NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、2019年から共創型の事業創出を目的としたオープンイノベーションプログラム「ExTorch(エクストーチ)」を実施している。ExTorchは、最初の2年間は年に1回の公募によるイベント型で運営し、その中から新規事業も誕生。さらに2022年の途中からは、オープンイノベーションをより身近なものとするべく、従来の出島的な“活動”から、通年型でマッチングを支援する組織に根差した“機能”へと進化を遂げている。ExTorchの現在地について、事務局を運営する同社イノベーションセンター プロデュース部門のメンバーである木付(きづき)健太氏、斉藤久美子氏、八塩(やしお)初奈氏、野坂佳世氏 に聞いた。
ExTorchは、スタートアップを中心としたパートナー企業のサービスや技術と、NTT Comのサービスやアセットを掛け合わせ、新たな価値を共創することを目的とした同社起点のオープンイノベーションプログラムである。当初は社内でテーマを定め、外部に公募をかけてマッチングをし、事務局のメンバーが半年間伴走しながら共創の成果をDemodayで発表するという一般的なイベント型で始動し、2022年の途中からは、社内からの要望を受けてその都度マッチングを行う通年型メニューにシフトしている。
具体的な成果としては、まず1期目は4つのテーマを用意し、6件のプロジェクトを採択。その中から、3i Incとの共創で実現したデジタルツインを活用したファシリティマネジメントサービス「Beamo(ビーモ)」が事業化に至り、グループ会社のNTTビズリンクからリリースされている。そのほかにも、メトロウェザーと共創した風況データSaaSプラットフォーム事業も直近の事業化を見据えている。2期目は、5つのテーマで5件のプロジェクトを採択し、その中から現在3件が事業化検討を継続中となっている。
1期と2期の取り組みについて、ExTorchの企画・立ち上げメンバーであるイノベーションセンター プロデュース部門の八塩初奈氏は、「当初は半年間の共創の取り組みによって事業化の種を増やしていくことを目標としていたので、想定通りに進んでいる」と総括する。ExTorchで共創を促進するために工夫した点として同氏はまず、テーマオーナーの設置を挙げる。「マッチングを行うにあたって社内に熱意を持ったテーマオーナーを立て、どのような課題感があるかを具体的に社外に発信したことで、適切なスタートアップが集まってくれた」(八塩氏)という。
また知財面で、スタートアップが競争優位性を確保できるように配慮したこともポイントとなっているという。ExTorchの取り組み外の事業拡大にあたり活動の制約はせず、相手の特許取得も支援する。同活動における知財方針は、特許庁主催の「IP BASE AWARD」で奨励賞も受賞している。「知財から法務まで、あらゆるスタッフを巻き込んで制度設計をした」と八塩氏は語る。
マッチング相手となるスタートアップとの関係性構築も、共創を円滑に進めることができた要因になっている。ExTorch事務局が直接共創候補となるスタートアップの責任者と対話し、社内チームと双方の相性を見た上で紹介したという。第1期からマッチングの支援をしているイノベーションセンター プロデュース部門の斉藤久美子氏は、スタートアップとのマッチングのポイントとして“対話の力”を挙げる。「どのような思いで事業を立ち上げたか、我々にどのような期待をしているのか、一緒に描ける未来を同じ目線で話してもらえそうな人なのかを見ることにした。こちらからの質問や説明に対して、突っ込んだ話を返してくれたり、遠慮なく質問をしてくれたりといった具合にコミュニケーションの部分を重視し、その上で我々と相手との共創でより大きな事業を創る未来が描けそうなシナジー面も冷静に判断して、マッチングさせていただいた」(斉藤氏)
そうした取り組みを重ねた成果として、開始から11件のマッチングを実施し、その中から半分近くが事業化および事業化検討に至ったが、ExTorchでは一旦イベント型の取り組みを停止している。狙いは、さらなる共創の加速だ。現在は、それまでの公募で選んだパートナーと1年かけて新しい事業創出を目指すという形から、事務局がスタートアップと各部署との間に入って事業組織の課題や要望に併せて柔軟な支援をしながら、新規事業の創出やオープンイノベーションを加速させていく即時対応型プログラムへと変革を遂げている。
ExTorchの責任者を務めるイノベーションセンター プロデュース部門 主査の木付健太氏は、ExTorch変革の趣旨について「しっかりとマッチングをした上で、私たちが間に入りサポートをしながら進めていけば共創の成果が出るということには、第2期までである程度自信がついた。一方で、プログラムに後から参加したいという要望や、マッチングに限らずスタートアップの情報を教えて欲しいという声には対応できていなかったので、2022年から社内外の要望にタイムリーに答えるという方向に転換し、事務局が伴走してスタートアップとマッチングして新規事業を起こすという部分は残しつつ、スタートアップと共創する機能を幅広く提供するような形に生まれ変わった」と説明する。
現在のExTorch活動は、下図のとおり事務局がスタートアップを中心とした外部企業の情報を事務局が取り込み(インプット)、NTT Comの各部署でアセットを持っている人達に情報を提供したり、実際にマッチングをしたりする(アウトプット)形となる。その際にスタートアップの探索はするが、「探索をするというよりは、支援機能を持ってビジネスにつなげていく部分に軸足を置いている」(木付氏)という。具体的な支援内容としては、マッチングに加えて企画立案の壁打ち・伴走、業界動向の調査レポートの提供、広報・知財・法務の支援、予算支援など幅広く行う建付けとなっている。
マッチング相手となるスタートアップの選定に際しては、それまでの活動で蓄積された情報に加えて、NTTドコモ・ベンチャーズやNTTイスラエル、NTTファイナンスというNTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)やグループ会社に情報を伝えて、「グループの力を結集して、事業部とマッチングできそうな適切なスタートアップを選んでいる」(木付氏)という。
社内から要望を受けてスタートアップを紹介する前にも、いきなり共創相手を探し始めるのではなく、まずExTorch事務局が市場性やスタートアップの情報をまとめたレポートを作成し、それを基にディスカッションをしてから方向性を定める「レポート施策」を実施している。適切な情報を基にしっかりとすり合わせをした上で事業化可否の判断も行い、事業コンセプトも決め、適切なスタートアップとマッチングすることによって事業化の確度を上げていく。「レポートをベースにディスカッションをすることで、事業部から最初は掘り出せなかったニーズや世界観を引き出せることも多く、共創に際しても納得感を持って事業部・スタートアップと話を進めていくことができる」と、同施策を活用して2023年から進行中のプロジェクトに伴走しているイノベーションセンター プロデュース部門 野坂佳世氏は話す。
このような形でExTorchが通年型の取り組みに移行したことで、支援内容の拡充と共にExTorchと事業部、ExTorchとスタートアップと接点が増え、結果として2023年度は約30件の問い合わせが寄せられたという。もちろん依頼には濃淡があり、市場調査や指名したスタートアップとのつなぎを希望するような軽い依頼は報告や紹介にとどめ、新サービスを作って新しい価値を提供していくような共創の取り組みに対して、前述のレポート施策のような手厚い支援を行い、社内の共創型新規事業創出を支援する形となっている。
「共創を成功に導くためには紹介や伴走も必要だが、それ以外のかゆいところに手が届く形で広報、知財、法務も支援する。業界調査レポートを出して取り組みの意義付けもするし、予算も付ける。ExTorchは、探索から自走するまで手厚く支援できるプログラムに進化している」(木付氏)
ExTorch事務局では今後の活動の方向性として、社内にさらに共創文化を浸透させていくことと、NTTドコモグループへの拡大という2点を掲げる。「今は我々が情報を提供しながら共創型事業開発を推進している形だが、これからはそれが社内で自然発生的に起こるようにしたい。また、現状ではNTTドコモ、NTTコムウェア、当社とそれぞれの事業領域が分かれている中でオープンイノベーションを進めているが、3社でより大きなオープンイノベーション活動に繋げていきたいと考えている」と木付氏は語る。
ExTorchCNET Japanでは2月19日からオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2024 1+1=2以上の力を生み出す『コラボ力』」を2週間(2月19〜3月1日)にわたり開催する。2月20日には、NTTコミュニケーションズの堀優氏と木付健太氏、とマリスcreative designの和田康宏氏が、「NTTコミュニケーションズのオープンイノベーション事例のご紹介 〜九工大発スタートアップのマリス社とNTTComの共創〜」をテーマに登壇する。後半では質疑応答の時間も設けるので、ぜひ参加してほしい。
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