札幌でのゲーム開発の今をベテランクリエーターが語る--Sapporo Game Camp 2023基調講演

 10月6日、札幌市産業振興センターにて開催された「Sapporo Game Camp 2023」のトークセッションにて「札幌のレジェンドクリエーター達が語る、札幌のゲーム開発のあの時、そして今」と題した基調講演が行われ、札幌を拠点としたゲーム会社の代表3人による、主にゲームクリエーターを目指す学生に向けたトークが行われた。

基調講演の様子
基調講演の様子

 Sapporo Game Campは、札幌のIT人材およびゲームクリエーターの育成と、さらなるエンタメ業界の盛り上げを目的としたイベントで、札幌市が参画するSapporo Game Camp 実行委員会が、札幌を基盤とするゲーム開発企業とともに開催。2022年10月に第1回が開催され、2023年は前回から規模を拡大し、10月6~8日の3日間実施。トークセッションは新たに行われたもので、若手ゲームクリエーターとベテランクリエーターが、トークセッション形式で仕事や業界について語られた。

 基調講演では、ロケットスタジオ 代表取締役社長の竹部隆司氏、ハ・ン・ド 取締役執行役員の三上哲氏、スマイルブーム 代表取締役の小林貴樹氏が登壇。竹部氏と三上氏はハドソン、小林氏はdB-SOFTという、かつて札幌にあったゲーム会社に在籍した経歴を持ち、30年以上にわたってゲーム業界で活躍しているベテランクリエーターだ。

左からスマイルブーム 代表取締役の小林貴樹氏、ハ・ン・ド 取締役執行役員の三上哲氏、ロケットスタジオ 代表取締役社長の竹部隆司氏
左からスマイルブーム 代表取締役の小林貴樹氏、ハ・ン・ド 取締役執行役員の三上哲氏、ロケットスタジオ 代表取締役社長の竹部隆司氏
  1. 札幌の企業や学校の連携を強化しなければいけない危機感
  2. 首都圏に支社を、札幌をメインに拠点を置く理由
  3. 話題にあがることの多いAIの活用について
  4. 「出力」「行動」「ゲーム制作とストア販売経験」

札幌の企業や学校の連携を強化しなければいけない危機感

 まずは話題としてあがったのは、札幌におけるゲーム開発を目指す学生の傾向について。竹部氏は「すごく真面目な学生が増えた」と切り出し、やる気も含めて以前よりも自力のある人たちが増えていると回答。さまざまな就職先があるなかでゲーム業界を目指す人たちについては、どういう活動をしていくことが自分がやりたいことを実現できるのかを考えている人たちがいるほか、多様性の時代ということもあってかさまざまな考え方を持っていることも感じられ、面白い世代になってきたという。

 小林氏は、一時期PCを触ったことがないという大学生がいた時代もあったことを振り返り、最近はゲーミングPCでゲームをプレイする学生も増えてきたことから、PCに対しての底力ができているという。また必要な情報を自分から取りに行く姿勢のある学生も増えていると付け加えた。

 三上氏は、あくまで自社の事例であることを前置きして、大学卒業よりも専門学校卒業の入社が多いことに触れ、ゲームを作りたい気持ちを持って制作の経験を踏んでいることによる差があることとあわせて、今の時代はやる気になればゲーム制作をできる環境があると語る。また、全国各地から応募があるなか、オンラインでの面接など選考を行うなかでは、一部地域で恵まれた環境を生かしてスキルアップなどを図っている学生も多く、このままでは、札幌は全国の学生に比べて厳しい状況になっていくのではないかという危機感があるという。

 三上氏によれば、本州には専門学校でも4年制のところがあり、その分の経験と場数を踏んできている一方、札幌では2年制の専門学校が主体である状況を指摘。そうした学生の採用にあたっては、ゲーム制作に対する気持ちなど、今後の伸びしろや将来への可能性を考慮して選考を行っているとしつつも、札幌における企業や学校の連携を強化していかないと、この先厳しくなってくると指摘した。

ロケットスタジオ 代表取締役社長の竹部隆司氏
ロケットスタジオ 代表取締役社長の竹部隆司氏

 学生が入社した際の教育について、竹部氏によればロケットスタジオの場合、1年間くらい研修期間を設け、チームで仕事をする意識作りに重点を置いているという。技術面について基礎力が高いに越したことはないものの、ネットで調べたり実務を通じてあとからついてくる時代であるという。特に学生のうちは、ゲーム制作をしていても遊んで楽しむ消費者という意識が強くあるが、会社に入ればゲームを提供する側となり、クリエーターとしての意識作りが大切であり、そのための研修と語った。

 ちなみに小林氏は、ゲームを提供する側から制作者になって変わることとして、面白いという評判のゲームを買ってプレイしたとき、分析をしてしまうという。「純粋に遊びとして楽しめていないところもある。あと続編を制作する場合にこうするとか、余計なことを考えてしまう」と語り、場内では笑いが起きつつも、その話しを聞いていた竹部氏と三上氏は同意するようにうなずいていた。

首都圏に支社を、札幌をメインに拠点を置く理由

 各社は札幌をメインとしつつ、首都圏にも支社を構えている。こうした札幌以外の場所に拠点を置くことについては、首都圏にあるクライアントにアプローチすることやコンタクトがとりやすいという、ビジネス面でのメリットを挙げる。竹部氏は、ロケットスタジオの東京支店では、医療系などゲーム以外のシステム開発も手がけていることに触れ、そのクライアントに東京の会社が多いという事情もあることを加えていた。

 一方で、札幌にしてメインの拠点にしていることについては、「札幌はとてもいい場所」と口をそろえる。三上氏は、今やどこにいてもゲーム制作や発信ができるような状況と時代であることを踏まえつつ、会社を1歩出た時の環境は違うとし、仕事と生活の両立にはいい環境と感じているという。

 また小林氏は、スマイルブームがフルリモートワーク制であることに触れつつ、業界経験が全くない山梨在住の人を採用し、札幌にマンスリーマンションを借りて研修を行い、山梨に戻って仕事を続けているというエピソードを語っていた。ちなみに小林氏は、札幌は食べ物が美味しいこともあり、クライアントがそれを楽しみに出張などで来てくれるという理由も語ると、場内では大きな笑いもおきていたが、竹部氏と三上氏も深く同意していため、あながち無視できないメリットであることも推察された。

ハ・ン・ド 取締役執行役員の三上哲氏
ハ・ン・ド 取締役執行役員の三上哲氏

話題にあがることの多いAIの活用について

 昨今話題にあがることの多いAIについてどう思うかという質問が投げかけられると、竹部氏は、まだ仕事の中ではそこまで活用していないと語る。ゲーム業界は昔から流行りの技術を貪欲に取り込んできた歴史があることを振り返りつつ、AIをどのように活用していくのかは、スクラップ&ビルドのようにいろいろ試していかないと、ゲームの面白さとして寄与するには、まだたどり着かないのではという見解を示す。ただ、個人的にAIを否定するものではなく面白い技術と感じているため、きちんと理解をして、遊びに展開できるものであれば活用していきたいと語った。

 三上氏は、やれることも増えたなかで逆にどんどん忙しくなっている状況も踏まえて、AIの発展により作業が楽になるのであればありがたいとし、よりゲームを作るということの集中できる環境になることを期待しつつ、情報を集めて取り入れていきたいという。小林氏はすでに、「Nintendo Switch」のコントローラーである「Joy-Con」の操作検証などで、AIの活用を試しているという。また今後、プログラマーはコードを書かなくなくてもいい状況になっていくという展望のもと、アイデアを出していくプランナーを積極的に集めていく必要があるのでは、と語った。

スマイルブーム 代表取締役の小林貴樹氏
スマイルブーム 代表取締役の小林貴樹氏

「出力」「行動」「ゲーム制作とストア販売経験」

 最後に、来場していた参加者に向けたメッセージとして、まず竹部氏は「出力してほしい」と、制作物としてアウトプットしていくことの重要性を話す。消費者から提供者になるということは、アウトプットしたものを評価されるという世界であるということ、そして、失敗は恥でもなんでもなく、失敗をしたという知見を得られたとポジティブな解釈をするといいという。天才と呼ばれるようなクリエーターやエンジニアも、若い頃にありとあらゆる失敗をしているからこそ、今は何が起きても処理ができるスキルを身に付けていると指摘。たくさんの失敗を通じて自分のなかでフィードバックして、スキルを上げていくサイクルを行ってほしいと語った。

 三上氏は「行動すること」と、積極性を挙げる。他の地域に比べて札幌のゲーム企業は仲がよく、横のつながりがあることから、学生のわからないことや相談したいことに対してちょうどいい規模感があるのと同時に、やりたいことに対して、うちよりもこちらの企業のほうに相談するといいという紹介もすることがあるという。そういう形で遠慮せずに企業を利用するとともに、たくさん行動することよっていろんなものが見えてくること、まわりも応援してくれるので、そのような行動をしてほしいと語る。

 小林氏は、まずゲームを1本制作するとともに、たとえどんな稚拙なものあっても、それをストアに登録して販売する経験を挙げた。ものを売るという体験のみならず、ストア登録の手順を進めるには調べなければいけないことも多く、これを経験しておくことは就職活動でも利点であるという。そして学生に向けて「チャンスが多くある今の状況がうらやましい」と素直な心境を口にしつつ、そのチャンスを活用してほしいとエールを送っていた。

「Sapporo Game Camp 2023」

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