AppleとGoldman Sachsが提携し、2019年に発表された「Apple Card」は、すぐに単なるクレジットカードを超えた存在となり、テクノロジーと個人ファイナンスのシームレスな融合の象徴になった。米国に670万人以上の保有者がおり、その60%がメインのクレジットカードとして使用しているApple Cardは、消費者のクレジット体験に大きな変化をもたらした。「Apple Pay」を通して仮想的に使用する場合でも、洗練されたチタン製のカードで物理的に使用する場合でも、Apple Cardの多用途性は金融業界に新たなベンチマークを打ち立てた。
しかし、最近の動向を見てみると、どうやらAppleとGoldman Sachsの関係に重大な変化が生じているようだ。Appleは、Apple CardやApple Cardの普通預金口座を含むGoldman Sachsとの金融事業提携を12~15カ月以内に解消することを提案したという。この決定は、かつて金融テクノロジーにおける画期的な提携とみなされた両社の関係に転換点が訪れたことを示している。
報道によると、この動きは、消費者金融事業の縮小を目指すGoldman Sachsの戦略に沿ったものであるという。同社はAppleとの提携で多額の損失を被っている。一方、Appleは、独自の決済処理技術やインフラ開発を目的とした「Project Breakout」に社内で取り組んでおり、金融事業の独立性を高めることを目指している。
物理的な特徴以外にも、Apple Cardがエコシステムに統合されたことは実に革新的であった。Apple Cardは「iPhone」上で独自のユーザーインターフェースが提供されており、ユーザーは簡単に自分の支出を分類して追跡したり、特定の購入記録を見つけたり、デバイスから直接決済したりできる。
さらに、Apple Cardには、iPhoneや「iPad」などのApple製品を24カ月間無利息の分割払いで購入できる、Apple Cardで買い物をした場合に最大で3%がキャッシュバックされる、といった金銭面での魅力的な特典も用意されている。
Apple Cardの際立った特徴は、そのセキュリティである。これは、以下の2つの重要な革新的テクノロジーによって支えられている。
Goldman Sachsの消費者向け事業は、1067億ドル相当の規模で、以下の主要セグメントから構成される。
この移行は、Apple Cardユーザーに大きな影響を及ぼすだろう。カードのセキュリティと機能性、そして、ユーザーの信頼を維持することは極めて重要だ。Apple Cardのユーザーは、優秀な技術サポートによって問題を解決してもらうことに慣れている。それは、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが最悪の状況にあったときに、筆者自身が経験したことだ。金融事業でAppleと新たに提携する企業は、Appleの「ウォレット」のユーザーエクスペリエンスを支え、優れた電話サポートも提供する必要がある。
とはいえ、Appleのユーザーが実際に懸念すべき問題は、それほど多くないのではないだろうか。Appleは、ユーザーを見捨てたり、機能性を下げる変更によってユーザーに負担をかけたり、製品を使いにくくしたりするような企業ではない。むしろ、筆者としては状況が改善するのではないかと期待している。例えば、申請と承認のプロセスが簡単になるといったことだ。Goldman Sachsの管理下では、申請と承認にバイアスがあることが問題となっていた。
AppleとGoldman Sachsの提携解消から、今後どのような状況が想定されるだろうか。筆者は現在、Chaseが発行しているAmazonクレジットカードを使用しており、30年前から同行をメインバンクとして利用している。Costcoで買い物をするときのために、Citiカードも所有している。このポートフォリオに別の銀行を追加しなければならないという状況は避けたい。
これに関して、最も苦労するのはAmerican Expressだろう。支払い条件を理由に、以前から同社の採用を好まない業者がいるからだ。だがもしAmerican ExpressがApple Cardを引き継いだら、そうした業者もApple Cardを採用しようと考えるかもしれない。それに、MasterCardを失うことで生じる手間と引き換えに、いくつかの新しいメリット(American Expressラウンジの利用など)も期待できるかもしれない。
また、金融サービスの複雑な規制環境をうまく乗り切ることはこの移行に不可欠であり、新たな提携先は、コンプライアンスとオペレーショナルリスク管理に細心の注意を払う必要がある。
Apple Cardを含むGoldman Sachsの消費者向け事業の一部または全体を買収するという決定は、金融投資であり、市場でのポジショニングやテクノロジーの統合、規制順守を伴う戦略的な活動でもある。どの企業がApple Cardの新たなパートナーになるとしても、この取引はデジタルバンキングと消費者金融の分野で新たな基準を打ち立て、関係者はもとより、広範な業界の状況に影響を与えるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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