東映アニメーション(東映アニメ)は、同社がプロジェクト展開を進めているアニメ「ガールズバンドクライ」に関する、関係者向けの説明会を実施。プロデューサーを務める東映アニメの平山理志氏が概要とともに、特徴としている最先端の技術を活用した映像表現についてもあわせて説明した。
東映アニメは「ドラゴンボール」シリーズをはじめ、「ワンピース」や「プリキュア」シリーズなどを手がける老舗のアニメ会社。加えて、音楽ヒットメーカーが在籍するクリエイティブカンパニーで、人気アニメ作品のテーマソングを歌唱したことでも知られるアーティストのAimerさんも所属しているagehasprings、音楽レコード会社のユニバーサルミュージックも参加する3社協同プロジェクトとして展開。神奈川県川崎市を舞台に、居場所がないと感じている少女たちがバンド活動を通して成長していく姿を描く作品として進められており、アニメーションとリアルバンド活動を融合させたプロジェクトとなっている。
製作チームも、実績豊富なスタッフを起用。監督は「ラブライブ!サンシャイン!!」で監督を務めた酒井和男氏、キャラクターデザインは、VTuberの星街すいせいさんを手掛けた手島nari氏、音楽はYUKIさんやAimerさんなどの楽曲プロデュースを手がけ、agehaspringsの代表を務める玉井健二氏が担当。CGディレクターとして「魔法つかいプリキュア」ED CGディレクターを務めた近藤まり氏や「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」のCGディレクターを務めた鄭載薫氏も参加している。プロデューサーを務める平山氏も、かつてサンライズ(現在のバンダイナムコフィルムワークス)に在籍し、「ラブライブ!」シリーズの初期から約10年にわたってプロデューサーとして携わってきた経歴を持つ。
2023年4月から徐々に展開を進めており、作中のガールズバンド「トゲナシトゲアリ」のMVを、現在までに5本を公開。後述する映像表現を用いたのが、最初のMVである「名もなき何もかも」と、5本目の「爆ぜて咲く」となっている。特に「爆ぜて咲く」については8月28日に公開され、YouTubeで260万再生を超えている(9月19日時点)。
映像表現の特徴として、平山氏は「手書きの作画アニメでもなければ、普通のCGアニメでもない“イラストルック”でのCGフルアニメーション」と説明する。
イラストルックについて、東映アニメでは2022年に公開されたアニメ映画「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」と「THE FIRST SLAM DUNK」を手がけたが、製作する際に標榜したのは“原作者の絵をそのまま動かすこと”であり、そのために独自に開発した技術を用いたという。
アニメ「ガールズバンドクライ」においても、この2作品に続く進化した映像表現を用いたものとなっており、通常の3DCGアニメーション処理と比べて、情報量を増やし密度の高い映像が可能に。手島nari氏によるデザインしたキャラクターがそのまま動いて見えるような表現になっているという。
平山氏によれば「通常の作画アニメでは、イラストをそのまま動かすのは技術的に不可能。CGであれば精密な絵を作ることができた上で動かすこともできるため、CGの利点をフルに活かしたイラストルックを目標にした」という。実際、手島nari氏も自ら確認しつつ気になるところは手を入れ、それをもとにして動きを作ったところもあるという。
また、通常は1秒間に8枚、または12枚の画像からアニメーションを制作しているが、本作では1秒間に24枚の画像(24フレーム)で制作。CGフルアニメーションにより、なめらかな映像とともに繊細な感情表現も可能にしているという。
バンドをテーマとした作品を3DCGで描くことの利点として、3Dのバーチャル空間に照明を配置することで、リアリティのあるライティングの表現ができること、またバーチャル空間のなかでの仮想のカメラで撮影し、リアルにカメラを担いで撮影したかのような、手ブレといったものも含めた臨場感のある映像表現もできることを挙げている。こうしたシーンを作画でやるには相当な労力が必要となるものを、CGであればダイナミックなカメラワークも表現しやすいと説明する。
映像面以外でも、音楽面については全てにおいて玉井氏が携わり、楽曲プロデュースのみならず、キャラクターを考慮した楽器選定をはじめ、“このキャラクターであればこう弾く、こう動く”という演奏の仕方やパフォーマンスなどの動きに至るまで関わったという。キャラクターが持つ楽器も、楽器メーカーがCGモデルを監修。音響も、演奏した場所における音の反響を考慮しての収録を行うなど、こだわりをもったものになっている。
公開したMVについては、YouTubeの再生数において、海外からの再生が全体の約60%にのぼる。なかでも国別で見るとタイやインドネシアからのアクセスが上位にきており、最近は米国や台湾からも見られるようになっているという。また、こうしたジャンルは男女比で男性が9割以上になる場合も多いなか、女性が15%ほどとしており、展開が進んでいくことによって女性比率も増えていく可能性もあるとしている。ほかにも、キャラクターが持っている楽器についても反響があり、約1カ月で1年分販売(受注分含む)した楽器店もあるという。
平山氏は、映像表現の目指すところとして「CGアニメならではの利点や特徴を推し進めたほうが、日本としてのCGアニメの生き残る道がある。手描きでもなければ、リアルルックのCGアニメでもない、日本独自のCGアニメというものは、このイラストルックが一番いいと考えていて、東映アニメとしてもこの路線を進めていく。少なくともこの映像表現は世界的に見てもほかではやってないこと。これが受け入れられれば、日本のCGアニメは世界のなかで生き残れる」と語った。
平山氏は本作の制作経緯として、もともと若い世代に向けた作品を作りたいと思案するなかで、そういった世代が社会に出ていくにあたって、経済的にも社会的にも厳しい環境にあり、選択肢が少ない状況にあることを踏まえ、女の子たちが難しい環境に置かれながらも頑張るストーリーのほうが、若い世代に共感を持ってもらえると考えたという。ちなみに本作の主人公であり、バンド「トゲナシトゲアリ」のボーカルである井芹仁菜は、高校を中退し、単身東京での大学を目指すという背景を持っている。
舞台は前述のように川崎市となっているが、その理由として、難しい環境下にある女の子たちが、いきなり東京で生活するのは家賃などで違和感があることに触れつつ、川崎市は東京と横浜の間にあるなかで活気がある街であり、全国的に名前も知られて人口が多いこと、それでいて家賃が3万円台から住めるマンションもあることなどから選定。加えて、多国籍の人が集まる街という側面もあり、主要キャラクターには外国籍のメンバーも登場。街中の雰囲気も含めてリアリティのある世界観と表現ができることも、川崎市を選んだ理由に挙げた。
バンド「トゲナシトゲアリ」は、5人で構成。キャラクターは16~22歳と、学生と社会人を含む形になっており、前述のように外国籍のメンバーも含まれる。そのキャストについては、一般公募によるオーディションで数千名の応募から5人を選出。選考基準には“声優が演奏する”とは逆の“ミュージシャンがキャストをする”という発想のもと、演奏面を重視。事務所に所属していないことも条件にしていたため、選出したキャスト5人は無名の新人という。
キャストとしてのYouTube配信やCD発売記念イベント、公開練習ライブも行っているほか、9月23日開催の「NAKAYOSHI FES.2023」におけるオープニングアウトとして出演予定となっており、こちらの活動も進めていくという。
今後についてはさまざまな展開を準備しているというなかで、直近では楽曲のCD発売や、リアルなライブ活動、アニメMVなどでプロジェクトのさらなる周知や話題の喚起をはかっていくとしている。
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