北海道は何度も行っているが、道東エリアはまだ行ったことがない――という方も多い。
そんなフロンティアとしての印象が残る道東地域を目指して9月2日、各地から13人が集まった。所属、性別、背景はさまざまだが、たった1つ「サウナ」という共通点を持つメンバーだ。
読者の皆さんも、サウナが全国的に注目されていることをご存じだろう。地方の素晴らしいランドスケープを取り込んださまざまなサウナが各地でオープンし、観光産業の強力なコンテンツの1つとなっている。経営者同士がサウナを通して地方に出向く機会も増えており、筆者もそのつながりからサウナの魅力を教えてもらった一人である。
今回は、そんな道東地域を舞台に三日間行われた「サ旅ワーケーション」について紹介する。
”道東”とは、北海道の東側、「十勝・釧路・根室・オホーツク」を一体とするエリアの総称である。筆者は、この道東の「釧路市」という街が生まれ故郷で、現在は東京と二拠点で生活しており、最近では月の三分の一程度は釧路で過ごす。
そんな筆者が釧路の魅力に気づいたのは、子どもを産んだ2006年に里帰り出産をしてからだ。毎年夏の暑い時期には避暑地として2カ月ほど釧路へ子連れで帰っていたのだが、この経験が、筆者の「ワーケーション」の根底になっているのであろう。
筆者は「東京と釧路の情報をシームレスにつなぐ」ことを目的として、地方創生ハッカソンやコミュニティイベントなどを行い首都圏から人を誘致し、地元とつなぐことを考えて企画・運営をしている。また、東京で経営する企業である「株式会社ジョイゾー」においても、ワーケーションとして新たな知見や経験を得る場所として活用してきた。
今回の旅も、その経験や地元のつながりを活かして企画し、釧路からサロマ湖・摩周湖・阿寒湖エリア一体のサウナ旅を行うことができた。
友人でもある板宏哉氏が運営する、鶴居村の「TSURUI Sauna Cabins」にて開催された、とあるサウナイベントで笹野美紀恵氏(Instagram)と知り合った。笹野氏と言えばサウナ界では知らない人がいないサウナの聖地「サウナしきじ」の娘であり、ミスインターナショナルファイナリストとなりモデルとして活動するかたわら、MBA取得もするという経歴を持つ実業家だ。
活動はサウナ美容家にとどまらず、日本各地多数のサウナプロデュースを行っており、道東では「鶴雅リゾート」の世界初ドーム型展望サウナなどを誕生させ、道東地域の魅力発信に一役買っている人物だ。
そんな笹野氏とたまたま「道東の魅力をもっと多くの人に伝えたいと思っている」という話で意気投合して盛り上がり、「一緒に道東の魅力をお伝えしながらサウナを巡る旅をしませんか?」と声をかけてくれたのだ。
彼女が思い描いていた旅は、旅行会社がパッケージ化したツアーではなく、あくまでも人とのつながりや自然の魅力を丁寧に伝える、距離感の近い道東旅。
筆者がこれまで友人たちをアテンドする際にやっていることの延長線上だと思い、二つ返事で旅の企画を考えることにした。
今回、筆者が提案したサウナは2箇所。いずれも地元で活動する中で得たご縁から、懇意にしている人たちが運営する施設だ。
1つ目は、標茶町の塘路駅目の前にあるゲストハウス「THE GEEK」。オーナーは移住者でもある達川慶輔氏。釧路湿原を見渡せる小高い場所に立つユースホテルに魅せられて移住した父のもと、自身も外資系IT企業を退職し、この土地でサウナ事業をスタートした起業家だ。
彼自身の魅力的な人柄と起業ストーリーなどは、サウナ自体の素晴らしさはもとより、雄大な自然にこれからの未来を見出した先駆者の視点も体験できる。
2つ目は、弟子屈町(てしかがちょう)にあるゲストハウス「TESHIKAGA HOSTEL MISATO」だ。私たちが知り合ったイベントに同じく参加していた若者が「弟子屈の美里の前に、バスサウナをオープンするんです」と話していたのを聞き、その時から行ってみよう! という案が2人の間に上がっていた。ここで出会った若者こそ、「摩周サウナバス」を運営する廣田悠介氏である。摩周サウナバスは、TRAPOLがスタートさせたマイクロバスを薪サウナに改造した新しいサウナ事業であり、現在は廣田氏に一任され運営されている。
美里の運営企業である加藤敏明さんと笹野さんが元々お知り合いだったこともあり、かつ筆者が釧路で開催するイベントには、前述した廣田氏をはじめとして、美里のコミュニティマネージャーである徳永かおり氏が参加してくれるなど、相互の交流がすでにあったため、こちらのサウナも選択肢から外せない場所だった。
その他にも笹野氏から熱烈にオファーをいただいたのは、筆者も愛用する銭湯サウナ「大喜湯 昭和店」だ。ここのオーナー工藤貴大氏も釧路の街づくりにおいては欠かせない人物の一人であり、今回の旅にも同行してくれた。
工藤氏とはお互いに存在は知っていたが、直接ゆっくりとお話しする機会はまだなかったため、この旅を通じてサウナを通して深い関係を築くこととなり、主催しながら自分自身にも得られることが多いツアーとなったのは嬉しい誤算であった。
人と自然とサウナの旅。距離を超えた信頼関係を結ぶのに最高のコンテンツだと改めて感じた。
今回のワーケーション旅に際し、「自腹で現地まで来てもらうこと」が条件だったこともあり、「道東のサウナ旅をしようと思っているので一緒に行きませんか?」とサウナ好きな方向けに笹野氏が一報を打ってくれた。その呼びかけから現地まで来てくれた方は、私たちを含めて13人。
遠く静岡や神奈川から来た方は、釧路へ前泊してのツアー参加だ。また、同じ北海道でも上富良野町から数時間という車を走らせ、初日のツアーのみに同行してまた夜に帰って行った方もいた。あるいは、サウナ好きが高じて東洋大学で国際観光学を専門に教鞭を取る吉岡勉氏が、この旅を通してサウナ観光の研究の参考にしたいとして参加していた。サウナという共通の趣味で集まった人たちは多種多様だった。
生きてきた場所や背景、仕事も性別も全てがバラバラな人たちが集まり、前出のサウナ以外にも、笹野氏がプロデュースした鶴雅グループのホテルサウナもしっかり楽しんだ。移動時間も情報交換などで濃密かつ楽しい時間を共に過ごし、感想を共有し、そして道東の景色を移動のさながら目にする。ただ何もない場所を移動するだけなのに、外にカメラを向けて動画を取ってしまう風景の連続だった。
美幌峠で見た凪の屈斜路湖。陽の傾きを追いかけながら、サロマ湖に到着した時の夕焼け空が素晴らし過ぎて、しばしサロマ湖をみんなと眺めた時間。
阿寒湖の少し寒いくらいのヒンヤリした空気の中での湖畔の朝散歩。
どれもお金を払ったものではなく、そこに行ったからこそ体験できる日常の贅沢であることに、それぞれの豊かな時間を刻むことできたのではないかと思う。
今回はサウナの旅を通して、道東で事業展開をする「人」と道東をまだ見たことがない「人」たちをつなげる時間になったと考えている。各人が持つ背景から、未来に向けた仕事の取り組み方や地域ビジネスの考え方を、相互に学び合いアイデアを提供し合う場面も旅の中で多く見受けられた。そこには肩書きや年齢、業種の垣根はない。
これこそが昨今推奨される「ワーケーション」で得られる高付加価値な体験だ。筆者が経営するジョイゾーも、こういった経験の機会を提供するため、社員全員にワーケーションを推進している。「旅+仕事」だけではなく、「旅を通して得られる"なにか"」が個人にとっての学びにもなり、視点や視野の広がりでもあるので、弊社が考える「ワーケーション」の本質理解を徹底して伝えている。
旅先でデスクワークをすることではなく、得た経験やつながりから"思考"をすることで個人の才能につながるのであれば、企業としても豊かな人材育成1つとして重要であると考える。
われわれは、さまざまな場所と人とのご縁を大切に、今後もワーケーションを継続していきたい。
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