ソフトバンク宮川社長、楽天モバイルに助け舟を示唆--NTT法を巡るNTTの発言は「詭弁」

 ソフトバンクは11月8日、2024年3月期第2四半期決算を発表。売上高は前年同期比4.5%増の2兆9338億円、営業利益は前年同期比5.7%増の5144億円と、増収増益の決算となった。

決算説明会に登壇するソフトバンク 代表取締役社長 執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏
決算説明会に登壇するソフトバンク 代表取締役社長 執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏
  1. 3つの事業が大きく伸長、減収減益のコンシューマ事業も見込みより早期な回復
  2. 契約数も順調に増加、3000万契約を突破
  3. 前日のNTT島田社長の発言は「詭弁」--「思い付き」で楽天モバイルへの助け船も
  4. 輸入に頼らない生成AIの実現に意欲

3つの事業が大きく伸長、減収減益のコンシューマ事業も見込みより早期な回復

 同日に実施された決算説明会に登壇した、代表取締役社長 執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏によると、通信を主体としたコンシューマ事業は、引き続き政府主導による携帯料金引き下げ影響を受けて減収減益になったという。

 しかし、それ以外のエンタープライズ、メディア・EC、ディストリビューションといった3つの事業が大きく伸長。ファイナンス事業も減益ではあるものの前年度は第3四半期からPayPayを子会社化していることが影響し、事業自体は大きく伸びているとのことだ。

 減収減益となったコンシューマ事業も、今四半期はモバイル売上高の減少額が前年同期比でマイナス5億円と、1桁億円にまで縮小。宮川氏は「当初見込みより早く回復してきたと思っている」と話し、来年度通期で反転するという目標の達成が視野に入ってきたと回復に自信を示す。

前年同期比でのモバイル売上高の減少額は、2021年度の同期には280億円であったのが、今四半期には5億円にまで縮小。反転が見えてきたという
前年同期比でのモバイル売上高の減少額は、2021年度の同期には280億円であったのが、今四半期には5億円にまで縮小。反転が見えてきたという

契約数も順調に増加、3000万契約を突破

 モバイルの契約数も順調に伸びており、引き続き競合3社に対して番号ポータビリティによる転入はプラスになっているとのこと。スマートフォンの累計契約数も11月6日に、2020年8月時点で目標に掲げていた3000万契約を突破するなど、好調な様子を示している。

契約数は好調に伸びており、スマートフォンの累計契約数は2023年11月6日に3000万契約の目標を突破している
契約数は好調に伸びており、スマートフォンの累計契約数は2023年11月6日に3000万契約の目標を突破している

 また、ソフトバンクは10月3日から、「ソフトバンク」ブランドではPayPayと連携した「ペイトク」、「ワイモバイル」ブランドではデータ通信量を増やした「シンプル2」と、主要2ブランドの料金プランを刷新している。宮川氏は新料金プランについて「ワイモバイルより『ペイトク無制限』の方が、毎日上がるレポートでは勢いがあるなと感じている」と説明。宮川氏はワイモバイルの新プランの方が伸びると見ていたそうで、「自分の感覚とは違っていた」と驚きも示している。

ソフトバンクとワイモバイルの両ブランドで新料金プランを導入したが、ワイモバイルよりソフトバンクの「ペイトク無制限」が好調だという
ソフトバンクとワイモバイルの両ブランドで新料金プランを導入したが、ワイモバイルよりソフトバンクの「ペイトク無制限」が好調だという

 それら新料金プランによって今後ARPUの上昇も進み、契約の増加と合わせて売り上げの伸びも見込めると話すが、今後のARPUについては「横ばいになると思う」(宮川氏)とも説明。横ばいから下がることもなくなったが、右肩上がりで上がることもないと話している。

前日のNTT島田社長の発言は「詭弁」--「思い付き」で楽天モバイルへの助け船も

 一方で、今四半期には通信業界全体で大きな動きがいくつか起きている。中でも注目されているのがNTT法の見直しに関する動向だ。前日の決算でNTTの代表取締役社長である島田明氏が意見を述べていたが、宮川氏は「NTTの話は詭弁に過ぎないと言わせて頂きたい」とし、公社から継承した資産の重要性や当事者意識が希薄していると、NTTを厳しい口調で批判した。

 その上で宮川氏は、「声と声をぶつけ合わせて議論するのが民主国家だと思う」とし、法改正に向けては国会での議論が必要だと説明。議論をせずに一方的に結論を出すとなればNTTと他の通信会社による協力関係が分裂することになり、「このしこりは10年、20年では取れないと思う。日本の通信にとって非常に悲しいこと」と話している。

 また、楽天モバイルが10月23日に新しいプラチナバンドの700MHz帯を獲得したしたことについて宮川氏は、楽天モバイルが2026年3月頃からこの帯域を用いたサービスを開始するという計画を出したことから「ひと言でいうとちょっと寂しい計画だったなと思う」と回答した。

 ソフトバンクが過去プラチナバンドの獲得に力を入れ、短期間で多額の資金を投じ整備を進めた経験から「スタート時にさまざまな苦労はあるけれど、まず一生懸命やる時期じゃないかと思う」(宮川氏)と、早期に整備を進めなければプラチナバンドを有効に生かすことはできないとの見解を述べた。

 その上で宮川氏は、「うちが役立つところがあればまず話を聞いて、やれる所とやれない所があるが、バックホールなどで協力してもいいと思う」と発言。過去プラチナバンドで苦労した同社の経験を生かして、バックホールの貸し出しや基地局設置の交渉支援など、楽天モバイルに協力をするための議論をしてもよいとの姿勢を打ち出している。

 宮川氏は、楽天モバイルと具体的な話があった訳ではなく「あくまで思い付きで話をしただけ」と話すが、NTT法に関して通信事業者が集まり議論する中で、楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏に対して「三木谷さんはさまざまな発言をされるが、正論を言う人。経営者として尊敬できる人と思っている」と評価したとのこと。「そういう面でも(楽天モバイルは)なくなって欲しくないと思う」とし、苦戦が続く楽天モバイルの事業が成り立つまで、何らかの協力をする議論があってもいいのではないかと答えている。

 また、前日となる11月7日に総務省が「日々の生活をより豊かにするためのモバイル市場競争促進プラン」を公表、新たなスマートフォンの値引き規制などを盛り込んでいるが、その内容について宮川氏は「極端な廉価販売や転売などを防止するという観点から言えば、新ルールはひと言でいうと妥当な水準かなと思う」と回答した。

 ただ、他国ではスマートフォンの値引きで5Gの普及が急速に進んでいる一方、日本ではiPhoneの一部モデルが20万円を超えるなど急速な高騰が進んでいることから、「もう少し流動性を高めるため、アグレッシブにやってもいい気はしている」(宮川氏)と、値引き規制の厳しさに不満を示す様子も見せた。

輸入に頼らない生成AIの実現に意欲

 通信に関して宮川氏はもう1つ、NTN(非地上系ネットワーク)に関する取り組みについても説明。英OneWebの衛星通信サービスに加え、米Space Exploration Technologies(SpaceX)が提供する「Starlink Business」の提供を打ち出したほか、同社が実現に力を入れている、成層圏から地上をカバーするHAPS(High Altitude Platform Station)に関しても、NICT(情報通信研究機構)から2つの委託研究を受託するなど、新たな取り組みをいくつか披露している。

NTNに関する取り組みもアピールしており、強みを持つHAPSでは新たにNICTの委託研究を2つ受託したとのこと
NTNに関する取り組みもアピールしており、強みを持つHAPSでは新たにNICTの委託研究を2つ受託したとのこと

 中でも衛星通信に関しては、KDDIがSpaceXと、2024年内をめどにスマートフォンと衛星とで直接通信するサービスを提供するとしており注目を集めている。ソフトバンクでの対応を問われた宮川氏は「今使っている衛星でやれるところまで議論はしていない」とする一方、スマートフォンとの直接通信を実現予定のHAPSの研究を進め、その機材を用いることで低軌道衛星との直接通信が実現できるのではないかと答え、何らかの形で将来的に参画したい考えを示した。

 また、ソフトバンクは次世代社会インフラの構築に向けた取り組みも進めており、その取り組みの1つとして北海道の苫小牧にデータセンターの構築を開始したと説明。さらにハイパフォーマンスコンピューティングとAIの基盤に関しても、2023年9月から生成AI基盤を予定通り稼働、2024年内に3500億パラメーターの日本語国産LLM(大規模言語モデル)を構築する予定だとしている。

生成AI基盤の稼働も予定通り開始しており、2024年内に3500置くパラメーターの日本語国産LLMを構築する予定だという
生成AI基盤の稼働も予定通り開始しており、2024年内に3500置くパラメーターの日本語国産LLMを構築する予定だという

 宮川氏は3500億パラメーターが「多いとは思っていない。ChatGPT 3.5レベルだ」と説明、ChatGPT 4.0レベルに達成し、さらにそれを上回るのは容易ではないと話す。

 ただ、宮川氏は、「米中にChatGPT相当(のLLM)があって、日本にないと全て輸入に頼る環境になる」と危機感を表す。チャレンジできるだけの人材と資金がある限り、国内内製のLLMを作り上げて貿易に頼らない環境を作りたいとの意思を示している。

 ただそのビジネスに関して宮川氏は、OpenAIやグーグルの「Bird」のように、コンシューマー向けサービスとして提供することは考えていないとのこと。あくまで企業向けのソリューションとして提供していく方針で、まずは自社で活用した上で、企業の導入に向けた取り組みを進めていきたいとしている。

2024年3月期 第2四半期 決算発表

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