2023年6月にMotorolaが「razr+」(1000ドル、日本では「razr 40 ultra」という名称で税込15万5800円)で発売した時、折りたたみスマートフォンの転換点が来たと感じた。razrシリーズやサムスンの「Galaxy Z Flip」など、最近のフリップフォン(縦折り型の携帯端末)は携帯しやすいデザインを生かし、一般的なスマートフォンにはない利便性を提供してきた。しかし、フリップフォンも結局は開いた状態で使うことが多いため、全体の使用感は普通のスマートフォンとあまり変わらなかった。
しかし、大きなカバーディスプレイを備えたrazr+の登場によって、状況は変わりつつある。カバーディスプレイが大きいことがそれほど重要かと思うかもしれないが、razr+を使っていくうちに、筆者は画面が広いことのありがたみを痛感するようになった。単に時間や通知を確認できるだけでなく、手のひらサイズのディスプレイが手に入るのだ。スマートフォンが大型化し、かさばるようになって何年もたつが、スマートフォンを2つ折りにした状態で使えるというのは、思った以上に便利だった。
6月以降、多くの変化があったことも事実だ。8月にはサムスンが「Galaxy Z Flip5」を1000ドル(日本では15万4300円〜)で発売した。この端末も、razr+と同様に、前モデルよりもカバーディスプレイが大幅に大きくなっている。Motorolaからもrazr(2023年版)が登場した。価格は700ドル(日本では「razr 40」の商品名で12万5800円)と手頃で、折りたたみスマートフォンとしては歴代で最も安い。
こうした新製品の登場は、折りたたみスマートフォン市場の競争を激化させ、razr+のポジションも変わりつつある。半分に折ってポケットに入れられるスマートフォンが欲しいだけなら、700ドルのrazrで十分だ。しかし、本当の意味で新しさを実感できる端末が欲しいなら、思い切ってrazr+やGalaxy Z Flip5を買う価値はある。
サムスンのフリップフォンは、頑丈なデザイン、アップデートサイクルの長さ、優秀なカメラ、充実したソフトウェアなどの魅力を備えており、今でも筆者が最も勧めたい1台だ。しかし、razr+も多くの可能性を秘めている。今後の折りたたみスマートフォン、あるいはMotorolaのスマートフォン全般の進化が楽しみだ。
razr+は、一目でそれと分かる印象的なデザインをしている。筆者が使っているのはマゼンタ色のモデルだ。背面にはヴィーガンレザーが使われており、目で見て美しいだけでなく、手でつかみやすい。しかも、驚くほど薄く軽い。公式サイトの仕様を見る限り、razr+とGalaxy Z Flip5は重量も厚みも同程度だが、razr+の方がはるかにスリムに感じられる。
筆者はrazr+の軽やかさが気に入っているが、華奢な作りは必ずしも有利に働くわけではない。Galaxy Z Flip5の方が全体に頑丈で、何度開閉を繰り返しても耐えられそうに感じる。それと比べると、razr+の作りは心もとない。もっとも、これは筆者の感覚であって、実際に厳しいテストを実施したわけではない。かなり強く押さなければ、完全にフラットな状態にはならない場合があることにも気付いた。魅力的な外観が逆にもろさを感じさせる。
ディスプレイもrazr+の魅力のひとつだ。Galaxy Z Flip5よりも縦に長く、中央の折り目は見ても触っても目立たない。折りたたみスマートフォンの最大の欠点のひとつがディスプレイを横切る折り目だったことを考えると、これは重要なポイントだ。
スマートフォンの使い勝手を決めるのはハードウェアだけではない。インターフェースとしてのソフトウェアも重要だ。特に折りたたみスマートフォンの場合、ディスプレイを折り曲げられるという特徴を生かすために、独自のソフトウェア機能が搭載されていることが多い。razr+は、広々とした3.6インチのカバーディスプレイのおかげで、閉じた状態でもできることが多い。端末を開かずに、手のひらの上でニュースの見出しを見たり、テキストメッセージを送ったり、ゲームをしたり、時には動画を観たりすることさえできる。
これは、上位モデルのrazr+と標準モデルのrazr(2023年版)を隔てる大きな特徴でもある。標準モデルは手頃な価格だが、カバーディスプレイは小さく、通知をチェックしたり、時間を確認したりすること以外にあまり用途がない。
「スマートウォッチがあれば、スマートフォンの通知やメールをざっと確認し、スマートフォンを開く必要があるかを判断できる。razrにも同じ便利さがある。背面カメラで自撮りできる点もいい(背面カメラは、内側ディスプレイの上部にあるカメラよりはるかに鮮明な写真が撮れる)。しかし、もっとできることがあれば、という思いは残る」と、同僚のDavid Lumb記者はrazr(2023年版)のレビューで書いている。
筆者は700ドルのrazrを試したことはないが、言いたいことは分かる。筆者はGalaxy Z Flip5が発売される前にしばらくGalaxy Z Flip4を使っていたが、同じことを感じた。
サムスンのGalaxy Z Flip5は、razr+と似た体験を提供してくれるが、「Good Lock」ランチャーをインストールしない限り、カバーディスプレイに固定できるアプリは限られる。それに対して、Motorolaはスマートフォンに最初からインストールされているアプリであれば、どれでも選択可能だ。この方がシームレスに感じる。カバーディスプレイも、razr+(3.6インチ)の方がGalaxy Z Flip5(3.4インチ)より大きい。ディスプレイの小ささを考えれば、この差は大きい。
しかし、Galaxy Z Flip5に軍配が上がる点もある。例えばGalaxy Z Flip5を半分に折り曲げると、「Google Chrome」などのアプリは自動的に上半分のディスプレイに移動し、下半分にはコントロール画面が表示される。このモードはディスプレイを制御しやすい。razr+の場合は、たとえ折り曲げても、少なくとも筆者が知る限り、カメラアプリを使っている時を除いて、アプリが自動的に移動することはない。その代わり、Chromeの画面が折れ曲がった状態で表示され、スクロールすると情報が滝のように流れる。
サムスンのソフトウェアアップデートは広範囲にわたり、スマートフォンに新機能が追加されることもある。最近では「One UI 6」のソフトウェアアップデートが発表された。このアップデートでは、ソフトウェア起動時に特定の撮影モードをウィジェットとしてホーム画面に固定する機能など、多くのカメラ関連の機能が強化される。今回のアップデートで最も大きな影響を受けるのはカメラ周りかもしれないが、カレンダーからクイックパネル、ロック画面まで、広範囲で小規模な変更が加えられている。
Motorolaのアップデートは通常、これほど広範囲には及ばないが、razr+は3年間のソフトウェアアップデートを約束しているので、「Android 14」へのアップデートは行われるはずだ。サムスンが約束している4年間のアップデートには及ばないが、1800ドル(日本では25万3000円)の「Google Pixel Fold」とは肩を並べる。
最近のソフトウェアアップデートでは、razr+に新機能「Moto Unplugged」が追加された。このツールは、その名前が示しているように、アクセスできるアプリを制限することで、集中を助ける。「iPhone」の「集中モード」に似ているが、Moto Unpluggedの場合、このモードを終了するまで、承認していないアプリはディスプレイに表示さえされない。
筆者は仕事がたてこんでいた日に1時間、Moto Unpluggedモードを設定してみたところ、自分でも驚くほど集中できた。設定した時間を過ぎると、いつものホーム画面にいつものアプリが再び表示された。これは決して新しい考え方ではないが、アプリが表示されていないと分かっているので、仕事に集中できず、ついスマホに手を伸ばしてしまう衝動に対抗できた。
折りたためようと折りたためまいと、スマートフォンはなるべく1度の充電で長時間使いたい。Motorolaのrazr+は、米CNETによる3時間バッテリーテストで悪くない結果を出した。このテストでは、「YouTube」の動画を最大輝度で3時間ストリーミングし、1時間ごとにバッテリー残量をチェックする。
razr+の結果は、Galaxy Z Flip5はもちろん、「Galaxy S23」、「Galaxy S23 Ultra」といった折りたたみ式ではないサムスンの端末とも張り合えるものだった。使用状況にもよるが、razr+はバッテリーだけでも丸1日程度は持つ。
機種 | 1時間後 | 2時間後 | 3時間後 |
---|---|---|---|
razr+ | 95% | 88% | 81% |
Galaxy Z Flip5 | 94% | 87% | 80% |
Galaxy S23 | 95% | 88% | 81% |
Galaxy S23 Ultra | 95% | 89% | 82% |
razr+には、1200万画素のメインカメラと1300万画素の超広角カメラが搭載されており、たいていは鮮明でクリアな写真を撮影できる。サムスンのGalaxy Z Flip5とMotorolaのrazrの両方を使ってみた印象では、Galaxyのカメラの方が鮮やかな色を捉えていると感じた。
といっても、razr+のカメラの質が悪いわけではない。razr+のユーザーが最も求めているのは、ディスプレイを折りたためることであって、最高のカメラではない。razr+のような折りたたみスマートフォンで撮影する最大のメリットは、実質的に三脚を内蔵していることだ。90度の確度で折りたたんでおけば、手を離した状態でもスナップ写真が撮れる。
大きな前面ディスプレイは、背面にあるメインカメラでセルフィーを撮る際もファインダーとしても活躍する。同じことは標準モデルのrazrでもできるが、外側ディスプレイが小さいため、端末の向きを決めにくい。
razr+を改めて使ってみて、2つの画面を備えるスマートフォンの利点がよく分かった。razr+を特別なものにしているのは半分に折りたためる点ではなく、手のひらに収まる画面と、ほとんどのスマートフォンの画面よりも大きな画面を使えるというアイデアだ。
筆者はGalaxy Z Flip5の方が好きだが、Motorolaの存在によって消費者の選択肢は増えている。また、razr+にはGalaxy Z Flip 5より優れている点も複数あり、特にカバースクリーンでより多くのアプリを実行できる点が大きい。いずれにせよ、折りたたみ式スマートフォンの行く末について前向きな印象を与えてくれる。あとは、razr+などのフリップ式スマートフォンがより手頃な価格になるのを待つばかりだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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