サステナブルなスマートフォンのメーカーであるFairphoneは、新モデルの「Fairphone 5」で地球を救いたいと考えている。リサイクル素材やフェアトレード部品から、修理のしやすさ、他社よりも極めて長いセキュリティサポートまで、Fairphoneは社会意識の高い最新モデルでも、環境への影響を最小限に抑える努力を惜しんでいない。崇高な目標であり、同社のこうした取り組みを筆者は大いに称賛するが、スマートフォン製品として見る限り、Fairphone 5はやや期待外れだ。
特に気になるのはバッテリーの持続時間とカメラ機能で、どちらも残念な結果に終わっている。さらに悪いことに、620ポンド(約11万5000円)という価格はかなり割高で、Googleの「Pixel 7a」より200ポンド近く高い。しかも、Pixel 7aの方が高性能な点がいくつもある。Fairphone 5は、英国と欧州では9月14日に出荷が開始される予定だが、米国での販売は未定で、同社のウェブサイトでも米国とオーストラリアへの出荷は記載されていない。
もちろん、Fairphone 5も悪い点だけではない。8年間のソフトウェアサポートは群を抜いているし、画面を破損した場合でも自宅で簡単に修理できる。microSDカードスロットも搭載されているので、内部ストレージを最大2TBまで拡張することが可能だ。だが、前提となっているエコへの適格性は素晴らしいものの、価格に見合った最高のスマートフォンとは言えない。以下に、Fairphone 5について知っておいてほしい点をまとめてみた。
テクノロジー業界は、環境に優しくない世界だ。レアアース素材の採掘から、バッテリーに使われる化学物質、膨大な量の電子廃棄物まで、スマートフォンが環境に及ぼす影響は極めて大きい。それに輪をかけているのが、メーカー各社の新製品投入スケジュールで、どのメーカーも、最低1年に1回は新モデルを発表し続けている。
それと一線を画した方向を目指しているのが、Fairphoneだ。必ずフェアトレードの素材を使う組織と連携しているほか、生産工場についても労働者を不当に扱わず、公正な生活賃金を支払うところと提携している。また、Apple、サムスン、Googleといった企業がリサイクル部品を一定量しか使っていないのに対して、Fairphoneは可能な限りあらゆる部品にリサイクル素材を使用しており、それはバッテリーに使われるスズやスチールなどにまで及ぶ。
スマートフォン自体は、ユーザーが簡単に修理できるようになっている(筆者も自分で分解して試してみた)。カメラパーツ一式、ディスプレイ、バッテリーなど10種類の部品はFairphoneから直接購入できるので、自宅で修理して、より長期にわたって愛用できる。スマホが環境に及ぼす影響を最小限に抑えるには、新製品に買い換えるまで今の機種をできるだけ長く使い続けることが最も望ましい。
そのために、Fairphoneは本体について5年間の保証期間を設けているほか、Fairphone 5については「Android」OSのメジャーアップデートを少なくとも5世代分、セキュリティアップデートを最低8年間受けられると約束している。つまり、Fairphone 5は2031年にも安全に使っていられるということだ。これは、他のどのメーカーよりも大幅に長い。サムスンはこれに次いで長い方で、5年間のセキュリティアップデートを保証している一方、REDMAGICは「REDMAGIC 8 Pro」に関して2年間しかアップデートを保証していない。この点に関してはFairphoneが競合他社を大きく引き離しており、他社もこれにならうことを筆者は期待している。
物理的に見ると、Fairphone 5のデザインは特に際立っているわけではない。前モデルよりスリムに、そして軽量にはなったが、依然として無骨で、どう見ても地味だ。背面はプラスチック製で安っぽいが、取り外し可能になっているので、修理や交換が必要になったときには背面カバーを外すだけでバッテリー、SIMカードスロット、その他の部品を自分でいじれる。背面をぜいたくなガラス製にすることもできるだろうが、そうなったらこれほど簡単には開けられなくなってしまう。
秘宝が隠されているのは、そのプラスチック製背面カバーの下だ。内部ストレージは256GBだが、microSDカードスロットを搭載しているので、最大2TBまで拡張できる。ストレージ容量が不足する心配がなくなるため、これもやはり、長期間の使用に貢献する。背面を取り外せるにもかかわらず、防水・防塵性能はIP55等級で、さすがに水没には耐えられないだろうが、ビールをこぼしたときや、雨の中で取り出す必要があるときには安心できる。
側面にある電源ボタンに指紋センサーが内蔵されているが、場所的にやや違和感を感じることがある。ただし、顔認証によるロック解除にも対応しており、ほぼ常に問題なく機能した。6.46インチのディスプレイは明るくシャープで、「YouTube」の動画やモバイルゲームを本来の画質で楽しむには十分だ。屋外の直射日光が当たる環境でも見やすいというほど明るくはないが、それ以外ならほとんどの状況で申し分ない。
搭載するプロセッサーはQualcommの「QCM6490」。これはほぼ産業用およびモノのインターネット(IoT)機器用として製造されているため、このチップを採用するのは異例だ。だがFairphoneによると、一般的なモバイル用チップ、例えば他のAndroidスマホに搭載されている「Snapdragon」シリーズなどと比べて、ずっと長いソフトウェアサポートが実現するのは、まさにこのチップのおかげなのだという。
ベンチマークテストだと、QCM6490のスコアは感心するほどではないが、通常の使い方なら、基本的なウェブブラウジングや「Instagram」の閲覧と投稿、動画のストリーミングなど、いずれを扱うにも性能は申し分なく、「アルトのオデッセイ」や「アスファルト9:Legends」などのゲームにも十分に対応する。より要求水準の高い「原神」も動くが、画質設定を上げるとパフォーマンスの低下を感じた。
一方、バッテリーには間違いなく失望させられる。米CNETのバッテリー消費テストで筆者が見てきた中でも歴代ワーストの部類で、いろいろなことに使うと1日持つかどうか不安になるくらいだ。ゲームやウェブブラウジングなどさまざまな方法で使ったところ、45分で16%も減った。したがって、仕事帰りの交通機関でYouTube動画を見るような人なら、予備の外部バッテリーやポータブル充電器も携帯することを強くお勧めする。
ただし、待ち受けモードでのバッテリー持続時間はそこそこ長いので、平日の日中は通知を確認するくらいにしか使わないというのであれば、夕方まで十分に持つはずだ。Fairphone 5のバッテリー持続時間が短い理由の少なくとも一部は、異例なプロセッサーを採用したことにあるのではないだろうか。というのも、QCM6490はモバイルデバイスを想定して設計されているわけではないため、Snapdragonシリーズのように、動画のストリーミングやゲームなど要求水準の高い処理での電力効率に合わせて最適化されていない可能性が高いからだ。といっても、これはあくまでも筆者の推測にすぎない。
背面には、50メガピクセルの標準レンズと50メガピクセルの超広角レンズの2つで構成されるデュアルカメラがある。どちらのカメラも感銘を受けるほどではない。くすんだ色になり、標準と超広角で色調に顕著な差が出るなど、いずれの画質も残念だ。
超広角レンズでは、ディテールが極端に崩れ、特にフレームの端にいくほどそれが目立つ。リース沿岸で撮影した下の広角写真も、全体で見るとそれなりだが、端の方を拡大してみると、明らかにディテールに乏しいことが分かる。Pixel 7aの写真と比べてみると、違いは一目瞭然だ。
実際、Pixel 7aの背面デュアルカメラの方が一貫して画質は上で、Pixel 7aの方が価格がはるかに低いことを考えると、残念な気持ちはさらに強くなる。
残念なことだが、FairphoneにとってPixel 7aは直視したくないであろう現実だ。カメラ機能だけでなく、プロセッサーのパフォーマンスとバッテリーの持続時間でもFairphone 5より優れている。その他にも、ワイヤレス充電を備え、防水・防塵等級が高く、Googleソフトウェアの追加機能も豊富だ。
そう考えると、筆者は板挟みの気分になる。テクノロジー業界は、振る舞いを正すために本腰を入れて取り組まなければいけない。改善は可能であるということを示すためにFairphoneが手掛けているすべてのことを筆者は称賛している。Fairphone 5は、そうした素晴らしい行動の集大成であり、Fairphoneの製品を購入する人が増え、もっと大手の各社が目覚めて、それぞれがより優れた方針を実践するようになれば、本当に素晴らしいと思う。だが、このレビューでは客観的なジャーナリズムという原則を固持しなければならない。Fairphone 5には難がある。バッテリー持続時間とカメラは特に残念で、もっとパフォーマンスの高いスマートフォンがはるかに安価で手に入る。
それでも、もし写真の画質にこだわらず、モバイルゲームもあまりやらないというのであれば、Fairphone 5は購入候補になるだろう。ソフトウェアサポート期間が長く、修理が簡単となれば、今から何年も使い続けられるということで、長期的に見ればかなりお買い得という結果になるかもしれない。社会意識の高い選択をしたという点で、自分を褒めることもできそうだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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