日本製紙が手掛けるフードテック--木から生まれた食用バイオマス素材「セレンピア」

 テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。

 ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。今回ゲストとして登場いただいたのは、日本製紙 取締役の杉野光広氏。日本を代表する製紙会社が取り組む、食用のバイオマス素材「セレンピア」について紹介する。保水性に優れ、食品のフレッシュ感やしっとり感を長く保つことができ、きめ細かくふっくらとしたボリュームを保つ気泡安定性を持つ万能の素材が生み出された背景をお話いただく。

日本製紙 取締役の杉野光広氏
日本製紙 取締役の杉野光広氏
  1. 日本製紙が手掛けるフードテック
    1. 木から生まれたセルロースナノファイバーが食品業界を変える
    2. 食品メーカーと二人三脚で「効能」を見つけ出す
    3. 日本にある森林という資源をフードテックにいかす

木から生まれたセルロースナノファイバーが食品業界を変える

大野氏:まず、今すでにリリースをされてかなり反響があると思うのですが、セレンピアとはどのような商品なのでしょうか。

杉野氏:セレンピアは、日本製紙のセルロースナノファイバーの商品名です。このセルロースナノファイバーは、世の中で名前自体は広まっていると思います。簡単に言うと、紙の原料のパルプを化学的あるいは機械的に処理をして、非常に細かくしたものがセルロースナノファイバーです。当社でもいくつかの種類のセルロースナノファイバーを提供していまして、最も細かいものは幅が3~4ナノメートルです。

大野氏:ちょっとイメージがわきにくいのですが、3~4ナノメートルというと、どれくらい細いのでしょうか。まったく目に見えないくらい細いですか?

杉野氏:目には見えないですね。髪の毛がだいたい80ミクロンぐらいです。ナノとなると、その1000分の1くらいの大きさなので、本当に一切目には見えない大きさです。

大野氏:木から抽出した、髪の毛よりもさらに細い単位にしたものがセルロース製品ということですね。そのセルロースを、食品添加物として使うのは日本で初めてとお聞きしています。このあたりはいかがでしょうか。

杉野氏:そうですね。セルロースナノファイバー自体は他の同業他社や製紙業以外の会社でも作っていますが、食品用としては当社が初めてです。もともと日本製紙は、ケミカル事業の中でカルボキシメチルセルロースというものを売っていまして、これが我々のセルロースナノファイバーの原料です。食品の原料にもなっているものなので、食品分野に入りやすかったという背景があります。

加納:製紙会社ということで、パルプみたいなものは想像がつくのですが、それが食品という、食べられるものに採用されるまでの転換点を知りたいです。

杉野氏:セルロースナノファイバーは、増粘性、保水性、乳化安定性など、食品添加物に求められる特徴をいくつか持っています。このセルロースナノファイバーの原料が、さきほども言いましたカルボキシメチルセルロースで、自社で扱っているものだったので、これは使えるのではないかとなったんです。ただ最初は、木を食べるのかという抵抗感もあったように思います。それでなかなか受注第1号が出てこなかったのですが、一度使ってもらえるとだんだん変わってきまして、いいねと言ってもらえることも増えてきました。

バイオマス素材「セレンピア」のポイント
バイオマス素材「セレンピア」のポイント

大野氏:効能がかなりたくさんありますね。全部で6~7つくらいありますか? 次々に発見されている感じなのでしょうか。

杉野氏:先ほど挙げましたセレンピアの特性である増粘性、保水性、乳化安定性、それから気泡安定性などを食品に適用してもらい、レシピを考えてもらったのは、実はお客様のほうでやっていただいたものです。お客様のところで新たなレシピが生み出される可能性はまだまだあると思います。

大野氏:お菓子や和菓子メーカーの方と一緒になって、セレンピアを使えるところを見つけ出しているような形ですか。

杉野氏:その通りです。いちばん最初に採用されたのは和菓子で、パンやケーキ、あるいは最近だと水産加工のほうでも採用が進んでいます。試してもらって、特徴を見て使ってもらっています。

大野氏:たとえば、どら焼きにセレンピアが入ったりするとどういった効果が見えてくるのでしょうか。

杉野氏:1つは、セルロースは水を抱え込んで乾燥しにくいという特徴があるので、日持ちするようになります。たとえば、2日しか持たなかったどら焼きが4日持つようになると、店舗の近所でしか売れなかった商品を、ほかの場所でも売れるようになります。お土産として買ってもらうこともできるようになるかもしれません。これは、もちろんセレンピアを売っている我々にとってもいいことですが、使っていただくユーザーの売上げにも結びつきます。

加納:フードロス問題の解決にもつながっていきますね。

杉野氏:そうですね。最初から我々が効能を知って生み出したのではなく、お客様のほうで効能を発見していただいて、SDGsにも効果のある存在として紹介させてもらうこともあります。

大野氏:どら焼きのお話が出ましたが、セレンピアはパンにも使われているとお聞きしています。パンに使うと、どのような効果があるのでしょうか。

杉野氏:大手のベーカリーメーカーにも採用してもらっています。セルロースナノファイバーは、かなり細かい泡を立てられるという特徴があるので、パンの内部を細かい泡でふっくらさせられるんです。最近で言うと、米粉パンってありますよね。世界情勢の中で小麦粉が手に入りにくくなっていることもあり、米粉が注目されています。ただ、米粉をパンにするとなかなかふっくらしないんです。しかし、そこでセレンピアを用いると生地をふっくらさせることができるので、今少しずつ採用が増えていますね。

大野氏:セレンピアによって、膨らまなかったものを膨らませるようになったり、賞味期限を延ばしながら風味や品質を良くしたり、本当にさまざまな効能があるんですね。そして、乳化安定性という効能もあるとお聞きしましたが、これはサラダドレッシングなどで油とソースを分離させないようにする、といったものですか?

杉野氏:おっしゃる通りです。乳化ですから、水性のものの中で分散させているのですが、この場合のセルロースは目に見えません。ものすごく小さい繊維なんです。それが液体の中にネットワーク構造を構成することで、油滴がブロックされたようになります。液体の中に油が均一に分散し、乳化された状態になるんですね。ちょっと表現が難しいのですが、その効果が確認されています。

食品メーカーと二人三脚で「効能」を見つけ出す

大野氏:お話していると、ほかにも保形性向上だとか、分散安定性だとか、効能はいくらでも出てきますね。国内のフードテック素材で、トップクラスに優れた機能性を有しているように思います。

加納:ここまで多機能なものは初めて聞きました。すごく万能ですね。

杉野氏:これはお客様のおかげで、いろいろな効能を発見していただいたというのが大きいです。たとえば保形成向上の話で言うと、ケーキの上に生クリームとイチゴを乗せると、イチゴが重みでだんだん生クリームの中に沈んできてしまうことがあります。この生クリームにセレンピアを使うことによって、さきほどお話したネットワーク構造ができるので、イチゴの重みによって沈んでくるのを防ぐことができるんです。

大野氏:そうなると、低脂肪分の生クリームなどでも形を維持できるようになりますね。

加納:これが、事業として立ち上がった背景を教えていただきたいです。

杉野氏:本当に売れ始めたのはここ2年くらいで、実は、最初にどら焼きに採用してもらうまでにけっこう年数がかかっています。この2年間は、とにかくお客様に製品をいじってもらって、効能を見つけてもらうことが重要でした。日本製紙は紙を売っている会社ではあるんですが、新聞社、印刷会社などチャネルはいろいろ持っていまして、ケミカルもやっています。いろいろなチャネルを持っているので、それを活用してお客様に接触し、そこで試してもらって出てきたものを業界に横展開していくというやり方で、ここ2年間は評価してもらう機会を増やしてきました。セレンピアは最近認知度が上がってきまして、非常にうれしく思っているところです。

大野氏:いろいろなものの価格がどんどん上がってきて、これからも今までと同じような資源の調達ができるかどうかわからない不安定な時代に、国内にあるもので生産ができるのはセレンピアのチャレンジですね。私自身も非常に可能性を感じています。さらに言うと、こういう製品を作れる会社、食品添加物に使えるような商品を作れる会社はとても少ない印象があるのですが、世界的に見るとどうなんでしょうか。

杉野氏:セルロースナノファイバー自体は、日本がとても強いんです。ヨーロッパや北米ではセルロースナノクリスタルという細いセルロースを作っているんですが、これはちょっと作り方が違うものですね。種類は本当にたくさんあって、当社もいくつかの種類のセルロースナノファイバーを、ラインアップとしてそろえています。国内だけではなく、世界に発信していきたいと思っています。

日本にある森林という資源をフードテックにいかす

大野氏:日本の強みを活かした、日本にとっても重要な商品になっていく気がしますね。そんな中、セレンピアだけでなく、「元気森森」という商品も出されていますよね。これはどういった商品なのでしょうか。

「元気森森」は木から高純度、高品質のセルロースだけ抽出している
「元気森森」は木から高純度、高品質のセルロースだけ抽出している

杉野氏:これも、紙の原料であるパルプを使っています。当社で技術的にアレンジをして、牛の餌として販売しているものですね。牛は2種類の食べ物を食べていまして、1つはいわゆる濃厚飼料と呼ばれるもの、もう1つが粗飼料と呼ばれるものです。それぞれに役割があり、濃厚飼料はエネルギーになるもの、粗飼料は牛の胃の調子を良くするものです。牛はこの2つを食べているんですが、我々の元気森森は、その両方の特徴を兼ね備えています。効果としては、乳量が上がる、乳脂肪率が上がる、繁殖成績が良くなる、などですね。いろいろな効果がありまして、現在いくつかの牧場で採用していただいています。

「元気森森」の効果
「元気森森」の効果

大野氏:飼料、魚粉、トウモロコシなど、いろいろなものの価格が高騰して資源が手に入らなくなっている今、日本中にある木の資源を使ってそれを餌にできてしまうのはすごいですね。そして濃厚飼料と粗飼料のいいとこ取り、ハイブリッド版として作っていると。

加納:万能ですね。

大野氏:さらに、この製品は単に餌として使えるだけでなく、病気もしづらくなると聞きました。

杉野氏:そうなんです。やはり、元気になるところはポイントですね。牛の病気にはいくつか種類があるんですが、胃の調子が悪くなる病気は、牛が死んでしまうケースも多いと聞いています。元気森森はトウモロコシなどの濃厚飼料のようにエネルギーを与えることもできるんですが、粗飼料のように、ある程度時間をかけて消化していくという特徴もあります。結果として元気になる、元気になるので病気になりにくい、あるいは病気が治りやすくなります。

大野氏:セルロースにはさまざまな可能性があると感じるんですが、今は飼料や食品添加物に用いられているこのセルロースナノファイバーは、これからどのような展開をしていくのでしょうか。

杉野氏:実は、日本は資源がないと言いながらも国土の70%は森林に覆われています。なので、森林という資源はあるんですね。我々が今やろうとしているのは、1つはセルロースナノファイバーやさきほどの元気森森の販売なんですが、それ以外に、バイオコンポジットというプラスチックの代替素材があります。これはセルロース繊維と樹脂のコンポジットなんですが、現在これのサンプルワークを行っています。あとは、エネルギーですね。エネルギーの分野では、エタノールで事業を検討しているところで、航空燃料として使えるようなものを準備しています。日本には資源がないと言われていますが、こうして補うことは、まさに国策になってくると思っています。副次的な効果として林業再生にもつながっていきますし、中央官庁とも連携を取りながら進めていきたいと思っています。

加納:すごく夢のある素材ですね。2年前のどら焼きから始まったこの事業の、ここ数年のビジネスの動きについて教えていただけますか。

杉野氏:食品の分野で言うと、パン、お菓子、水産加工と幅広いところで採用が進んでいます。それ以外だと、化粧品もあります。化粧品に関しては、セルロースナノファイバーを作っている他社も進出していて、食品以上に採用ケースが多いです。海外での採用もありますね。

 あとは工業用途でも、コーティング剤、分散剤、定着剤などとして採用されています。繊維業界でも、幅広く使っていただく検討をして頂いています。これらはそのほとんどが、お客様に触っていただいて機能が見出されたものです。なので、これからもお客様との接点を大事にして、いろいろな機能を見つけて、それをビジネスにしていきたいと思っています。

加納:お客様と二人三脚で作られているんですね。かなり売上げも伸びていると聞きました。

杉野氏:日本製紙として、2025年で売上げ150億、2030年で650億という数字を新素材事業で掲げています。セルロースナノファイバーだけでなく他の素材も含めてですが、それに向けて今は進めているところです。

大野氏:こういったフードテックや新規事業で、いろいろな企業がさまざまな取り組みをされていると思うんですが、その中でこういった形で成長し続けるのは、成功事例の1つなのではないかと感じます。新しい事業や新しい素材を作って世の中に出していく際、躓いてしまう場合って多いのではないでしょうか。

加納:新規事業のお話を伺うと、やはり強みと弱みがあって、次第にウィークポイントが出てきてしまうケースが多いんですが、セルロースナノファイバーに関しては弱点が見当たらないという印象を受けました。

大野氏:いちばん注目したいのは、日本には資源がないと言われている中、日本の国土の7割近くある木を有効活用できるという可能性ですよね。

 音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」では、このお話の続きを配信しています。このあとは音声にてお聞きください。

日本製紙
セルロースナノファイバー(CNF):cellenpia
元気森森

大野泰敬氏

スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー

事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。

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