8月25日、コンピュータエンターテインメント開発者を対象としたカンファレンス「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2023」(CEDEC2023)において、「インディーゲームが100万本売れるまで :『NEEDY GIRL OVERDOSE』の販売データから」と題した講演が実施。ゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」のパブリッシングサポートを行ったリュウズオフィス代表取締役の小沼竜太氏が、同作の販売データをもとにプロモーション施策について語った。
本作は、ワイソーシリアスのインディーゲームレーベル「WSS playground」より発売されたタイトルで、最強のインターネットエンジェル(配信者)を目指す、承認欲求強めな女の子(超絶最かわてんしちゃん)との生活が描かれた、マルチエンディング型のアドベンチャーゲームとなっている。PC向けとしてSteamを通じて2022年1月に発売され、「Nintendo Switch」向けにも2022年10月に発売。2023年6月には販売本数が100万本を突破し、7月には120万本を超えているという。
リュウズオフィスは、「NEEDY GIRL OVERDOSE」において販売本数の最大化を目的として、パブリッシングサポートを担当。日本をはじめ中国や北米、欧米のマーケティングやプロモーション、プラットフォーマー(Steam、任天堂)との窓口、セール戦略の設計などを手掛けた。
小沼氏は本作について、日本のインターネット文化を取り入れた、日本にフォーカスした内容であることから、日本が主な市場と想定していたという。実際、発表時にも国内を中心に話題となっていたが、現状における本作の販売本数を地域別の割合で見ると、50%以上を中国が占めていると説明する。
この結果は、情報の初出から発売直後のユーザーの反応を観察したうえで、中国語圏へ注力する戦略を定めたことを理由に挙げる。また販売本数を伸ばすために、Steamにおける季節のセールに加え、独自のセールと、それに連動したさまざまな施策を実施してきたことを語った。
まず本作の情報を、インディーゲーム情報番組「INDIE Live Expo」にて初公開。同番組は日本語、英語、中国語で放送を行うネット配信番組であるため、世界に向けてアピールすることができる。と同時に、Steam上でストアページを公開した。小沼氏によれば、情報初出時にストアページを公開しておくことはとても重要と説く。それは、興味を持ったユーザーが、Steamのストアページより「ウィッシュリスト」に登録してくれるからと説明する。ウィッシュリストは、登録したユーザーあてにゲームのリリース時やセール時に通知する方法として機能するものとなっている。
ウィッシュリストの登録数データも公開され、本作における情報公開から発売前日までは、日本がトップで中国を上回っていた。しかし、発売翌日には中国が日本よりも上回り、発売1カ月後には、日本の2倍以上となる14万件の登録数になったという。
さらに本作の主題歌「INTERNET OVERDOSE」については、中国の動画配信サービスのBilibiliで、860万再生を記録。これはYouTubeの700万再生を上回るものだという。こうした中国の反響を踏まえて、中国向けの生放送や、主題歌の中国語版歌詞を公開するなど、中国向けの施策を展開。さらに関心が高まり、Bilibiliに投稿された動画の再生数は累計6000万回以上にもなっているという。
発売以降でのウィッシュリストの追加数と、Steam版の販売本数の推移のデータも公開。そして、ウィッシュリストと販売本数の推移を重ねると、同じタイミングで販売数と登録追加数が伸びており、正の相関があるという。
販売本数を伸ばすためのセールにおける施策についても語られた。まず、Steamで年4回開催される季節のセールにはすべてに参加。どのセールでも販売本数を増やしており、いずれのセールでも中国での販売本数が最多となっている。
加えて、季節のセール以外にも、たとえばSwitch版発売のタイミングでSteam版のセールを実施するなど、大きな情報公開や展開があるタイミングでは独自のセールも実施し、こちらでも販売本数を伸ばしている。
全体の販売本数において、セール時の販売本数が過半数を占めている。そのなかでも季節のセールよりも独自のセールでの販売本数が多いという。販売本数を伸ばすためには独自セールも大事としつつ、プロモーション施策もセットで行うことは必須とも語った。YouTubeでの生配信を行ったほか、「INDIE Live Expo」での情報公開、ウェブ限定のCMなどを行ったという。
小沼氏はセッションのまとめとして、まずインディーゲームにおいて海外市場は重要である一方で、どういった地域で反応があるかは、販売されるまでわからないこともあるという。そのため、ウィッシュリストや販売データを分析するなど、ユーザーの反応をつぶさに見て、注力すべき地域や言語圏を見いだして決定するという、必要に応じて柔軟に対応、方針転換していくことが重要だと語る。
特にインディーゲームは、はじめからあらゆる言語に対応することや大規模なプロモーションを行うということは非常に難しいが、ユーザーの反応を見ることで、展開を強化すべきエリアや、必要な施策が見えてくることが多いと説く。実際、ここまで中国向けの施策を語っていたが、ほかにも韓国語圏でも予想以上の反応があったことから、韓国語への対応を実施したことにも触れていた。
ことSteamにおいては、その年にリリースされるタイトル数が増加し続けている状況があり、Steamに対して世界中のゲームパブリッシャーが注目しており、競合タイトルも増え続けている状況がある。それを踏まえて、セール戦略の設計と適切なプロモーションの実施や、リソースが限られるなかでどの言語圏に注力すべきかというのをいち早く見抜き、柔軟に方針を転換し、実施に落とし込んでいくということが重要であること、それはインディーゲームという柔軟に動ける組織体だからこそ、なおのこと大事と説いた。
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