シャープは、2023年度第3四半期(2023年4~12月)の連結業績を発表。そのなかで、2023年度通期業績見通しを下方修正し、2023年度の必達目標としていた「黒字化」の旗を降ろすことになった。
シャープ 副社長執行役員 CFOの陳信旭 (Branden Chen)氏は、黒字化の目標が未達になる要因として、「内部要因と外部要因の双方がある。ブランド事業ではいい進捗を遂げてきたが、デバイス事業はコスト削減が十分ではなく、収益が想定通りにはならなかったことが大きい」と述べた。
2023年度(2023年4月~2024年3月)通期の業績見通しは、売上高は前回公表値から2100億円減額となる前年比7.8%減の2兆3500億円。営業利益は400億円減額のブレイクイーブン、経常利益は350億円減額の40億円、当期純利益は200億円減額のマイナス100億円とした。
シャープ 代表取締役 副社長執行役員の沖津雅浩氏は、「PCやスマホ、タブレット向けの中小型ディスプレイの市況が非常に厳しいため、業績予想を修正した。だが、業績は回復基調にある」と説明。シャープ 常務執行役員 管理統轄本部長の小坂祥夫氏は、「営業利益を赤字にしないことが、いまのターゲットになる」と語った。
また、シャープ 副社長執行役員 CFOの陳信旭(Branden Chen)氏は、「世界のビジネス環境が急速に変化しており、多くの課題と機会が目の前にある。消費マインドの低迷により、可処分所得を消費に回せない状況である」と外部要因による影響を示す一方、「シャープは、9カ月間に渡り、さまざまな変革を行うとともに、各種施策により、収益拡大、コスト削減とともに、新たな製品を生み出す努力をしてきた。ブランド事業ではいい進捗を遂げてきたと考えている。だが、デバイス事業では黒字に転換するためのプログラムが進行中ではあるものの、コスト削減は十分には達成できていない。デバイス事業における収益が想定通りにはならなかったことが大きい」と、内部要因についても言及した。
ブランド事業においては、「強いテクノロジーブランドの企業になるというゴールに向かって進んでおり、イノベーションセンターやインキュベーションセンターを作り、ビジネスの強化にも取り組んでいる。これらの努力をさらに加速する必要がある」とし、「世界の市場から見ると、シャープのブランド事業の知名度は高いとはいえない。低いシェアを改善していく必要がある。そこには、多くの成長機会があり、新たなビジネスや新たな高付加価値製品を作り出して、ゲームチェンジャーとして新たな技術を生み出し、新たなトレンドを生み出す可能性がある」と述べた。
一方、デバイス事業については、「ディスプレイは、今後、ゆっくりとした回復基調に転じると予測しており、開源節流の精神で事業を行っていくことになる。なかでも、大型ディスプレイについては、パネル価格の安定化と追加受注により、利益率が改善している。中小型ディスプレイは製品の多様化と、製品カテゴリーの拡大を進めることになる。また、工場の資産合理化や収益率向上、効率性の改善にも取り組む」と述べた。
さらに、2024年度に発表する予定の新たな中期経営計画の方向性についても言及した。
陳CFOは、「シャープは、変革の旅において、企業の基盤強化、利益率の改善、事業の効率化、長期的な成功を目指している」と前置きし、「中期経営計画の策定に時間がかかっているのは、範囲が広く、複雑な事柄が絡んでいることが理由である。ブランド事業の成長戦略のほか、ディスプレイビジネスの構造改革、鴻海との連携や協力の可能性、SDP(堺ディスプレイプロダクト)の変革などを盛り込むことになる。SDPは世界レベルの施設を持っている。十分な土地や建屋、水や電気のインフラが整っており、大きなインセンティブがある。あらゆる可能性を探りながら、インフラ全体のフル活用を目指すことになる」と述べた。
さらに、「中期経営計画の鍵は、事業ポートフォリオを最適化し、高成長、高収益を実現し、市場の機会をしっかりと捉えることである。変化する市場に対応するために、深堀りした議論を進めており、社内外のステークホルダーの意見を取り入れていくことが中期経営計画の成功には肝要である」などと述べた。
中期経営計画においては、資本政策についても検討する必要性に触れる一方、ディスプレイデバイスの黒字化の時期については明確にしなかった。
シャープが発表した2023年度第3四半期累計の売上高は前年同期比10.3%減の1兆7647億円、営業利益は前年同期のマイナス25億円の赤字からマイナス35億円の赤字に拡大。経常利益は前年同期のマイナス18億円の赤字から、65億円の黒字に転換。当期純利益は前年同期のマイナス89億円の赤字から、20億円の黒字となった。
シャープの沖津副社長は、「第3四半期累計では、営業利益が減益となったが、経常利益および最終利益は増益となり、最終黒字となった。ブランド事業を中心に、本業の回復が進んでおり、営業利益は第1四半期以降、着実に改善している」と述べた。
第3四半期(2023年10~12月)の売上高は前年同期比14.5%減の6064億円、営業利益は前年同期のマイナス35億円の赤字から22億円の黒字に転換。経常利益はマイナス110億円の赤字から35億円に黒字化。当期純利益は前年同期のマイナス184億円の赤字から改善したものの、マイナス29億円の赤字となった。
「各利益とも前年同期を上回っている。本業の収支となる営業利益は第2四半期からも改善している。課題事業であったPC事業や通信事業などの構造改革に取り組んだスマートオフィスおよびユニバーサルネットワークの営業利益が大幅に改善した」と総括した。
2023年度第3四半期累計のセグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年同期比4.6%減の9904億円、営業利益は10.8.6%増の461億円となった。
そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年同期比9.9%減の3299億円、営業利益は16.8%減の195億円。第3四半期(2023年10~12月)においては、白物家電事業が増収となったものの、エネルギーソリューション事業が減収となった。「白物家電は国内が減収、海外が増収。国内では個人消費が旅行や外食にシフトしたことで、白物家電市場全体が低調であったこと、調理家電などの流通在庫の抑制を進めた影響があった。だが、美容家電が大幅に伸長した。欧米では調理家電の市況が低迷したが、ASEANではエアコンの新工場の立ち上げ効果や、高付加価値冷蔵庫が伸長した」という。
スマートオフィスは、売上高が前年同期比1.8%増の4217億円、営業利益は267.3%増の189億円。ビジネスソリューション事業、PC事業ともに増収増益となっている。「プロジェクターが北米市場低迷の影響を受けたが、MFP事業やオフィスソリューション事業が欧米を中心に大きく伸長。PC事業は、市況が低迷するなか、法人向けプレミアムモデルが好調であり、国内法人向け市場および官公庁向け市場においてシェアが拡大した」という。PC事業の構造改革効果や高付加価値化の成果も出ているという。
ユニバーサルネットワークは、売上高が前年同期比7.2%減の2386億円、営業利益は前年同期のマイナス65億円の赤字から、76億円の黒字に転換した。テレビ事業が増収となったものの、通信事業は減収となった。「テレビは価格競争の影響もあり、中国では減収となったが、国内では高付加価値モデルの販売が増えて増収になった」という。
一方、デバイス事業の売上高は前年同期比17.1%減の8092億円、営業利益は前年同期のマイナス140億円から赤字が拡大し、マイナス371億円。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年同期比23.6%減の4770億円、営業利益が前年同期のマイナス273億円の赤字から、マイナス494億円へと赤字が拡大した。スマホ向けパネルの需要低迷、PCおよびタブレット向け中小型パネルの回復遅れがマイナスに影響。だが、大型ディスプレイは需要の改善と、売価回復により、赤字が改善しているという。2024年度以降は、PC需要の回復とともに、PC向けパネルの価格が回復すると想定していることも明らかにした。
「シャープでは、LCDとOLEDの特徴を持ったnano LEDの開発に注力しており、オンリーワン技術のディスプレイとして早期に商品化することで、世の中に打って出たい」とも述べた。
エレクトロニックデバイスは、売上高が前年同期比5.7%減の3322億円、営業利益は前年同期比7.7%減の122億円となった。センサーモジュールの顧客需要の変動影響と、ディスプレイ需要の低迷によりLCDドライバが減少し、減収減益になった。
なお、パナソニックや日立グローバルライフソリューションズが先行している指定価格制度の導入については、「注視している最中である」と、これまでの発言を繰り返し、「価格の維持とともに、付加価値商品の開発期間が2年に延ばせるというところに価値を感じている。お客様にとってもメリットがある。しかし、この仕組みを導入するには製品が強くなければいけない。強い商品を準備していきたい。『AQUOS』ブランドのテレビや、プラズマクラスターイオンの空気清浄機、『ヘルシオ』はやればできるが、時期を注視している」と述べた。
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