北海道、札幌市、北海道経済産業局は、2023年9月13日に札幌市内とオンラインで共同記者会見を開き、北海道内のスタートアップ支援の一本化と強化を図るための推進組織「STARTUP HOKKAIDO」を設立したことを発表した。
今後は「一次産業・食」「宇宙」「環境・エネルギー」の3つを重点分野として、北海道を「アジアのスタートアップアイランド」にすることを目指す。
実行委員長には、北海道大発ベンチャーAWL(アウル)でCHROを務める土田美那氏が就任した。また戦略アドバイザーにはSPACE COTANでCMOを務める中神美佳氏、三井不動産でベンチャー共創事業部統括を務める光村圭一郎氏が就くなど、民間メンバーも一丸となって取り組む。
北海道は、国が2019年に「世界に伍するスタートアップ・エコシステム形成戦略」を発表したのと同時期に、スタートアップ支援施策を開始した。2020年には、内閣府「スタートアップ・エコシステム推進都市」に札幌市・北海道が選定された。2021年には、政令指定都市で初となる、ライフサイエンス分野に特化した官民連携地域ファンド「札幌イノベーションファンド」を組成。2023年には、北海道庁に「スタートアップ推進室」が新設された。
2023年8月現在、北海道のスタートアップ数は100社以上。資金調達したスタートアップ数や調達額も、毎年右肩上がりで順調に推移しているという。
「昨年度は世界的にスタートアップ冬の時代ともいわれるような状況だったが、北海道においては独自の強みである宇宙やAIのスタートアップ企業が牽引して、資金調達額を増加することができた」(秋元市長)
一方で、課題もあるという。北海道のスタートアップが今後さらに発展していくためには、「3つの課題と向き合う必要がある」と秋元市長は指摘した。
「1つ目は、グローバルに活躍できるスタートアップの育成。スタートアップのマーケット拡大においては、最初からグローバル展開を意識した育成を行うことが重要だ。これまで札幌市が築いてきた、北海道の気候や風土文化が似ている北欧とつながりを土台に、北海道のスタートアップが次に展開する市場として北欧との連携を強化していきたい。2つ目は、北海道ならではの強みをもっと活かすこと。3つ目は、本日は私たち3つの行政機関が一緒に発表させていただいたが、行政が一丸となって、また企業、大学、金融機関、さまざまな力を結集して、支援リソースを分散させることなくオール北海道で、スタートアップ支援を行っていくことだ」(秋元市長)
次に、北海道知事の鈴木直道氏が登壇し「これまでは札幌市を中心に取り組んできたスタートアップ支援をさらに加速し、また全道に広げていく」と話した。そして「これからの北海道スタートアップ活性化戦略」と、「STARTUP HOKKAIDO」のロゴを発表した。
HOKKAIDOの「DO」は、英語では「行動する」という意味もあることから、「DO」のアルファベットと、スタートアップのイメージとも重なるロケットをモチーフにして、「尖った人よ、北海道に来て、前進をしようじゃないか」というメッセージを込めたという。
「このSTARTUP HOKKAIDOから、スタートアップ企業が継続的に生み出され、そしてグローバルまで発展をしていくエコシステムの構築を目的に、メンバー同士の情報集約そしてPR発信を一元的に行っていきたい。また、北海道全体のスタートアップエコシステムを見据えた戦略立案や、メンバーの力を結集した企業成長支援についても、チームとして取り組んでいく」(鈴木知事)
具体的には、「北海道の優位性のある3つの分野」に、重点的に取り組んでいくという。「一次産業・食」「宇宙」「環境・エネルギー」の3つだ。
「1つ目は一次産業・食。北海道は、農業産出額、漁業産出額いずれも全国一位という強みがある。一方で、世界の食糧需給を見ると、2050年には2010年と比較して約1.7倍になると予測されており、スマート農業をはじめとするアグリテックへの期待は世界的にも高まっている。2つ目は宇宙。2040年の宇宙産業の市場規模は、現在の約3倍の100兆円を超える見通しで、大樹町ではスペースポートの建設や、大学発のスタートアップが誕生するなど、北海道には強みがある。3つ目は環境・エネルギー。政府が今後10年間で150兆円の官民投資を行うと謳っているなか、北海道ではゼロカーボンを推進しており、再生エネルギーのポテンシャルも非常に高いエリアだ」(鈴木知事)
続いて、経済産業局長の岩永正氏と、「STARTUP HOKKAIDO 実行委員会」委員長の土田美那氏が登壇して挨拶した。
「今回、札幌市からのお声かけで、3つの行政機関が新にな連携し、STARTUP HOKKAIDOを設立できた。これにより構築されるエコシステムによって成長したスタートアップが、IPOあるいはM&AといったいわゆるEXITを目指すというだけではなく、そこを通過点として次なるスタートアップの設立、EXITの先にある大きな成長につながる、そういった動きが継続的に生まれるようサイクルをどんどん回していきたい。経済産業局としては、全国にある関連機関のネットワークも活用しながら、支援の一助になれればと思う」(岩永局長)
「起業してからエキサイティングなこともいっぱいあるが、非常に苦労も多く、今日も悩みながら生きているというのが実情。こういった多くのスタートアップが、北海道にもうごめていると思う。実行委員会で一丸となってサポートして、一社でも多くのユニコーンを輩出して、世界に発信していきたい。実行委員の活動を通じてメンバーの熱いパッションを感じているので、きっと大きな変化が生まれると思っている」(土田氏)
今後はイベントも目白押し - 3つの重点分野の企業によるパネルディスカッションも発表会では、今後開催予定のさまざまなイベントについて、告知も多くあったので、時系列でご紹介しておこう。
発表会後半には、重点分野である「一次産業・食」「宇宙」「環境・エネルギー」の3つ分野のスタートアップ企業によるパネルディスカッションも行われた。
パネラーは、ファームノートホールディングス 代表取締役の小林晋也氏、インターステラテクノロジズ 代表取締役 稲川貴大氏、Komham(コムハム) 代表取締役 西山すの氏。モデレーターは、「STARTUP HOKKAIDO」戦略アドバイザーで、三井不動産 ベンチャー共創事業部統括の光村圭一郎氏がつとめた。
左から、三井不動産の光村氏、ファームノートの小林氏、インターステラテクノロジズの稲川氏、Komhamの西山氏 「なぜ起業し、何を実現したいか」「なぜ北海道なのか」「スタートアップの創出や育成にいま何が必要か」という3つの議題について意見を交わした。
インターステラの稲川氏が、「ロケットの打ち上げ場所は、東側が空いていることが重要で、世界中でも猛烈に限られる。そのうえ、ロケットを射場まで運搬するのにも、すごくコストがかかる。当社は現在開発中のロケットを、北海道スペースポートから打ち上げようとしており、これが実現すれば大樹町は、世界でもかなりユニークなロケットの製造工場と、ロケットの発射場が隣接した貴重な場所になる」と話すなど、時間がかかっても途中で投げ出さずに官民が目線と歩調を合わせて基幹産業を創出していくための、多くの有用な視点が発信され、「STARTUP HOKKAIDO」の熱意と本気をしっかりと印象付けた。
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