「わんこゲスト最優先の宿」ならではのSNS運用とDX化の使い分けとは

 コロナ禍により長く苦戦を強いられてきた宿泊業界。しかし、ITを活用することで、この難局を乗り切っている宿泊施設もある。ここでは、ホテルや旅館向けの予約エンジンなどを提供するtripla(トリプラ)の高橋和久が、宿泊×DXを実践している企業などの事例から、これからの宿泊業界のあり方を解き明かす。

グアムドッグホテルズ 代表取締役 後田慎吾氏(右)、tripla 代表取締役 CEOの高橋和久氏(左)
グアムドッグホテルズ 代表取締役 後田慎吾氏(右)、tripla 代表取締役 CEOの高橋和久氏(左)

 近年、増えているペットフレンドリーな宿泊施設。館内のリード使用や客室内のベッド使用、ペット用の食事などのルールは施設ごとに異なるものの、数年前に比べるとペット同伴の宿泊ハードルが下がりつつあることは間違いないだろう。

 神奈川県の箱根強羅にある、ペットと泊まれる愛犬家専用の旅館「箱根強羅グアムドッグ本店」も、愛犬家の間で話題になっているペットフレンドリーな宿泊施設のひとつである。

 同施設は「わんこゲスト最優先の宿」を謳っていることもあり、プライベートドッグラン、ドッグバス、愛犬の撮影用フォトスタジオなど、愛犬家とその家族の犬たちが楽しく快適に過ごせる設備が充実。それだけでなく、仙台牛やふぐなどを使った本格割烹料理を提供するといった豪華なおもてなしも人気の秘訣だ。

 なお、このところは認知度・集客力アップを目的にSNSを運用している宿泊施設が珍しくないが、同施設でもX(旧Twitter)、Instagram、Facebook、LINE、アメブロ、YouTube、TikTokと、さまざまなSNSをフル活用。投稿内容としては施設の紹介はもちろんのこと、施設で飼っている愛犬たちの写真や動画も多い。

 「SNS投稿は宿泊施設としてのPRというよりも、愛犬家であるお客様たちが『共感するもの』をテーマにしていることから、犬たちが館内で過ごしている様子などを撮影したものがメイン。ペットと泊まれる宿泊施設は増えてはいるものの、実際に宿泊した場合にペットが快適に過ごせるかどうかはウェブサイト上の情報だけではわかりにくく、愛犬家にしかわからない懸念点も出てくる。当施設には元保護犬含む複数の犬がおり、投稿を通して犬たちが快適に過ごしているのがお客様にも伝わるのか、実際にSNS投稿を見て、予約をしてくださる方もいる」(グアムドッグホテルズ 代表取締役 後田慎吾氏)

 さらに同施設では、お客様の宿泊手続きや連絡ツールとしてもLINEを利用している。例えば、チェックインの手続き、夕食時間のアナウンス、リピーター特典の案内などはすべてLINEで行い、お客様が忘れ物をした際などにもLINEで連絡をするという。

 メールの場合、開封されないままスルーされることがあるが、LINEであればすぐに確認できるという例もよくある。即時性に長けたLINEはお客様とのコミュニケーションツールに向いているといえるだろう。

ペーパーレス化がマーケティングとオペレーション改善に

 一方、コロナ対策としても注目されたペーパーレス化の取り組みとして、これまで紙メニューを活用していた夕食時のドリンクオーダーを、お客様自身がスマートフォンでQRコードを読み取り、メニュー表からオーダーする方式に変更。これにより、宿泊客のマーケティングと業務のオペレーション効率化が一気に叶ったという。

 「それまでは夕食会場でお客様が着席後、紙メニューからドリンクを選んでもらってオーダーしてもらうという形で、夕食開始時間にオーダーが集中してしまうことからバックヤードが混乱することも多かった。QRコード形式に変更してからは、チェックイン時にあらかじめお客様にドリンクオーダー方法について説明し、客室でゆっくり選んで事前に注文していただくようお願いしており、ほとんどのお客様が夕食前に注文してくれるようになった。結果、夕食前にドリンクのセッティングを完了させられるようになり、オペレーションが改善した。その上、どんなお客様がどんなドリンクを注文しているのか、どのドリンクがよく出るのかなどがわかりやすくデータ化されるようになったので、マーケティングにも役立っている」(後田氏)

 デジタル化に積極的な同施設だが、あらゆる部分をデジタル化しているわけではなく、電話を使った同期コミュニケーションも継続している。予約客には必ず事前に電話をし、愛犬に関する情報などを詳しくヒアリングするという。

 ヒアリングした内容によっては、「イエロードッグプロジェクト」として健康上の問題がある犬や、他の犬に対して警戒心が強い犬に対してはリードに黄色のリボンをつけてもらう。その上で「黄色のリボンをつけている場合はそっとしておいてほしい、離れてほしい」というサインであることを館内全体に周知し、どんな犬でも問題なく過ごせるようにしているそうだ。同施設でお客様と愛犬が過ごす時間を快適に、かつ思い出に残る特別な時間になるように、こうした心づかいを欠かさない。

 「宿泊施設の原点はやはり人と人のつながり。利便性や効率性を追求してシステマチックにする部分を作ることで、人対人、人対犬、犬対犬ならではの心に響くコミュニケーションをしっかり確保できるようにしていきたい。お客様が求めるものは愛犬との非日常な体験、感動できるような体験だと思うので、その期待にしっかり応えられるようにしていきたい」(後田氏)

 宿泊施設側の「人」や「心」が感じられるサービスは何ものにも代え難い。DX推進が叫ばれて久しい現在だからこそ、そうしたサービスの価値がより高まっている部分があるのかもしれない。

「人対人、人対犬、犬対犬ならではの心に響くコミュニケーションをしっかり確保できるようにしていきたい」
「人対人、人対犬、犬対犬ならではの心に響くコミュニケーションをしっかり確保できるようにしていきたい」

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