スペイン・バルセロナで開催する「MWC Barcelona」に、国内の携帯電話事業者として最も多く出展しているNTTドコモは、「MWC Barcelona 2024」もブースを出展。同社が海外展開に力を入れている「OREX」や、5Gの次の世代となる通信規格「6G」に関する取り組みを中心としたアピールを展開していた。
中でも、ブース展示の中心になっているのが6Gだ。ドコモは6Gに向けた技術の研究開発に力を入れており、一層の高速大容量通信を実現するには30GHz以上のミリ波、そして100GHzとより高い周波数のサブテラヘルツ波などを使う必要があるとされている。一方でこれらは障害物に非常に弱いなど、扱いにくい周波数帯でもある。
そうしたことからドコモは、6Gの無線性能を評価するためのシミュレーターを開発。1つの基地局から多数のアンテナを分散して配置し、複数のアンテナから伝送することで高い周波数帯を用いても遮蔽物の影響を受けにくくする「分散MIMO」や、電波を反射する反射板を設置することなどにより、通信速度を改善するシミュレーションを実施している。
そしてもう1つ、6G時代に向けた取り組みとして注目されているのがNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)である。中でもドコモは、成層圏を飛行してスマートフォンと直接通信を実現する、空飛ぶ基地局ともされる「HAPS」(High Altitude Platform Staion)の研究開発に力を入れている。HAPSに関してもシミュレーターを開発し、電波の届き方などの検証を進めている。
これらシミュレーターは、これまで同社が実施してきた国内のイベントでも展示されていたもの。だがMWC Barcelona 2024では、より効果が分かりやすく伝わるよう、シミュレーターの内容を模型で再現。光と色で効果をより分かりやすく表現している。
ドコモは、6Gの活用事例の研究にも力を入れている。その代表的な取り組みが、通信で人間の感覚や動きを拡張する「人間拡張基盤」だ。MWC Barcelona 2024でもその人間拡張基盤に関するデモを実施しており、触覚に関するデモでは専用デバイスとVRヘッドマウントディスプレイを装着することで、仮想空間上の犬をなでたり、おもちゃを与えたり、散歩したりしながら触感や重さなどを体感することができた。
そして、もう1つ実施していたデモが、味覚と嗅覚に関するものだ。アンケートに答えた内容から自身の味覚・嗅覚の特性を割り出し、それをベースに人間拡張基盤を通じ、他の人が感じているのと同じ味や香りを再現していた。
ドコモのブースでは6Gだけでなく、それより近い5Gの時代に向けた取り組みもいくつか披露している。その1つが「OREX」に関する展示だ。
OREXは、基地局など無線アクセス機器の仕様をオープンなものにして特定のベンダーに依存しない環境を作る「オープンRAN」の海外展開に向けたブランド。ドコモはオープンRANの共通規格「O-RAN Alliance」の設立メンバーであるなど、古くからオープンRANに力を注いでいる。MWC Barcelona 2024に合わせて、OREXに関する取り組みもいくつか披露している。
中でも大きな取り組みとなったのが、日本電気(NEC)と合弁で新会社「OREX SAI」を設立したこと。OREXの海外展開を本格化する上で課題となっていた、現地での製品やサービスの提供体制を整えるための設立したもので、ドコモが持つ技術とNECが持つ海外での事業拠点を活用し、オープンRANの検証やインテグレートを進めるとしている。
そしてもう1つ、近いうちに実現する取り組みとしてアピールされていたのが、XRグラスだ。NTTグループでXR事業を手がけるNTTコノキューと、同社とシャープとの合弁会社であるNTTコノキューデバイスが開発しており、非常に軽量ながらクアルコム製のチップセット「AR2」を搭載するなど高い性能を持つ。カメラも搭載し、被写体の認識などもできるという。
MWC Barcelona 2024で展示したのはプロトタイプということで、実際に触れることはできず、バッテリー容量など細かな部分に関しては現時点では公開できないとのこと。ただし、高い性能を生かしてコンピューターのモニターを現実空間に投影するだけでなく、カメラを活用したバーチャル会議など、より高度なARサービスやソリューションを実現できるとしている。
なお、このXRグラスは2024年内の提供を目指しており、当初は法人向けに提供されるとのこと。一般消費者向けの販売は、現時点では未定とのことだ。
ドコモのブースでは、会期2日目となる2月27日にサプライズイベントがあった。それはNTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏と、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が一緒に現れ、メディア向けに囲み取材を実施したことだ。
ドコモとKDDIは競争相手であるというだけでなく、最近ではNTT法の見直しを巡り、NTTグループとKDDIら競合他社との対立が激しい状況にある。にもかかわらずなぜ、両社長が並んで登場するに至ったのかというと、そこにはMWC BarcelonaにKDDIが出展した経緯が大きく影響しているようだ。
というのも、2023年のMWC Barcelonaで高橋氏に会った井伊氏は、通信事業における日本のプレゼンスを上げるため、ぜひ一緒に出展して日本企業の存在感を打ち出してほしいと打診。それが2024年のKDDI出展につながったという。
MWC Barcelonaでは中国や韓国などの企業ブースが非常に目立つ中にあって、日本企業は撤退やブースの規模縮小が相次ぎプレゼンスが大きく低下していることから、携帯大手2社の出展により日本のプレゼンスを上げていきたい狙いがあるようだ。
そうしたことから、両社のブースは共に近い場所に存在しているだけでなく、互いのブースで配布している畳のコースターを並べると絵柄が揃うなど、相互送客でも協力を実施している。ちなみに互いの展示内容に関して、井伊氏はKDDIの出展内容がすぐ海外展開できるものだと評価する一方、高橋氏はブースの集客力に驚きを見せるなど、やはり高く評価している様子だった。
一方、国内の携帯電話会社としては、楽天モバイルの親会社となる楽天グループも出展している。楽天グループのブースは2社と離れた位置にあり、連携していない。ただし、高橋氏が三木谷氏とMWC Barcelona会場で話をしたことを明らかにするなど、楽天グループと何らかのコミュニケーションはしている様子だ。井伊氏は、楽天グループ側の戦略にもよると断りを入れながらも、両社が力を入れているオープンRANの取り組みで今後何らかの協力をしていく可能性を示唆した。
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