英国に本拠を置くRem3dy Health(レメディ・ヘルス)は、新たなサプリメント・グミ「ナリッシュ3D(ナリッシュト)」の日本展開に踏み出した。ナリッシュ3Dは3Dプリンターを使用して製造するという目新しさだけでなく、個人の好みや健康状態、目的などに応じた適切な成分を含むようにカスタマイズして注文できることも大きな特徴だ。
すでに大規模生産を可能にし、英国と米国で販売を開始しているほか、日本のサントリーからの出資も受けている。製品の詳細や日本展開にあたっての意気込みなど、同社CEO兼創業者のメリッサ・スノーヴァー氏に話を聞いた。
――3Dプリンターを使用した食品開発を始めた経緯について教えていただけますか。
私が食品製造にかかわり始めたのは2010年のことで、当時は大規模な工場で生産していました。伝統的な製造業の形をとっていたのですが、そこには多くの制約があり、開発もスローで非効率でしたから、それを大変もどかしく思っていました。
2014年にその事業を売却した後は、本当に消費者が欲しいと思っているものを、必要とされる時に作ってお届けしたい、という思いから3Dプリンターを活用することを考えました。そこで始めたのが、自由な形で作れるカスタマイズキャンディです。顔写真などをキャンディーにしたり、ビルやロゴなどの絵を元に作ったりすることもできます。誕生日のグリーティングカードをキャンディにすることも可能です。
カスタマイズキャンディは、私たちが3Dプリンターを使って製造した初めての食品です。3Dプリンターの制御用言語であるG-codeを知ったのもその時です。6カ月ほどかけて3Dプリンターを扱えるようになり、そのキャンディの試作品が世界で初めてFSA(英国食品基準庁)とFDA(アメリカ食品医薬品局)から認証を受けた3Dプリンターを使った食品となりました。
キャンディのビジネスもうまくいっていましたが、もし医療や健康の分野でもカスタマイズ、パーソナライズすることができれば、人々の生活をもっと変えることができるのではないか。そう思い、レメディ・ヘルスという会社を設立してナリッシュ3Dを始めることにしました。
――出張中にサプリメントをこぼして、その出来事が3Dプリンターで作るアイデアにつながったとも伺っています。
そうなんです。2018年のある日、ドイツからイギリスに戻るときに空港で錠剤のサプリメントを派手にこぼしてしまいました。しゃがみ込んで拾っていたのですが、後ろに並んでいる人たちもイライラしながら待っていて、こんなことにならないようにする解決策があるはずだと。そこで、すでにその頃は3Dプリンターを使ったキャンディのビジネスをしていたこともあって、こぼしにくいサプリメントを3Dプリンターで作ればいいのでは、という発想が生まれました。
――ナリッシュ3Dという製品について詳しく教えてください。
すべて天然の素材をもとにした、30種類以上の栄養素から7種類を選んで組み合わせることができるサプリメント・グミです。味もカスタマイズでき、トータルの組み合わせパターンはおよそ600億にもなります。その膨大なパターンのなかから、欲しいものをオンデマンドで作れるところもユニークなポイントです。しかも、ニーズに応じて必要なものだけ生産するので廃棄物が少なく、素材や包装を必要最小限に抑えられるためサステナブルなビジネスにもなっています。
製造には3Dプリンティング技術を使用します。現在は3つの生産工場に200人以上の従業員がおり、専用の3Dプリンターにより月間数百万個の製造が可能なキャパシティをもっています。機械、成分、製造プロセスなどにおいて19の特許技術を保有し、それらの技術を活用してパーソナライズ化された食品を大規模に提供するのは私たちが初めてです。現在は英国と米国で事業展開しており、3つ目の市場が日本ということになります。
――今までのサプリメントは錠剤のようなものが多かったと思いますが、グミに着目した理由は?
なぜグミにしたかというと、若い人たちの場合、錠剤のようなサプリメントだと日常的に続かない、ということが調査でわかったのが1つ。サプリメントにはプロテインもありますが、それだと大量に摂取しないといけないのがネックです。健康を目指していくうえでは、一度摂取すれば終わりではありません。毎日長く続けてもらうことが必要で、そのためにはもっと楽しんで続けられるような要素がなければいけません。
そこをグミという形にすることで、楽しんで摂取し続けてもらえるだろうと考えました。小さく軽量な扱いやすいものにして提供することで、より長く継続してもらえると思っています。ちなみにグミは世界の食品カテゴリーにおいて最も成長率が高いとも言われています。
――3Dプリンターを使うことのメリットは何でしょうか。
ナリッシュ3Dは各成分を7段に積層することで、その人に本当に合ったカスタマイズができるようになっています。これは3Dプリンターを使っているからこそ可能になったことだと考えています。また、私たち独自のカプセル化技術により7層それぞれが混ざらないようになっているため、各成分の効能を最大化できます。
このカプセル化技術では、成型時にグミが高温になり劣化するようなことも防げます。従来のグミ生産方法では、混合物を約150度以上に加熱する必要がありました。私たちの技術では、より低温での製造が可能なため、加工中に活性成分を失わずに最大限の有効性を維持でき、ユーザーにとってより良い利点をもたらすことができます。
3Dプリンターを使うメリットは、たとえば成分や味を新たに追加しやすいところにもあります。市場にマッチしたローカライズされたソリューションを比較的容易に提供できます。従来は市場に合う商品を追加するのに何年も費やしていましたが、3Dプリンターを使うことで数週間~数カ月といった短期間で対応し、提供できます。
――商品はどのように提供する予定ですか。
英国では店頭でパッケージ販売もしていますが、日本では今のところパーソナライズしたものを英国で製造し並行輸入する形でオンライン販売します。当社のウェブサイト上で現在の健康状態やライフスタイル、何を達成したいのかといった目標など、いくつかの質問に回答していただき、その結果と約2万件ある臨床データとを独自のアルゴリズムで照合することで、その人に真に最適な7種類の成分をレコメンドします。味についても好みのタイプを選んでいただくことができ、その後、お客様が選択された成分のグミをお届けします。成分や味は注文ごとに変えることも可能です。
――価格はどれくらいになりそうでしょうか。
継続的に定期購入していただくサブスクリプションでの提供もしますが、欲しいときに欲しいだけ購入していただける、というのが基本です。1箱28日分を毎月購入する定期購入(月額8000円)と、1回分(1万2000円)の2通りを用意しています。参考までに、英国の小売店で販売している1週間分(7個入り)の商品は14.99ポンド、日本円で2700円くらいです。まだ具体的な契約などはありませんが、日本でもぜひコンビニなどの小売店で販売したいと思っていまして、その時には1個入りのものがだいたい200~300円になるかと思います。
――健康という観点で、日本は他国と比べてどういう傾向があると感じていますか。また、日本市場ならではの商品展開もあるのでしょうか。
国によって消費者の求めるものは違っています。日本の方が求めているものはメンタルヘルスや認知機能、睡眠周りのソリューションが多いようです。他にも体重管理やアンチエイジングなどで他国と捉え方が少し違う部分もありますが、一番異なっているのは味覚だと思います。そのため、私たちは日本の方が好む新しいフレーバーを6カ月かけて開発しました。今のところ柚子などのフレーバーを日本市場向けに提供する予定です。
――日本のサントリーから出資を受けています。その狙いと、日本展開にあたってどのような役割をもっているのかなど、教えていただけますか。
サントリーは、2022年9月から英国のレメディ・ヘルスに対して出資してくださっています。当社の取締役会にも参加していただいていますが、今回の日本事業については私どもが責任を持ちます。ただ、日本展開に向けて多くの支援をしていただいるのも事実です。たとえばローカルな視点でのフィードバックをいただいたり、翻訳・ローカライズをしていただいたり、日本国内の規制に関する情報をいただいたりですね。味や成分についてアドバイスをいただくこともありますし、パートナーとして、そして投資家としてさまざまに力添えいただき大変感謝しています。
――試食しましたが、シュガーフリーにも関わらず十分に甘さも感じられました。味や香りもいいですね。
ナリッシュ3Dではエリスリトールという天然甘味料をコーティングに使用することができます。これは砂糖ではないので血糖値に影響しませんから、糖尿病の方が摂取しても問題ありませんし、糖質制限している方にも食べていただけます。
また、当社では香りや味に関する独自の技術も持っています。レスベラトロールという成分も選べるのですが、これは本来ひどい、おむつのような臭いがするのですけれど(笑)、それでも香りのいい、おいしいものに仕上がります。英国では法律上、こうした食品の素材には100%天然由来のものを使わなければいけませんので、どれも自然の味と色になっているのも特徴です。
――日本向けに柚子などのフレーバーも取り入れるとのことでしたが、気になっている日本の食材・素材は何かありますか?
私は日本食も好きです。特に精進料理は美しい芸術みたいですよね。お寿司も好きで、日本に来てから1日に3回食べたほどです(笑)。あとは発酵食品、ピクルスも好きで、キュウリの漬物もたくさん買いました。
私としては、ナリッシュ3Dの日本向けの素材として、たとえば桜や抹茶のようなフレーバーを追加できれば、とは思っています。7日分の商品で1個だけ漬物味を紛れ込ませるみたいに、エイプリルフール向けのフレーバーをジョークで入れることも、もしかするとアリかもしれませんが(笑)。
――3Dプリンターを使った食品ということで、宇宙食にも応用できそうな気がします。そういった展開も今後考えられるのでしょうか。
宇宙をはじめ別領域への展開についても1年以上模索しています。現在は栄養補給のためのサプリメントとしていますが、薬品にも同じ技術を転用できます。3Dプリンターという機械が1台あるだけで、栄養素も薬も作れるわけです。3Dプリンターは小さいスペースにも置けますし、生産時のゴミが少ないなど多様なメリットがあります。人類が月や火星に居住するときには大きなバリューを出せるでしょうし、もちろん地上でも、災害時や十分な栄養が得られない地域などで活躍するチャンスがあると思っています。
――日本国内に製造工場を置くことも考えていますか。
日本国内での生産については、特に決まっていることはありません。まずは日本市場でのロ-ンチを成功させてから、初めて次のステップに進めるものと思っています。ですが、2024年以降には日本での生産も考えられる状況になれば、という思いはあります。
――最後に、日本展開に向けて改めて意気込みをお聞かせください。
実は私の祖父が若い頃に8年間日本に住んでおり、祖父から日本について料理を含めいろいろと話を聞いていました。日本は健康な方が多く、自然なライフスタイルを持っています。そんな日本の市場でビジネスできるのは大変うれしく、まさに夢のようなことだと思っているところです。
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