イタンジは11月1日付で、野口真平氏に代わり、永嶋章弘氏が代表取締役社長執行役員CEOに就任した。「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」をミッションに掲げ、不動産テックのリーディングカンパニーとして走ってきたイタンジは今後、不動産業界のDXに向けてどのような取り組みを行っていくのか。2018年から同社で執行役員を務め、今回新CEOとなった永嶋氏に話を聞いた。
――今回、イタンジが新体制に変わる背景を教えてください。
イタンジは、社員数が増えて現在は200~300人規模の企業になっています。背景として、会社のフェーズが変わった、というのはやはり大きいです。より調整力が求められ、組織としてバランスを取ってやっていくことが必要なフェーズになりました。前任の野口は、ゼロイチで何かを創り出すこと長けていましたが、これからは私が得意とする分野も活かせるかもしれないと感じました。
自分の経歴としても、新卒で入社したニフティ、メルカリと、いろいろな会社を見てきています。役割もエンジニアから始まり、プロダクトマネージャー、執行役員と経験していて、どの部署の話にもわりとフラットに入っていけるんです。野口から話を持ちかけられたときは驚きましたが、最終的に、自分が引き継ぐのがベストだと判断しました。
――業界の中で、今イタンジはどのような立ち位置にいると考えていますか。
「ITANDI BB +」(イタンジビービー プラス)に含まれる入居申込システム「申込受付くん」や顧客管理システム「ノマドクラウド」は、業界内で多くのシェアを獲得しており、勢いもあったので、褒めていただく機会が多いです。でも、自分たちは企業としてはまだまだだと思っていますね。当社の経営理念に「それはクレイジーか」というのがあるのですが、個別の課題解決で満足するのではなく、ゆくゆくは不動産業界のインフラを作れるような企業になることを目指しています。
――今後は、長期的な目線でどのような施策を行っていく予定ですか。
これまでのイタンジは、インターネット企業的なやり方で事業を展開してきたと思うんです。ライトな商品を、誰にでも使ってもらえるように、といった感じです。それを、今後はもっと業務に深く入っていくような、インフラ的な存在になっていきたいと思っています。業務をしっかり理解して、それを紐解き、コンサルティングの領域に入っていくようなものですね。
それから、イタンジはずっと賃貸の業界の中で事業を展開してきましたが、今後はM&Aなども選択肢に入れながら、売買や建物管理などにも関わっていけたらと考えています。
――不動産テックだけでなく、不動産業界全体で見たとき、イタンジの役割はとても大きいですよね。今後、業界の中でどのような位置づけでありたいと思っていますか。
これまでと同じように、不動産業界のリーディングカンパニーでありたいと思っています。イタンジが動くことによってDXが進んだり、業界に対して問題提起をしたりする存在として、今後も変わらずにありたいですね。まずコンセプトを打ち出して、それによってこういうこともできるんだと、業界の人たちに思っていただきたい。自分たちが初手で動くことを大切にしていきたいです。
――初手で動いて切り拓いていくことは、大変なことも多い茨の道であるように思います。
そうですね、大変なことは多いです。でも、前に誰もいないので、かえってやりやすいという考え方もできるかもしれません。あとから入っていくと結局は競争に勝たなければいけませんが、誰もいない場所だと、他人を倒さなくていいですよね。茨の道ではあるかもしれませんが、木だけ切ればいい、という考え方もできます。
――イタンジは変わらず、ファーストペンギンであり続けるんですね。一方、会社の規模が大きくなると、そういった心意気のある社員を育てたり、社内に価値観を浸透させることが難しくなってくるのではないかと思います。
今後は、ミッションやビジョンをより明確に打ち出していきたいと思っています。確かに会社の規模が大きくなってくると、メンバー全員にファーストペンギンであることを求めるのは現実的ではないかもしれません。でも、もっと根本的なところ、たとえば不動産業界のインフラ的な存在でありたいとか、テクノロジーで不動産取引をなめらかにしたいとか、経営理念は社員に伝えています。関わっていただいている不動産業界の方々へ良い体験を届けることを、メンバーにまず意識してほしいですね。
――ファーストペンギンになるようなタイプを採用していくのか、入社してからそうなるようにメンバーを育てていくかでいうと、今後はどちらでしょうか。
これまでは、SaaSをやっている会社でキャリアを積みたいという方が多く採用に応募してくださっていました。でも今後は、採用時によりビジョンを打ち出していき、そこに共感してくれる方にメンバーになってほしいと思っているんです。イタンジの目指すゴールを話して、単なるSaaSの企業ではなく、どういったことを大切にしている会社なのかをきちんと伝えていきます。面接ではなるべく自分から直接、会社のビジョンやバリューをしっかり話したいと思っています。
――お話を聞いていると、イタンジは不動産以外の業種でもできることがあるのでは、と感じます。
自分たちは「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」というミッションを持っていて、基本はやはりここにあると思っています。自分がCEOになったときに、ミッション、ビジョン、バリューの重要性を改めて感じました。イタンジはこれからも不動産の会社です。悩んだときはミッションや経営理念に立ち返って、前例がないところにファーストペンギンとして飛び込もうとするときも、ミッションが経営陣を良い意味で縛ってくれるといいなと考えています。
――前CEOの野口氏がやられてきたことで、変えないでいこうと思っていることはありますか。
強気でいくことや、新しい場所を切り拓いていくことは変えずにいきたいです。変えるところでいうと、野口は「プラットフォーム」という言葉を使っていましたが、自分は「インフラ」という言葉を選んで使うようにしています。なぜかというと、インフラのほうがより必要不可欠なもの、というイメージがあるからです。
――ご自身の、ニフティやメルカリにいた経験は今後、どのように作用してくると思いますか。
プロダクトを生み出したり、組み合わせて作ったりすることは昔から得意でした。今後、イタンジにおいてそういったことがより加速していくかもしれません。自分はこの5年間、会社のメインストリームにはおらず、採用や組織の立ち上げなど裏方をやっていたのですが、今後はプロダクト自体にも関わっていきたいと考えています。
――イタンジ単独ではなく、GAテクノロジーズグループとしてやっていく意義はどのあたりにあるんでしょうか。
そもそも、イタンジがここまで成長できたのはM&AによってGAグループに入り、強い営業組織などが立ち上がったからだと思っています。不動産テック業界で、プロダクトがよかったおかげで拡大したという文脈で取り上げられることも多いのですが、強い営業組織がなければおそらくここまでの成長はできていません。GAグループからはいろいろな知見や、単独では得られないノウハウをもらっています。今後はイタンジからもシナジーをお返しできるように、会社としてより成長していきたいと思っています。
――イタンジは今後不動産テック業界で、どのような姿勢で取り組みを行っていくのでしょうか。
先進的な取り組みをやってくれそう、というイメージを業界内では持っていただけていると思います。これまで通りそこを強めていくと同時に、大手企業にも信頼されるような、先鋭的だけど安定感のあるものを作っていく会社にしたいですね。ブランディングというと嫌な顔をされることもありますが、どこかでそういったことも必要になってくると思います。
ブランディングは長期的なものになりますし、すぐに効果が出るものではないですが、コーポレートサイトのデザインなどにもイメージを落とし込んでいきたいです。不動産業界の、バーティカルSaaSの企業でそこまでやる必要がありますか?と言われることもありますが、むしろ、選ばれる会社や選ばれるプロダクトであるために、自分はすごく重要なことだと考えています。
新CEOとなって、考えなければならないことの多さや、決めなければいけないことの多さに驚くこともありますが、やりがいを持って取り組んでいきたいと思っています。
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