2023年5月に民事再生法の手続きを申請したスマートフォンメーカーであるFCNTの経営再建に向けて、中国のレノボがスポンサーとして支援することが明らかになった。
FCNTは元々は富士通の携帯電話事業が母体だ。NTTドコモ向けに「らくらくホン」や「らくらくスマートフォン」、さらに他キャリアにも「arrows」などを供給していた。
しかし、FCNTは5月30日に携帯電話端末の開発や販売、修理事業を停止。スポンサーを募っていたなか、レノボとの話がまとまり、9月中にも新会社を設立し、事業を再開する見込みだ。
FCNTは自社で強いスマートフォンブランドを持たず、キャリアに納入するのが中心であったため、キャリアからの発注が減ると、収益に大きな影響が出る経営体質だった。
しかも、総務省による端末の割引制限により、通信契約と紐付いた割引は上限2万円という規制となった。上限が2万円になったことで、各キャリアは「2万円で売れるスマホ」をメーカーから調達し始めた。中国メーカーがその期待に応える中、FCNTも2万円台で売れる「arrows We」を開発。日本メーカーでありながら、2万円程度、割引を適用したら、かなりの安価で買えるとあって、かなりのヒットを飛ばした。
しかし、ここ数年、円安基調に加えて部材費が高騰。結果、FCNTは調達に苦しみ、会社自体の経営が悪化したのだった。
そんな、FCNTを救うのが中国のレノボだ。同社はスマートフォン事業においては、2014年にグーグル傘下のスマートフォンメーカーであったモトローラ・モビリティを手に入れた。その後、モトローラ・モビリティは北米や南米などで若者を中心にシェアを伸ばすようになり、日本でも折りたたみスマートフォンを投入するなど、ハイエンドにも商品ラインナップを広げつつある。
そもそも、レノボは、パソコンではIBMからThinkpadブランドを手に入れ、2011年にはNEC、2018年には富士通からパソコン事業を買収して拡大してきた。
今回、レノボはFCNTを手に入れたことで、レノボやモトローラブランドでは苦戦してきた日本のキャリア向けの納入を拡充できるだろう。また、信頼度の高い「日本ブランド」を武器に、世界で商品を展開ししていく可能性がある。
一方、NTTドコモにとっても「らくらくスマートフォン」を維持できるのは朗報ではないだろうか。
ただ、レノボによるFCNT救済は本当に日本市場のために良かったのかという点では疑問が残る。
FCNTは自社で強いブランドを作れていなかったという点もあるが、総務省による「2万円の割引規制」の影響を受けて、経営が行き詰まったとも言える。総務省の失策がなければ、FCNTはいまも安定した経営を維持できていた可能性がある。
今年、FCNTだけでなく、実は京セラもスマートフォン事業の見直しを行っている。一部の高耐久性モデルは残すものの、これまでのようにキャリアが企画した端末を作るということはしなくなるようだ。
これまで、日本でスマートフォン開発を手がけるメーカーは、ソニー、シャープ、FCNT、京セラの4社体制となっていた。しかし、シャープの親会社は台湾・フォックコンだし、京セラもスマートフォン事業の縮小を発表。FCNTがレノボ傘下となれば、純粋な日本メーカーで、一般ユーザー向けにスマートフォンを開発しているのは、ソニーのみという状況になってしまった。
ソニーはXperiaを出しているが、商品コンセプト的には「好きを極めるクリエイター」を意識しており、カメラやサウンドなど、こだわりを持っている人に向けた製品作りに特化してしまっている。
京セラやFCNTが得意としてきた「シンプル」や「シニア向け」といった製品をソニーがこれから作るとは考えづらい。
昨今、世界的に政治的な緊張関係が増している中、通信をはじめとするデジタル分野での経済安全保障の確保が求められている。
米国は中国・ファーウェイを数年前から排除したことで、ファーウェイの世界的なシェアを落とすことに成功した。ファーウェイは米国から制裁を受けたことで、純粋なAndroid OSやアプリストアを載せることができず、また、クアルコムの5Gチップの供給も受けられなくなった。結果、日本でも、SIMフリースマホとして人気だったファーウェイ端末が購入できない状況に陥った。
しかし、ファーウェイは独自に半導体を開発、中国国内で製造委託先にお願いすることで、数年前のiPhoneに匹敵する性能のスマートフォンを製造できるようになったという。
日本も経済安全保障の確保をしていくのであれば、日本のスマートフォンメーカーを市場から撤退させ、海外メーカーの傘下に入ってしまうような失策は直ちに辞めなくてはいけないのではないだろうか。
日本の通信業界では、NTTグループによる「IOWN」という技術によって、「1年間、充電しなくていいスマートフォン」を開発しようという動きが出ている。
しかし、本当にそうした技術が開発されたとき、親会社が海外企業のスマートフォンメーカーに発注することが望ましいのだろうか。
本来であれば、IOWNに対応し、1年に1回だけ充電すればいいスマートフォンを日本企業が作り、世界に大々的に輸出できるというのが理想的だろう。しかし、結局、ブランドだけは日本メーカーだが、製造や販売は海外メーカーが行い、美味しいところをすべて持って行かれるということにもなりかねない。
総務省では上限2万円という規制を上限4万円に見直そうとしているが、時すでに遅し。
FCNTがレノボに救済されてキャリアやユーザーにとっては一安心ではあるが、日本の通信業界の未来を考えると、失ったものはあまりに大きかったのではないだろうか。
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