企業のワーケーション導入が進まない理由として、日本経済団体連合会は以下の4つを挙げている。
こうした声を受け、同団体は2022年7月19日、「企業向けワーケーション導入ガイドブック」を発行した。企業の導入ステップや目的設定、制度整備といった内容がわかりやすくまとめられているので、ぜひご一読いただきたい。
ガイドブックには「誰が働く場所を決定できるのか」という観点における制度設計の進め方について書かれている。もちろん大事な観点ではあるが、実はその前に決めておかなければならない、さらに重要なポイントがある。それは「ワーケーションの目的」だ。
今回は企業にとってのワーケーションの目的と費用負担について、どのような整理の仕方があるのかについて見ていこう。
企業から見た時に整理しやすいのは、「仕事として行くのか」「休暇としていくのか」という横軸と「企業が誘導するのか」「個人の発意から始まるのか」という縦軸に分けた分類方法であろう。
ここでは、上記を(1)人材研修型、(2)福利厚生型、(3)仕事集中型、(4)多様な働き方、の4つの象限に分け、目的に合わせて費用負担を整理していきたい。
まず、企業が仕事として社員をワーケーションに行かせる場合は、図1の右上に当たる(1)人材研修型となる。第1回でご紹介した地域課題解決型がこれにあたる。
また、会社都合の場合でも、福利厚生のカフェプランとして補助を用意することで休暇の拡張を促すなど、「有給休暇の取得」を実施の目的としている企業も高い傾向にあった。こちらが(2)福利厚生型だ。観光庁ではこのケースは休暇に割り振られているが、有給休暇の推進を目的に設定する場合は、会社が費用を負担する会社都合のものというのも一部では見られる。
続いて下の段の(3)仕事集中型、(4)多様な働き方が分類される、「個人の発意」について見ていこう。仕事に集中したいときにサテライトオフィスを活用したり、旅行をしながら知見を広げたりできるような多様な働き方がしたい場合は、個人が裁量をもって動くことになる。企業としては個人負担という形で整理するほうが制度設計しやすいだろう。
また、左側にある「関わりしろ+ation」については、「ation」がバケーションだけに限られない。エデュケーションやコミュニケーションといった考え方で整理していくと、単なる休暇だけでなく、人材育成や社員、部署間の交流を深めるといった目的でも落とし込みやすくなる。その場合は「関わりしろ」の部分を何にするのか、各社で整理が必要だ。
ここからは具体的な企業事例についてご紹介していこう。まずは日本航空(JAL)だ。
2017年当初は、有給取得のためのワーケーションを目的としてきた。そのため福利厚生型での導入になるが、移動費や宿泊費に関しては社割を利用できるなど、相応の補助を用意したうえでの自己負担としている。
会議の際にはオフィスに戻る必要があるため長期休みを取りにくい、といった部分があるものの、海外で電話会議ができる場合もあるようだ。間接部署の2000人が対象で、2020年度についてはそのうちの2割が利用したという。
JALは一方で、集中討議する合宿型ワーケーションや農業体験を通した自立人材の育成なども行っている。その際はワーケーションとして会社都合で、経費を負担している。このように目的に応じて経費補助の在り方を変えているのが特徴だ。
続いては、ユニリーバ・ジャパンの事例を紹介したい。ユニリーバ・ジャパンでは2016年から、社員自身が場所や時間を自由に選べる新しい働き方として「WAA」(Work from Anywhere andAnytime)を導入している。この中で、地方創生や地域活性に着目し、自治体の方とともに課題解決型のプログラムを作る「地域 de WAA」というものを2019年から始めている。
「地域 de WAA」は、会社から指定された自治体に社員が足を運んで活動した場合に費用を補助する、というものだ。手を挙げるかどうかは社員の希望ではあるが、企業が場所を指定して地域活動を行う教育プログラムという位置づけのため、人材研修型といってよいだろう。
その際の指定地域は、ユニリーバ・ジャパンが連携協定を結んだ自治体から選ばれる。そのため自治体からも補助が出たり、提携する宿泊施設が無料または優遇価格で宿泊できたりと、社員は動きやすく、会社負担も軽減できるといったメリットが作りやすい。これは地域間連携における特徴だろう。
一方で、さまざまなプログラムを実施する場合は交通費や滞在費だけでなく、事故などの万が一の場合への準備も必要になる。ユニリーバ・ジャパンでは保険加入を義務付け、保険料を会社が負担する制度を同時に制定した。
このように個人の発意でワーケーションを行う場合でも、社員教育や地域との連携を組み合わせて設計するのも工夫の1つといえる。
2016年からオフィスや自宅だけでなく、サテライトオフィスなどのサードプレイスを含め、社員が最もパフォーマンスを発揮できる場所で仕事できる制度を導入したのは日本マイクロソフトだ。もちろんワーケーションも容認されている。
ただ、こちらは個人の発意で社員自らが場所を決めて行うことなので、移動費や宿泊費に関しては自己負担としている。またワーケーションに関する特別な制度を要しているわけでもない。当時の社長である平野拓也氏が「ワーク・ライフ・チョイスの実現」を掲げていたことからもわかるように、働き手が選択肢を持てるようにする中でワーケーションに対応している企業もある。
湯田健一郎
株式会社パソナ 営業統括本部 リンクワークスタイル推進統括 など
組織戦略・BPO・CRMのコンサルティングに携わり、特にICTを活用した事業プロセス最適化の視点から、幅広い業界・企業を担当。株式会社パソナにて営業企画、事業開発、システム推進、Webブランディングの責任者を経て、現在は、ICTを活用し、場所を問わず多様な人材の能力を活かす、「LINK WORK (リンクワーク)」の推進を統括。2014年5月に設立したクラウドソーシング事業者の業界団体である一般社団法人クラウドソーシング協会の事務局長も務め、テレワーク、パラレルワーク、クラウドソーシング、シェアリングエコノミー、フリーランス活用分野の専門家として、政府の働き方改革推進施策にも多数関わりつつ、自身もハイブリッドワークを実践している。
また、国家戦略特区として、テレワーク推進を展開している東京テレワーク推進センターの統括の他、多数のテレワーク推進事業のアドバイザーも兼務。政府の働き方改革推進に関連する経済産業省の「雇用関係によらない働き方に関する研究会」や厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」「雇用類似の働き方に関する検討会」「仲介事業に関するルール検討委員会」委員等も務める。
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