ドコモ回線が「つながりにくい」問題はなぜ起きている--他社で発生しない理由は - (page 2)

2023年夏までに「2つの対策」

 NTTドコモとしては、こうした課題を瞬速5Gの整備で解消したいものの、それには時間がかかるという。そこで、2023年夏までに2つのチューニングを施して対処すると明かした。1つは瞬足5G対応基地局のエリアを少し広げ、瞬速5G未対応の基地局にかかっていた負担を減らすよう調整することだ。

 もう1つは、800MHz帯にトラフィックが集中しないよう、他の周波数帯に分散するよう制御することだ。最近のスマートフォンは、複数の周波数帯を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術を活用しており、800MHz帯以外の周波数帯もフル活用しているように思える。しかし、ドコモ側の説明によると、端末側が最初に800MHz帯の電波を捉えてしまうことから、800MHz帯以外の周波数帯に先に接続するよう、キャリアアグリゲーションも含め制御していくとのことだ。

瞬速5Gを整備した基地局にトラフィックを分散するようエリアを調整したり、800MHz帯以外の周波数帯の接続を優先するよう分散化を図ることで、当面の対処を進めるとのこと
瞬速5Gを整備した基地局にトラフィックを分散するようエリアを調整したり、800MHz帯以外の周波数帯の接続を優先するよう分散化を図ることで、当面の対処を進めるとのこと

なぜNTTドコモだけに問題が起きたのか

 ただ気になるのは、同様の事象がKDDIやソフトバンクでは起きていないことである。もちろん、ドコモの契約数は他社より多いので、ユーザー数の違いが影響している可能性はあるだろうが、都市の再開発で基地局に影響を受けるというのはNTTドコモに限った話ではない。また、スマートフォンでデータ通信が使い放題になるプランは他の2社も提供しており、トラフィック増加の傾向も大きく変わらないと考えられる。

 もちろん、今後トラフィックの増大で他社でも同様の事象が出てくる可能性は十分あり得る。しかし、少なくとも現時点では、ドコモと他の大手2社とで、都市部での通信品質に大きな開きが出ているのは確かだ。それゆえ一連の問題には、ドコモの5Gネットワーク整備方針も少なからず影響しているのではないかと考えられる。

 その1つは、4G向けから5G向けに転用した周波数帯の活用に対する方針の違いだ。先にも触れた通り、ドコモは5G向けに割り当てられた周波数帯を重視して整備を進めているが、これは同社だけが衛星通信との干渉の影響を受けにくい4.5GHz帯を割り当てられた影響が大きい。

 他の2社は、5G向けに割り当てられた3.7GHz帯が衛星通信との干渉で思うように整備できなかった。そこで、4Gから転用した周波数帯を積極的に活用して5Gのエリアを早く広げる方針を取った。一方でNTTドコモは転用周波数帯を、トラフィックが少ないエリアに限定して活用しているのが現状だ。

KDDIやソフトバンクが5Gの整備に積極活用している4Gからの転用周波数帯だが、瞬速5Gに重点を置くNTTドコモは、その活用がトラフィックの少ない地方などにとどまっているようだ
KDDIやソフトバンクが5Gの整備に積極活用している4Gからの転用周波数帯だが、瞬速5Gに重点を置くNTTドコモは、その活用がトラフィックの少ない地方などにとどまっているようだ

 それゆえ他社のケースを考慮するならば、転用周波数帯をより積極的に活用して5Gのエリアを早期に広げることに重きを置いた方が、一連の問題解消につながる可能性も考えられる。ただドコモ側は、4Gの周波数帯が5G向け周波数帯より容量が少ないことから、それを活用しての対策は難しいと否定している。

 もう1つは「Massive MIMO」である。Massive MIMOは多数のアンテナ素子を用いることで、人が多く集まる場所などで高速化を実現する技術であり、5GではMassive MIMO高速大容量通信の切り札として積極導入している国や地域が多いが、日本では導入があまり進んでいない状況にある。

総務省「5Gビジネスデザインワーキンググループ」第2回会合のエリクソン・ジャパン提出資料より。大容量通信に強いとされるMassive MIMOだが、周辺各国と比べ日本ではその導入が大きく遅れている状況にある
総務省「5Gビジネスデザインワーキンググループ」第2回会合のエリクソン・ジャパン提出資料より。大容量通信に強いとされるMassive MIMOだが、周辺各国と比べ日本ではその導入が大きく遅れている状況にある

 しかも、Massive MIMOの導入に関しては携帯各社で温度差があり、ソフトバンクは4Gの時代からMassive MIMOを導入し、楽天モバイルも5Gで全面的に導入を進めているというが、NTTドコモはMassive MIMOの導入を現在も「検討中」と話すなど消極的な姿勢を取り続けてきた感は否めない。チューニングの問題だけでなく、採用する技術の選択によって急増するトラフィックへの対処で差が付いた可能性も、十分考えられるのではないだろうか。

 筆者の周辺でも、一連の問題によってNTTドコモから「MNPしたい」という声が増えており、同社のビジネスを考慮しても深刻な状況となっていることは間違いない。だからこそメディア向けに現状を説明するに至ったのだろうが、最も不満を抱いているのはユーザーであるはずだ。同社にはつながりにくさの対策を進めると同時に、ユーザーに対する現状と対処の丁寧な説明も求められるのではないだろうか。

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