先日、ある韓国料理店に予約の電話を入れた。電話に出た相手は英語を話さなかったが、意思の疎通に問題はなかった。「Galaxy S24 Ultra」を試用中だったからだ。これは、サムスンが米国時間1月17日に発表した3つの新型スマートフォンの1つだ。
サムスンは、他のテクノロジー企業の例に漏れず、人工知能(AI)に注力している。Galaxy S24シリーズには、冒頭で紹介した通話翻訳機能をはじめ、生成AIを活用した機能がいくつも搭載されている。生成AIとは、大規模言語モデルをもとにコンテンツを生成したり、質問に会話形式で(必ずしも正確ではない)答えを返したりすることのできるAIだ。生成AI機能を満載したGalaxy S24シリーズの登場は、スマートフォン市場が伸び悩むなか、大手テクノロジー企業が自社製品の差別化やスマートフォンの買換え促進のために、AIを積極的に活用するようになっていることを示している。
Galaxy S24 Ultraの価格は1299ドル(約19万円)。2023年に発売された「Galaxy S23 Ultra」よりも100ドル(約1万5000円)高い。「Galaxy S24+」「Galaxy S24」とともに米国では1月31日に発売予定だ。
Galaxy S24シリーズでは、メモアプリを使って自動で文章を成形・要約したり、調べたい画像を丸で囲むだけで検索を実行したり、テキストメッセージを送る前に文章のトーンを変更したりできる。こうした機能をまとめて「Galaxy AI」と呼ぶ。Galaxy AIはGalaxy S24、Galaxy S24+、Galaxy S24 Ultraに初搭載されるが、今後のアップデートを通じて、Galaxy S23シリーズでも利用できるようになる。
Galaxy AIの一部の機能は、特に目新しいものではない。すでにGoogleやMicrosoftが提供している生成AIツールとよく似ている。実際、文章の書換えやメモの要約、写真の中のオブジェクトの移動といったAI機能は、Googleの技術を使って実現している。
Galaxy S24 Ultraの見所は他にもある。例えば望遠カメラが強化され、本体の素材に初めてチタニウムが採用された。また、Galaxy S24シリーズの3機種すべてがQualcommの最新プロセッサーを搭載しており、ディスプレイも明るい。
Galaxy S24シリーズの発表前に短時間だが実機を試す機会があったので、ここではGalaxy S24 Ultraの第一印象を伝えたい。
Galaxy S24シリーズと、過去の機種との最大の違いはGalaxy AIの有無だ。しかし、近い内にGalaxy S23シリーズでもGalaxy AIを利用できるようになる。以下は、Galaxy AIの主な機能だ。
筆者はGalaxy S24 Ultra上で、これらの機能をあらかた試してみたが、サムスン側が用意したデモ環境だったことを差し引いても、十分に簡単と言えるレベルで使えた。リアルタイム翻訳は少々慣れが必要だったが、コツをつかめば韓国語を話す相手とも難なく会話できることに感動した。
リアルタイム翻訳を使うには、Galaxy S24 Ultraの連絡先リストから電話をかけたい番号をタップし、「リアルタイム翻訳」を選択する。話し終わると、筆者が話した内容がほぼ瞬時に韓国語に翻訳された。相手が返事をすると、その言葉を今度は英語に翻訳してくれた。旅先で重宝しそうな機能だが、自分や相手がこの機能に慣れていなければ、最初は混乱が起きそうだ。
Galaxy AIの多彩な機能の中でも、特に利便性が高いと思われるのが「かこって検索」だ。「Googleレンズ」と似ているが、新たに写真を撮らなくても、既存の写真を開き、調べたいものを丸で囲むだけでいい。写真を開き、ホームボタンを押したまま、検索したいオブジェクトを丸で囲む。今回は、Galaxy S24 Ultraの写真ギャラリーからブランチの写真を開き、ワッフルを丸で囲んでみたところ、Googleがワッフルを食べられる近隣のレストランを検索してくれた。
デモ会場にいた人の靴を写真に撮って丸で囲むと、今度は同じ靴を手に入れる方法が瞬時に表示された。この機能はGalaxy S24 UltraのSペンを使う方が楽だが、ペンがないGalaxy S24やGalaxy S24+でも指で対象物を囲めば検索できる。
Samsung Notesアプリも進化し、長いテキストを自動で整理し、箇条書きで表示してくれるようになった。テンプレートも複数用意されている。ジェネレーティブ編集はGoogleの「消しゴムマジック」とよく似た機能で、写真内の特定のオブジェクトを移動したり、消したり、さまざまな処理を加えたりできる。
デモでは、技を決めているスケートボーダーが映った写真を開き、その周囲をなぞって移動させることで、より高くジャンプしているように見せる方法が披露された。サムスンとGoogleは、こうした機能をクリエイティブな用途に役立つものと位置づけ、宣伝している。写真編集の知識がなくても、スマートフォンから直接、写真に大胆な加工を加えられるからだ。しかし、この機能が悪用される可能性は否定できない。
写真の編集関連では、不要な映り込みを除去してくれる機能に注目している。仕事柄、ディスプレイを撮影することが多く、反射や映り込みにはいつも悩まされているからだ。この機能は、旅先で車やバス、電車の窓越しに写真を撮ることが多い人にとっても便利だろう。
Galaxy S24のAI機能が生産性を最重要視していることは明らかだ。しかし、多くの機能は新しさよりも、むしろ馴染みがあるものに感じられる。Galaxy AIは、Galaxy S24シリーズでのタスク処理を容易にしてくれるかもしれないが、何かきわだって斬新な機能を実現しているわけではない。Galaxy S24 Ultraを長く使っていけば、また別の感想になる可能性はある。
Galaxy S24 Ultraを前世代と比較した時、物理的に最も大きな差は5000万画素、光学5倍ズームの望遠カメラの存在だ。これはGalaxy S23 Ultraに搭載されていた1000万画素、光学10倍ズームカメラに代わって追加されたもので、ズーム倍率がスペックダウンしているように見えるが、10倍ズームより5倍ズームの方がニーズがあるという判断によるものだろう。この変更により、ズームで撮った写真の鮮明度が向上すると期待されるが、確実なところは長く使ってみなければ分からない。
前述した望遠カメラを除けば、Galaxy S24 Ultraのカメラシステムは基本的にGalaxy S23 Ultraと同じで、2億画素のメインカメラ、光学3倍ズームを備えた1000万画素の望遠カメラ(および新しい5000万画素、光学5倍ズームの望遠カメラ)、1200万画素の超広角カメラで構成されている。
Galaxy S24 Ultraは、ボディの素材にチタニウムが採用され、ベゼルがやや細くなり、わずかに軽くなったが、どれもささいな変化だ。サムスンによれば、ディスプレイの明るさも向上しており、Galaxy S23 Ultraの1750ニトから、Galaxy S24シリーズでは3機種すべてで2600ニトになっているという。サムスンのディスプレイはもともと、特にGoogleの「Pixel」と比べると十分に明るかったが、太陽の下でもさらに見やすくなったはずだ。しかし2024年に手に入るスマートフォンの中では、特別に明るいとはいえない。1月中に米国で発売される「OnePlus 12」のディスプレイ輝度は4500ニトだ。
Galaxy S24シリーズは、3機種ともQualcommの新プロセッサー「Snapdragon 8 Gen 3」を搭載する。もっともサムスンは通常、米国向けのフラッグシップ機にはQualcommの最新チップを搭載してきたので、驚くには値しない。このチップはQualcommが2023年10月に発表したもので、生成AIのアルゴリズムをデバイス上で実行できる。Galaxy S24 Ultraは、前世代と比べると放熱を担うベイパーチャンバーが大きくなり、負荷の高いゲームをプレイしても温度の上昇を抑えられるという。
ストレージとメモリーの容量はGalaxy S23 Ultraと同じだ。
Galaxy S24シリーズは、ChatGPTがにわかに注目を集めた2023年を経て、サムスンが他の大手テクノロジー企業と同様に、生成AIをスマートフォンに活かす方法を学んでいる最中であることを示している。Galaxy AIの搭載により、サムスンは上々のスタートを切ったように見えるが、2024年に発売される「iPhone」には新しい生成AI機能が複数導入されるとうわさされていることを考えると、サムスンは差別化の努力をさらに強化していく必要がありそうだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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