この1カ月、TikTokの親会社の字節跳動(バイトダンス)は、Instagramに似たスタイルの自社アプリを米国のソーシャルメディアユーザーに積極的に売り込んでいる。「Lemon8(レモンエイト)」という名のこのアプリは、動画と写真を共有できるソーシャルメディアプラットフォームで、グルメ、美容、ウェルネス、旅行などに関心を持つユーザーをターゲットにしている。
もっとも、Lemon8は新しいアプリではない。米国のソーシャルメディアユーザーにとって目新しいだけだ。TechCrunchによれば、Lemon8は米国で総合チャートのトップ200にランクインしたことが一度もなかったが、米国時間3月27日にはAppleの「App Store」でランキングのトップ10に入るなど、大きく飛躍しているという。
オンライン、より具体的にはTikTokで活躍するソーシャルメディアインフルエンサーたちは、このアプリを「InstagramとPinterestの間に生まれた子供」のようなアプリだと評している。
Lemon8は、動画や写真の共有が可能なソーシャルメディアアプリだ。このアプリに投稿されたコンテンツは、特定のトピックと関連付けられていることが多い。
このアプリには、「ファッション」「ビューティー」「グルメ」「トラベル」などのトレンドトピックが設けられており、それぞれのトピックごとにおすすめのコンテンツが表示される。中にはGRWM動画(「Get Ready With Me」の略で朝起きてから出かけるまでの様子を映した動画)もある。
ファッションインフルエンサーであれば、Lemon8上で自分の服を買った場所やその値段を「タグ付け」できる。アプリ上で作成されたコンテンツが、お気に入りのインフルエンサーと同じような商品の購入を促すことを目的としている点で、Lemon8はInstagramに一番近いアプリだ。
Lemon8を所有するのは、TikTokの親会社である字節跳動(バイトダンス)だ。同社はLemon8で、徐々に米国ユーザーの関心を失いつつあるとされる同国発のInstagramに対抗しようとしている。Lemon8を投入することで、バイトダンスは米国で最も人気の高いアプリであるTikTokとのつながりを利用して、ユーザーにInstagramからの移行を促せると期待しているのだろう。
しかし、Lemon8の人気が急拡大すれば、姉妹アプリのTikTokと同じように、米国での命運がリスクにさらされるおそれもある。Lemon8が米国市場で成功を収めた場合、考えられるシナリオは次のいずれかだろう。1つは、クリエイターがTikTokとLemon8を禁じる法案を阻止しようと政治家に働きかける可能性。もう1つは、政府のより迅速な行動を誘発する可能性だ。
米連邦議会下院議長のKevin McCarthy氏は26日、TikTokを禁じる法律の制定を下院で「進める予定」だとツイートしている。
中国では、ライフスタイル系のソーシャルメディアアプリでは小紅書(シャオホンスウ)が圧倒的な人気を誇っている。小紅書が中国のソーシャルネットワーキング市場とEコマース市場で大きなシェアを獲得していることから、バイトダンスは対抗するLemon8で、欧米への進出を狙っているのだろう。
Lemon8は、小紅書がそれほど普及していない日本とタイですでに人気が高い。Lemon8のインフルエンサーは、TikTokやInstagramのアカウントと連携することで、ソーシャルメディアでのリーチを拡大できる。Lemon8には今のところ著名インフルエンサーは参加していないようだが、InstagramやTikTokに900人から3000人程度のフォロワーを持っているマイクロインフルエンサーが多くいる。
米国在住の筆者が確認したところ、Lemon8の投稿の多くには、キャプションの最後に#Lemon8partnerというタグが付いており、プラットフォームの人気を生み出すために、Lemon8がクリエイターにお金を払ってアプリへの投稿を始めさせていることがうかがえる。またそれらのインフルエンサーは、TikTokで視聴者にLemon8への参加を呼びかけている。
ほかのソーシャルメディアプラットフォームと同じように、どちらのアプリでも、ユーザーはコンテンツを作成してさまざまな視聴者に提供することができる。ただし、有名人以外がTwitterやInstagram、Facebook、TikTokのすべてで大成功を収めることはほとんどない。
TikTokのクリエイターは、多くの場合特定のニッチな分野で視聴者を集めており、その分野は、料理、ダンス、短いコント、教育コンテンツ、あるいは単に自分の個性をアピールするものなど多岐にわたっている。ただし、TikTokのコンテンツは動画であるため、TikTokのインフルエンサーは、自分たちのコンテンツはより自然なものだと視聴者に訴えることができる。
また、TikTokがコンテンツ作成寄りのソーシャルメディアであるのに対して、Lemon8はマーケティング寄りだと言えるだろう。Lemon8のインフルエンサーもInstagramのインフルエンサーと同じように、ブランドや企業から報酬を受け取って服を着たり、製品のプロモーションを行ったりして、特定のおしゃれアイテムやコスメ、ライフスタイルを視聴者に売り込むことになるだろう。
TikTokでも、報酬を受け取って製品を売り込んだり、特定のライフスタイルを実現するための製品を売り込むクリエイターは存在している。しかしほとんどのTikTokクリエイターは、動画やライブストリームのビューを増やすことで利益を上げている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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