「Apple Watch」の新モデルが出る時は大抵、健康志向の新機能も追加される。例えば2022年に登場した「Apple Watch Series 8」には皮膚温の測定機能が加わり、2020年発売の「Apple Watch Series 6」には血中酸素濃度の測定機能が追加された。
しかし、2023年は様子が違った。この年に出た「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」が目指したのは新センサーの追加ではなく、健康データを簡単に見つけ、記録できるようにすることだ。Appleは12月11日に公開した「watchOS 10.2」で、Siriに「ヘルスケア」アプリのデータをリクエストできるようにした(編集部注:現時点では米国の英語版ユーザーと中国本土の北京語ユーザーが対象)。些細な変更に思えるかもしれないが、この新機能はApple Watchをこれまでに以上に有能なヘルストラッカーに変える可能性がある。
このアップデートは9月に発表され、しばらくはベータ版として提供されていたが、現在はApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2に一般提供されている。この2つのApple WatchはAppleの新しい純正チップ「S9」を搭載しており、Siriからのリクエストを、クラウドを介さずにデバイス内で処理できる。
このアップデートは、Siriが着実に進化していることを示すものだ。生成AI、つまりユーザーが入力したプロンプトに対し、会話形式で(必ずしも正確ではない)答えを生成できるAIの台頭により、AIとバーチャルアシスタントへの注目がかつてないほど高まっている。この10年間、SiriはAmazonの「Alexa」や「Googleアシスタント」といったライバルに後れを取っていると批判されてきたが、今回のアップデートはAppleがSiriの新たな活用方法を考えていることを示すものだった。何より、Siriの新しいヘルスケア機能は、ある大きな課題を解決できる可能性を秘めている。それは今でもなお、ウェアラブル機器が収集する大量の健康データの解析は容易ではない、という事実だ。
「今、特に力を入れているのは健康データを入手しやすくすることだ」と語るのは、Appleのプロダクトマーケティング担当シニアディレクターで、Apple Watchや健康関連事業を担当するDeidre Caldbeck氏だ。「新たに追加された機能は、この目標の達成に大いに役立つと考えている」と、同氏は言う。
12月のアップデートにより、SiriはApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2の過去1週間分のデータをもとに、当面は20種類の健康データ(アクティビティリングの進捗状況、歩数、夜間の呼吸数、階段昇降の回数、前の晩の睡眠データなど)のリクエストに答えられるようになる。ヘルスケアアプリと連携しているサードパーティー製の健康デバイス、例えば血糖値モニターや血圧モニターのデータも呼び出せるという。また、体重や月経の開始日、服薬データなどの記録もSiriに頼めるようになった。
Caldbeck氏によれば、Apple WatchのSiriから健康データを呼び出せるようにしてほしいという声は以前から多かったという。しかし、この機能はApple Watch Series 9とApple Watch Ultra 2が登場するまで実現しなかった。それは、こうしたリクエストをインターネット経由ではなくデバイス内で遅延なく処理したい、つまりデータを外に流さず、Apple Watchだけで処理を完結したいとAppleが考えていたからだ。
Appleのユーザープライバシーエンジニアリング担当シニアマネージャーのKatie Skinner氏によれば、Appleのヘルスケア製品は4つのプライバシー原則を念頭に設計されているという。すなわち、「データの最小化」「デバイス内での処理」「透明性」そして「管理とセキュリティ」だ。この4原則は普遍的なもので、業界の変化に左右されず、「Apple WatchがSiriのリクエストをデバイス内で処理できるようになるまで、健康データのリクエストには対応しない」というAppleの判断が示しているように、新製品やアップデートにも適用される。
この4つのプライバシー原則について、「大きく変わったのは原則の適用方法、リスクの緩和策を適用できる技術、そして脅威の状況だ」と、Skinner氏は言う。例えば「データの最小化」原則をApple製品に適用する際は、新たな脅威の登場を見越し、デバイス内であれネットワーク上であれ、データが危険にさらされる可能性のある場所に注目する、とSkinner氏は述べる。
このSiriのアップデートは、Apple Watchが収集している大量の健康指標を分かりやすい形でユーザーに提示できる可能性を秘めているという。健康データをなかなか見つけられないAppleユーザーもいることを考えると、これは重要なポイントだ。Redditのスレッドには、Appleのヘルスケアアプリは操作が難しく、扱いにくいという不満が並ぶ。
例えば、筆者は1日の平均運動時間を調べるのにiPhoneを4回もタップしなければならなかった。しかし今回のアップデートによって、Apple Watch Series 9のユーザーは、この種のデータをほぼ瞬時に入手できるようになった。特にApple Watchのようなディスプレイが小さい端末では、タップやタイプ、スワイプをしなくても情報を見られるのは大きなメリットだ。
「これまでは画面をタップせずに、こうしたデータを入手するのは不可能だった」とCaldbeck氏は言う。
Siriのアップグレードは、AIアシスタントや健康関連アプリの機能や使い勝手がますます進化し、高度化する中で行われた。フィットネストラッキングの分野で長年、AppleのライバルとなってきたFitbitは、「Fitbit Labs」プログラムの一環として、2024年から一部の質問への回答やカスタムチャートの作成に生成AIを活用する計画だ。
Fitbitの親会社であるGoogleは、自社のチャットボット「Bard」を支える技術をGoogleアシスタントと組み合わることで、撮った写真をSNSに投稿する際の文章をAIに書かせたり、重要なメールを要約したりできるようにした。11月にはサムスンも「Galaxy AI」を発表した。これは同社のデバイスに搭載されるさまざまなAI機能の総称になるとみられる。
Siriに生成AIを取り入れる可能性について、Appleは何も語っていない。Appleはこれまでも、自社製品を業界のトレンドや競合製品と直接結びつけることを巧みに避けてきた。しかしSiriが健康関連のクエリーに対応できるようになったことで、(この機能がAppleの狙い通りに機能するなら)ヘルストラッカーとしてのApple Watchの価値は大いに高まるだろう。今回のアップデートは、Apple WatchがBloombergの記事にあるような「高度な健康アシスタント」となるための一歩のように感じられる。
Appleが公式発表前に将来の製品について語ることはない。しかし、今後もSiriの健康機能への投資は続けるとCaldbeck氏は言う。
対応する健康指標が増える可能性について尋ねると、「機能を改善し、強化する方法は常に検討している」とCaldbeck氏は答えた。「今後も呼び出せるデータの種類を増やし、Siriを使ってヘルスケア機能へのアクセスを改善する方法を探っていく」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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