナ禍を経て自社単独でできることには限界があると感じている。他社やスタートアップとコラボしていくことで、1が2、それ以上に増えていくと思うので、自分たちの力だけで何とかするのではなくて、間口を広げて多くのスタートアップの皆様とさまざまな話をしながら、自社だけでは考えられなかったようなコラボレーションを生み出し、世の中にインパクトを与えていきたい」(小泉氏)
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