地球での生活を豊かにする「宇宙×ライフサイエンス」(後編)--代替肉「Air Meat」など企業事例を紹介

喜多村悦至(リンカーズ株式会社)2023年08月31日 10時00分

 この連載では、モノづくり企業と宇宙テック/宇宙ビジネスのつながりや活用事例を、4つの技術領域ごとに解説していきます。第4回となる今回のテーマは「宇宙×ライフサイエンスイノベーション」です。前編では、地球空間では実現しにくいライフサイエンスイノベーションの「研究事例」について紹介しましたが、後編では「企業の取り組み事例」について、得られた知見や開発された技術を交えて紹介します。これら事例は、新たなWell-beingの実現に向けた多様な選択肢の増加が期待されています。

宇宙を起点とするライフサイエンス「企業事例」

【企業の取り組み事例 (1)】


 1960年代、NASA(アメリカ航空宇宙局)は宇宙食開発研究において、二酸化炭素を代謝する水素酸化細菌を利用して、宇宙飛行士が排出した二酸化炭素を栄養素に変換するコンセプトを提案しました。この着想から、米国に拠点を置くAir Proteinは、NASAの研究を原点とし、発展した二酸化炭素変換技術により、二酸化炭素から9つの必須アミノ酸を含む粉末状のタンパク質生成を可能にしました。ヒトが排出する二酸化炭素を無臭の粉末状タンパク質に替えることで、人工肉などさまざまな代替食品の製造を可能にします。

(出典:Air Proteinウェブサイト)
(出典:Air Proteinウェブサイト)

 同社は、この研究をベースに、水素酸化細菌と空気中炭素を培養しタンパク質を作ることに世界で初めて成功しています。そのタンパク質の生成ステップは、(1)垂直型発酵タンクを活用し、二酸化炭素、酸素、窒素を水、ミネラル栄養素と結合、(2)発酵タンク内同微生物により、二酸化炭素をアミノ酸へ変換、(3)得られるタンパク質を、精製、乾燥し、粉末状にする。これにより同社は、同粉末を用いて4日で代替肉「Air Meat」を形成することに成功しています。

 同代替肉は、ビタミンとミネラルが豊富で栄養価が高く、9種類の必須アミノ酸をすべて含み、大豆の2倍のアミノ酸を含んでいると述べています。同代替肉は、動物/大豆由来成分、乳成分等を含まないヴィーガン食であり、また、同代替の作出には、遺伝子組み換え作物、農薬、除草剤、ホルモン剤、抗生物質を使用しておらず、地球の気候変動と食糧不足に貢献する技術と言えます。

宇宙からの遠隔診療や手術の技術を地球上の遠隔医療に応用した医療サービスの向上


 医療技術の進化は、人類の健康と医療サービスの向上に大きな影響を与えてきました。特に近年では、宇宙からの遠隔診療や手術の技術が注目され、これらの革新的なアプローチが地球上の遠隔医療にも応用される可能性が高まっているように感じます。

 宇宙での遠隔医療は、宇宙飛行士の健康状態を遠隔で監視し、必要な治療を提供する際に重要な役割を果たしてきました。宇宙からの遠隔診療や手術の技術は、特に宇宙ステーションや探査機内で発生する医療的な緊急事態への対応において重要性を増しています。宇宙船や宇宙ステーションは地球から遠く離れた場所で活動するため、緊急時には地球上の医療専門家との遠隔コミュニケーションが必要とされます。こうした状況での遠隔診療や手術の技術が、宇宙飛行士の健康を守るために不可欠な要素となっています。

 このような宇宙での遠隔医療技術を地球上に応用することで、地域社会や災害現場においても大きな効果が期待されます。たとえば、遠隔地や離島に住む患者への医療アクセスが限られた状況では、遠隔診療や手術の技術によって遠隔地の医療スタッフと専門家とのオンラインコミュニケーションが可能となります。医療専門家の遠隔指導を受けながら、地域の医療スタッフが適切な治療を提供することが可能になるでしょう。これにより、遠隔地の医療の質が向上し、患者の健康状態の改善に寄与することが期待されます。

 また、自然災害や緊急事態への対応においても、宇宙からの遠隔医療技術が有用なツールとなるでしょう。災害現場では医療リソースが限られ、医療専門家が被災地に到着するまでに時間がかかることがあります。しかし、遠隔診療や手術の技術を活用すれば、地域の医療スタッフが遠隔地の医療専門家と連携し、被災者の治療に迅速かつ効果的に対応できるようになるでしょう。これにより、災害時の医療サービスの質が向上し、被災者の救助と健康回復がスムーズに進むことが期待されます。

 しかしながら、地球上の遠隔医療においても様々な課題が存在します。たとえば、遠隔地のインターネット環境や通信インフラの整備が不十分な場合、遠隔診療や手術の技術を利用することが難しくなります。また、遠隔医療においてはプライバシーやセキュリティの問題も重要視される必要があります。患者の個人情報や医療データが適切に保護されることが、遠隔医療の信頼性と普及に不可欠だと考えています。

【企業の取り組み事例 (2・3)】


 第3回「宇宙技術の地上への波及:新たなビジネス機会を引き寄せる宇宙ロボティクス」において、宇宙ロボティクスの進歩を牽引する先端技術の事例としてご紹介した(2)「スイスのForce Dimension」および(3)「日本のGITAI Japan」は、地球上での遠隔医療への貢献も進めています。Force Dimensionは、European Space Agency(欧州宇宙機関)と協力し、国際宇宙ステーション上でsigma.7を動作させることに成功しています。同製品は、特に外科手術など医療用途への適用を想定しています。

(出典:Force Dimensionウェブサイト)
(出典:Force Dimensionウェブサイト)

 一方、GITAI Japanは、JAXAと共同で「宇宙用作業ロボット事業」の創出に向けた事業構想の共創活動を進め、国際宇宙船(ISS)の船内・船外、月面基地開発等の作業を行うロボットを開発しています。同社は、2021年8月にISS内での技術実証を成功させ、地上での遠隔医療や災害救助等のミッションへ活用した新たなサービスを検討しています。

(出典:JAXAウェブサイト)
(出典:JAXAウェブサイト)

【企業の取り組み事例 (4)】


 米国のベンチャー企業Mobix Labsは、第5世代無線通信技術(5G)に関連する短波帯周波数(Radio Frequency:RF)ソリューション開発に特化した半導体企業です。

 同社は、超小型かつ統合されたシングルチップ、シングルダイのCMOSベースのmmWaveビームフォーマー、アンテナソリューション、RF/ミックスドシグナル半導体「True5G」を開発しています。これらの技術は、5G通信の基地局や、狭いエリアでのIoTデバイス、医療機器、産業用途での利用において、部品点数を削減し、性能向上、効率化、コスト削減、小型化、製品開発期間の短縮などのメリットを提供します。

 特に、超広帯域(UWB)アンテナMOBX1845は、合成開口や逆合成開口のターゲティング用レーダーイメージング、衛星ナビゲーション、軍事監視など、幅広い用途で利用可能な円偏波の表面実装型アンテナです。MOBX1845は高い性能と品質を持ち、防衛、航空、宇宙産業で使用されることを目指しています。

(出典:同社Linkedinウェブサイト)
(出典:同社Linkedinウェブサイト)

 この技術は、宇宙環境にも適用され、宇宙船やローバーなどの通信機能を強化し、宇宙探査機と地球間の確実な通信を実現する役割を果たします。2022年には、軍事・航空宇宙分野の電磁干渉(EMI)フィルタリング製品メーカーであるEMI Solutionsを買収し、高性能な無線通信チップの開発に取り組んでいます。同社は、2021年07月に日本貿易振興機構(JETRO)の認定パートナーに選出されています。

最後に

 「宇宙×ライフサイエンスイノベーション」の記事を通じて、一部ではありますが、地球での生活を豊かにすると考える、アカデミア研究と企業技術情報を紹介しました。これらの研究と技術の成果は、将来の宇宙探査や人類の宇宙進出にも重要な役割を果たすだけではなく、地球上での生活に直接的な恩恵をもたらす可能性も秘めています。宇宙と地球をつなぐ架け橋として、さらなる研究と協力が求められています。

 「宇宙×ライフサイエンスイノベーション」の展望は明るく、今後もさまざまな分野の専門家が知見を共有し、協力していくことで、人類の未来に大いなる成果をもたらすことでしょう。地球の生活を豊かにするだけでなく、宇宙探査という新たな挑戦に対しても、私たちは進化し続けることを信じています。

 宇宙と地球は互いに関連し合っています。宇宙の研究と技術が地球上の生活をより豊かにする手段となり、私たちの未来に新たな可能性を切り拓いています。科学と技術の進化を推し進めることで、宇宙からの恩恵を地球で具現化し、人類全体がより豊かな生活を享受できることが期待されます。

 われわれ、リンカーズオープンイノベーション研究所は、未来への挑戦を続けます。最新の技術を追い求め、情報を常に最新に保つことで、より高度なサービスを提供してまいります。特定の技術調査目的に対して、何かご質問等がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。「宇宙×ライフサイエンスイノベーション」の探求が新たな可能性への道しるべとなることを期待しています。

■アンケートのお願い

記事をご高覧いただき誠にありがとうございます。恐れ入りますが、今後のサービスの品質向上のため、皆様のご状況やご意見を伺いたく、こちらのアンケートにご協力いただければ幸いです。(回答所要時間:約1分)

■リンカーズについて

リンカーズはものづくり企業に向けたオープンイノベーション支援をしています。技術パートナー探索やユーザー開拓など、ものづくり企業の様々な課題に対してビジネスマッチングを軸にしたソリューションをご用意しております。本記事も、弊社のLinkers Research  をはじめとした調査活動で得た情報を活かして作成しております。Linkers Researchはお客様の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査 サービスです。世界の先端技術動向を大企業・中小企業・スタートアップ・アカデミア問わず調査します。お問合せはこちら

■著者について

喜多村悦至
リンカーズ株式会社リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所
シニアリサーチャフェロー/東北大学加齢医学研究所研究員
鹿児島大学大学院連合農学研究科博士課程修了、博士(農学)

2003年英国Dundee大学Life Sciences学部博士研究員、2011年英国Dundee大学Life Sciences学部Senior research associate、2017年熊本大学発生医学研究所教員を経て2018年より現職。アカデミアバックグランドを活かして、バイオテクノロジー領域を中心に先端技術動向調査、産学連携促進活動など製造業向けの技術マッチング活動を支援している。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]