巷でしばしば話題になるのが、おじさん構文・おばさん構文だ。世代間での「LINE」の違いが興味深いこと、自分がおじさんおばさんと若者側のどちらになるのかが気になるためだろう。
このテーマを取り上げた番組で、大人世代のタレントがよく「おじさん側」「おばさん側」とショックを受けているが、実際は世の中の大半がおじさん・おばさん側だ。世代間のLINEの使い方の違いと理由、対処法について解説したい。
おじさん構文とは、元々、「おじさんLINE」という大人世代のLINEの文章の特徴を指す言葉から始まっている。2017年、テスティーが女子高生の間でおじさんLINEごっこが流行っていることを調査したのが走りだ。高校生と大人世代はLINEの文章が違うことに注目が集まった。
おじさんLINEの特徴は、文章が長文、句読点や改行が多い、絵文字や顔文字を多用、カタカナを多用、「〜チャン」呼ばわりをしてくる、聞かれていないのに連投してくる、自分語りをしてくる、などだ。
中学生の息子から、おじさんが使いそうな文章を自動作成できる「おじさん文章ジェネレーター」などを使って、おじさんLINEごっこをして遊んでいると聞いた。大学生におじさんLINEを見せると、やはり「お父さんがしてる」「バイト先の店長がこれ」と盛り上がっていた。大人世代には自覚はなくても、若者世代から見ると明らかに世代間でLINEの使い方は大きく異なるのだ。
おばさんLINEは、この女性版だ。小さいあいうえおなどを語尾につけたり、キラキラやハートなどの絵文字を多用したりなど、おじさんLINEの女性版となっている。
大人世代のLINEの特徴は、ガラケーメール文化のためだ。ガラケー時代に学んだメールコミュニケーションをそのまま実践している状態なのだ。
要件があるときのみ送るので文章は長くなり、読みやすくするために句読点や改行が多くなる。相手がいつ読むかわからないので、誤解をなくすために絵文字や顔文字などでポジティブなメッセージであることを伝える。カタカナの多用も軽く楽しいメッセージにするためだ。つまり、相手への気遣いでこのようなメッセージとなっているのだ。
一方若者世代は、LINEをチャットのようにやり取りしている。本来句読点を打つべきところで既に送っているので、句読点は使わない。相手を待たせないために絵文字顔文字なども使わない。大人世代から見ると、誤解されるのではないかと心配するようなシンプルなやり取りに終止する。こちらも、相手を待たせないという気遣いによってこのような文章となっているのだ。
LINEでコミュニケーションを始めたLINEネイティブの若者世代は、チャットのように利用する。一方、ガラケーメールから利用していた世代はおじさんおばさん側の使い方になっていると考えられるのだ。LINEは2011年誕生だ。つまり20代はLINEネイティブの可能性が高いが、それより上の世代は違う使い方となっている可能性が高いのだ。
最近、「マルハラ」という言葉も話題となった。マルハラスメント、通称「マルハラ」は、若者が上の世代にLINEで句点がつくメッセージを送られた時に、「怖い」「冷たい」などと感じる現象を指すようだ。この言葉を不本意に感じ、不満を感じた大人世代は多かったのではないか。
大人世代にとっては当たり前の句点だが、若者世代にとってはまず使わず、見かけもしないものなのが背景にはある。普段見かけないため、ついているとそこに意味を見出してしまうのだ。それが「怖い」「冷たい」「威圧感がある」という感覚になる。
実際、若者世代はあまり気乗りがしないという意味で、返答にあえて句点をつけて送ることがある。「承知しました」はフラットな意味だが、「承知しました。」は本心ではあまり気乗りがしないということ。「承知しました!」「承知しました笑」などは大賛成、というように使い分けているのだ。
LINEを送っただけでおじさん、おばさんと呼ばれ、文章にマルをつけただけでハラスメント呼ばわりをされれば、困惑するのも当たり前だ。しかし、実際にはマルハラなどは存在せず、メディアでそのように呼ばれているだけだ。
LINEの使い方に正解、間違いなどはない。若者世代がそのように使っているからと言って、大人世代が合わせる必要はない。それぞれの使い方が違うだけであり、理解することでコミュニケーションがスムーズになるというだけのことなのだ。
ただ、若者世代が大人世代とやり取りする場合は、上下関係や力関係も働き、どうしても萎縮しやすくなってしまう。句点をつけて送ることで怖がられてもメリットはないので、できれば大人世代から送る場合は句点は除いて送る方が親切なのではないか。
普段から気遣いの言葉をかける、人間関係を築いておくなどにより、メッセージだけでトラブルになる心配もなくなるはずだ。LINEだけで親しくなろうとせず、相手への気遣いこそが求められるのだ。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」