KDDIは2月2日に、2024年3月期第3四半期決算を発表。売上高は前年同期比2.0%増の4兆2655億円、営業利益は前年同期比0.4%増の8479億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会に登壇した、KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏によると、引き続き楽天モバイルへのローミング収入が減少している一方で、法人事業や金融事業などの注力事業が順調に成長して増益を達成したとのことだ。
とりわけ法人事業に関しては、企業向けソリューションなどを主体とした「NEXTコア」と呼ばれる事業の売り上げが9121億円と、前年同期比30.4%増に達するなど大きな伸びが続いているという。そこでKDDIは新たに、法人事業ブランド「KDDI BUSINESS」を立ち上げ、デジタルトランスフォーメーション関連のソリューション事業を推進する方針を示している。
主力の通信事業に関しては、通信ARPU収入が第3四半期までの累計では前年と同水準であるものの、第4四半期には増収が見込まれているとのことで、政府主導の通信量品引き下げの影響から脱した様子を見せている。そこで高橋氏は、今後の5Gを主体とした通信事業に関する成長戦略として2つの取り組みを掲げている。
1つ目の取り組みはARPU収入の持続的成長だ。「au」「UQ mobile」などの通信サービスと、金融やエネルギーなどの付加価値サービスとの連携をさらに強化し、顧客のARPUとLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)を最大化するのがその大きな狙いになるという。
そのための基盤となる通信サービスのマルチブランドIDは、UQ mobileを中心とした新規契約が伸びて前年同期比36万増の3106万に達したほか、通信ARPU、付加価値ARPUともに増加傾向にあるとのこと。顧客のニーズも徐々に変化しているそうで、5Gの広がりによってデータ通信需要が高まっており、auで約8割、UQ mobileで約7割が中・大容量プランを選択している一方、auからUQ mobileに移行する顧客の比率は低下しているとのことだ。
ただ、契約数の増加には、2023年12月27日に電気通信事業法が一部改正され、いわゆる「1円スマホ」に規制がかけられたことから、その直前の駆け込み需要が大きく影響しているようだ。それだけに規制後の反動が気になる所だが、高橋氏によると2024年1月の2週目くらいまではその反動を受けたというが、それ以降は平常時の水準に戻っているとのことだ。
ちなみにこの法改正に合わせ、ソフトバンクが1年での機種変更を前提とした端末購入プログラム「新トクするサポート(バリュー)」を開始、それを生かして一部機種を「実質12円」など格安価格で販売している。その影響について高橋氏は、2024年1月の動向を挙げ「最初どうかなと思ったが、1年で買い替える時代ではないので、あまり大きな影響にならなくてよかった」と回答、影響が小さいことから積極的追随する様子は見せていない。
一方、付加価値サービスの領域でも、新NISA開始の影響によって資産形成に対する関心が高まっているとのこと。それだけに、ニーズの変化に合わせて提供した「auマネ活プラン」は「大変好評頂いている」(高橋氏)とのことで、今後もニーズに合わせたサービスの提供でARPUの増加と解約率の低減を図るとしている。
そしてもう1つの取り組みは通信品質向上であり、4Gと一体で運用するノンスタンドアローン(NSA)運用の5Gのエリアに関しては、2024年3月末までに5G基地局を約9万局設置するなどして体感品質の強化を図るとのこと。
また、2024年度からは5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用の5Gネットワーク整備を本格化し、6GHz以下の「サブ6」と呼ばれる周波数帯を活用した基地局の整備を積極化するとしており、約3.4万局と「業界最多のサブ6基地局を設置予定」(高橋氏)と話している。
サブ6の本格活用に踏み切った背景には、同社に割り当てられているサブ6の主要周波数帯である3.7GHz帯と衛星通信との電波干渉が、衛星通信事業者側の対応により解消する見込みが立ったことが大きいようだ。
高橋氏は、「電波干渉がなくなると(大きな)パワーで電波をふける(出力できる)」と話し、干渉を避けるため出力を抑えていたサブ6の基地局の通信品質も、今後大幅にアップするとしている。
一方、利用が進まないとして国が課題意識を抱いているミリ波に関して、高橋氏は基地局整備を「開設計画通りに進めている」と話すが、遠くに飛びにくいなど使い勝手が悪いため使い方に工夫が必要だと回答。ミリ波対応端末への購入補助を議論している総務省の動きを見ながら、さまざまな検討を進めると答えるにとどまっている。
高橋氏は、能登半島地震での取り組みについても改めて説明、衛星通信の「Starlink」の積極活用や、NTTドコモと共同で船舶基地局を展開するなど通信事業者間の連携を進めるなどして、早期の復旧を図ったという。その後の道路や電力の回復などもあって既に97%のエリアは何らかの形で復旧しているそうで、道路の復旧が進んでいない地域に関しても、開通後3日以内に復旧を図りたいと話している。
ただ、今後の本格復旧に向けては、基地局が倒れるなどして物理的に壊れてしまい、作り直すしかない所もあるとのこと。具体的な被害額はまだ算定できていないというが、およそ数十億に上るとの見解を示している。
とりわけ今回の震災における復旧作業で多く活用されたのはStarlinkだが、現在ではソフトバンクやドコモも取り扱いを始めており、KDDIの優位性が徐々に薄れてきている。
だが高橋氏は、Starlink側から「日本人は使うのがうまい」と評価されていることを明らかにしており、KDDIではStarlinkに付加価値を加えサービス提供できることを強みとして、販売を強化したい考えのようだ。
それに加えて高橋氏は、「年内には(衛星とスマートフォンとの)直接通信をできるようにし、強みにしていきたい」とも話している。衛星との直接通信で提携しているのは、国内ではKDDIのみとなることから、その実現が動向を大きく左右する可能性がありそうだ。
また、今後の取り組みとして、高橋氏は2月25日からスペインで実施される携帯電話の見本市イベント「MWC Barcelona」に出展することを改めて説明。LX(ライフトランスメーション)をテーマに、KDDIの取り組みを海外にアピールしていきたいとしている。
KDDIは今回の決算に合わせて新たな人事も発表しており、高橋氏はグローバルでの事業拡大に向け、代表取締役執行役員副社長の雨宮俊武氏からグローバルコンシューマ事業本部担当を引き継いでいることから、MWC Barcelonaへの出展は海外での事業拡大に向けたものと見られる。
ただKDDIは、データセンター事業の「Telehouse」やコネクテッドカーを中心としたIoT通信事業など海外での事業をいくつか展開しているものの、オープンRANの技術やソリューションの輸出を目的に出展しているNTTドコモや楽天モバイルと比べると、MWC Barcelonaへの出展意図が明確ではないように見える。
この点について高橋氏は「輸出が全てとは思っていない」と答えている。そもそも出展に至ったのは、2023年のMWC BarcelonaでNTTドコモ 代表取締役社長の井伊基之氏に、大規模イベントにおける日本企業のプレゼンスがだいぶ下がっていることから「一緒に展示しないか」と言われたのが契機だったそうで、展示会における日本企業のプレゼンスを向上させる狙いも大きいようだ。
ちなみに高橋氏は、今回の人事で雨宮氏から、渉外・コミュニケーション統括本部長も引き継いでいる。その理由について、「NTT法など大きな課題があるので、陣頭指揮をとりながら対応したい気持ちを込めてやっている」(高橋氏)と答えている。
それだけに高橋氏は、説明会の最後にNTT法について改めて意見を表明。今回の能登半島地震で「安定して通信できる本復旧は光ファイバーが前提」と、携帯電話のネットワークがNTTグループが持つ“特別な資産”を基に構築されていることを改めて実感したとし、「国民生活が脅かされる非常時も利用できるよう、NTTが特殊法人としてしっかり維持管理する責務を持つと思っていて、それを担保できる仕組みを法的に支えるのがNTT法」と、改めてNTT法が極めて重要な存在だと話す。
その上で、「2025年に(NTT法を)廃止するという時限付きであることを前提に議論が進むことに、非常に違和感を覚えている」(高橋氏)と、自民党のプロジェクトチームの提言により議論が強引に進められていることを強く批判。今後もNTT法廃止に反対するための主張を続けていくとしている。
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