迫る物流業界の2024年問題--DXで省人化に挑む山善の取り組み

 政府は10月6日、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を開催。物流業界における労働力不足が深刻化する「物流2024年問題」への対策を盛り込んだ、「物流革新緊急パッケージ」を取りまとめた。 

 そんな中、山善、三菱HCキャピタル、ビックカメラは11月14日、経済産業省による委託事業「令和5年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業」に採択されたと発表。物流施設において、必要な個数を在庫から運び出すピースピッキングを担う協働ロボットの、効果的な活用事例の創出に向けた実証を行っていくという。

 昨今、2024年に向けて物流施設での荷役作業の自動化や機械化の動きが進む一方、その投資コストや導入環境の整備は課題となっている。取り組みを進める専門商社の山善は、物流の課題にどう向き合っていくのか。同社で、執行役員営業本部グリーンリカバリー・ビジネス部長兼物流企画管掌を務める松田慎二氏に話を聞いた。

山善 執行役員営業本部グリーンリカバリー・ビジネス部長兼物流企画管掌 松田慎二氏
山善 執行役員営業本部グリーンリカバリー・ビジネス部長兼物流企画管掌 松田慎二氏
  1. 対策を始めたのは2024年問題に直面するより前
  2. システム導入によってドラスティックな課題解決を実現
  3. 物流業界のプラットフォーマーへ

対策を始めたのは2024年問題に直面するより前

――2024年問題を前に、山善はいつ頃から対策を始めてきたのでしょうか。

 我々流通商社にとって、物流の改革は経営課題です。現在は、中期経営計画として昨年度からスタートさせている「CROSSING YAMAZEN 2024」に取り組む中で、物流ネットワークを抜本的に改革しようとしています。2024年問題に向けた対策もその中に組み込まれており、物流拠点の見直し、材料や製品を運搬するマテハン機器の導入、ICTの改革などを予算に入れ、次の時代に対応できるよう動いています。

――実際に行われた取り組みについて、具体的にお聞かせください。

 我々は群馬県に、ロジス関東という家庭機器事業部の主力となる倉庫を持っています。ここは当社の持つ物流ネットワークでも、最大規模の荷量を扱っている倉庫です。海外からの輸入品や国内のチャーター便の荷物など、ものすごい物量の製品がここに集まります。

 そのため、月初は1日に50~60台の大型トラックが朝から並び、荷降ろしに平均3~4時間、長いと6時間以上もかかってしまっていたという状況がありました。

 2024年問題への対応を考え始めるより前にこのことを課題として捉えていたため、2017年頃にはアナログ形式で、excelで入車管理することをすでに始めていました。しかしアナログ管理ではどうしても追いつかず、2018年の11月に、CECの「LogiPull」というバース予約管理システムに出会ったんです。

 導入を決めたあとは、取引先である仕入れメーカーにこれを使っていただく必要があるため周知に半年ほどかかったものの、現在では9割近い仕入れメーカーがこのシステムを経由して入荷情報を教えてくれています。結果的に、2024年問題について考え始めるより前に対策を行った形になりました。

システム導入によってドラスティックな課題解決を実現

――導入において障壁となったものはありましたか。

 各部署で共通認識を持たなければならなかったことでしょうか。当社の物流部門の人間が営業部門を説得し、今度は当社の営業部門と取引先の営業部門同士でそれを納得し、さらには取引先の営業部門が物流部門を説得するという、4角のコンセンサスが必要でした。営業部門のオペレーションによって物流部門が動くので、輸配送業務に直接関係のない営業部門の人間に必要性を感じてもらうことが重要でした。

――導入されてみて、実際にどんなポジティブな影響がありましたか。

 当社の拠点であるロジス関東は、約1万8千アイテムくらいの荷物を扱っていて、商品の出し入れは非常に煩雑です。システム導入前は、主に3つの問題を抱えていました。

 1つが、さきほどもお話したトラックドライバーの待機時間の問題。2つが、トラックが周辺の道路にあふれて待機しているような状況があったため、近隣に住まれている方にご迷惑をおかけしていたという問題。そして3つが、混雑解消のため作業員が荷降ろしのみを集中的に行うため、検品や入荷情報の入力などが後回しになり、人員配置や労務の平準化が難しいという問題です。システムの導入によって、この3つをドラスティックに解決できたと考えています。

 トラックが荷降ろしを行うスペースであるバースを、仕入れメーカーにシステムを経由して予約してもらいます。例えば、倉庫の稼働時間が朝の8時半から夕方の5時半だったとして、30分区切りでそれぞれ入荷できる台数を制限し、トラックにはそれに合わせて来ていただきます。これにより、ドライバーの待ち時間は平均して6分とかなり少なくなりました。待機時間がほぼない状態を実現できたんです。

 仕入れメーカーだけでなく我々としても、入庫処理まで行ってから次のトラックを待てるようになったので、荷物を探したり整理したりといった無駄な時間がなくなり効率は非常に上がりました。

――導入したインパクトはかなり大きかったんですね。

 とてもインパクトがあったと思います。以前は入庫処理を行うための臨時の作業員もいたのですが、偏りがなくなったことによって別の作業をしてもらうことが可能になりました。

――導入後に、さらなる課題などは出てきたのでしょうか。

 ロジス関東では、国内のチャーター便に対してバース予約管理システムを導入し、業務を効率化できました。しかし、主に海外から入ってきたコンテナの荷物を降ろすデバンニングという作業には、予約システムのようなものがまだありません。都合によりデバンニングの順序を変える作業のことを「差し替え」と言いまして、この差し替えにも対応できるような、コンテナのデバンニングを管理するシステムがあればと考えています。CECのLogiPullも当社のほうでいろいろな要望を伝えてカスタマイズさせてもらいましたし、流動性のある運用が可能なシステムは理想的ですね。

 それから、当社だけがシステムの導入で業務効率化を図るのではなく、業界全体で改善していく必要があります。現在は物流総合効率化法という法律ができ、マテハン機器やバース予約管理システムなどを導入して、物流施設の近代化を試みた場合に行政から支援を受けられる場合があります。トラックの待機時間に関しては、行政も注目しています。

物流業界のプラットフォーマーへ

――今後、山善は物流業界においてどのように事業を展開される予定ですか。

 山善には現在、生産財関連事業と消費財関連事業があるのですが、これまでは各事業部がバラバラの物流ネットワークを作っていました。今後は2024年までに、生産財の倉庫と消費財事業の家庭機器の倉庫、それから住建のデポと呼んでいる取り寄せ専用の倉庫を、クロスして使えるように取り組みを行っています。

 例えば家庭機器をインターネットで販売した場合、現在は路線便に頼った長距離配送でそれを届けていることが多いんです。これを、住建デポを中継点として置くことによって、エリア配送が可能になるようにしていきたいと考えています。

 もう1つはややチャレンジングな取り組みになりますが、山善ロジティクスとして、当社の荷物を運ぶだけでなく取引先や外部の荷物もお預かりし、共同配送を行うという構想があります。これは、2027年までに挑戦していきたいと考えていることですね。最終的には2030年までに、共同輸送を中心として、生産財関連事業、家庭機器事業と住建事業において、物流プラットフォーマー的な立ち回りができるようになりたいというビジョンを持っています。

 肝となるのは、LMSという統合物流管理システムです。これを使うことによって、全ての事業の営業オペレーションがここに流れてくるようになり、全国でのべ100くらいある契約倉庫のオペレーションを管理できるようになります。他に、WMSという倉庫管理システムを、現在すべての倉庫に入れていっている最中です。これらによって、2024年問題にも対応できると考えています。

――2024年問題への対応以外に、環境への取り組みも推進されていると聞きました。

 倉庫の近代化を進めています。すでに稼働しているロジス新東京のほか、2025年1月に稼働開始を目指している「新ロジス大阪」は、マテハン機器や自動搬送できるような装置を導入し、省人化を進めていきたいと考えています。新ロジス大阪は屋上に太陽光発電を導入し、再生可能エネルギーへの切り替えも行っていく予定です。

新ロジス大阪
新ロジス大阪
新ロジス大阪内観
新ロジス大阪内観

 またJR貨物の活用や、トラックや荷台ごと輸送するRORO船の活用など、モーダルシフトも進めています。これらは長距離トラックと比べるとCO2排出量が少ないんです。

 課題はまだまだありますが、今後もさまざまな挑戦を通して、物流の合理化と環境への取り組みを推進していきたいと考えています。

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