天候にあわせたクーポン配信で前年比売上10倍の商品も--1日2000万人が来店する「セブン-イレブン」のアプリマーケ戦略とは?

 日本全国にコンビニエンスストアを展開するセブン-イレブン・ジャパンが、公式アプリを利用した販促活動を活発化している。クーポン配布やキャンペーンなどのプロモーション施策を積極的に展開したことで効果的な送客・購買を促し、期待を上回る売上拡大を実現。さらにその活動の中から、ロイヤルカスタマー化する可能性のある潜在顧客へのアプローチ手法の発見にもつながったという。

 スマートフォン公式アプリから実店舗に送客するマーケティング手法は、ご存じの通り今や新しい発想ではなく、以前から小売業の多くが取り組んできたもの。ただ、万単位の実店舗を運営するセブン-イレブン・ジャパンにおいては、アプリを活用する理由も、その狙いも、少し異なるところにあったようだ。電通や電通デジタルなどとタッグを組み、確かな成果を上げたその実例の中身とは。

セブン-イレブン・ジャパン公式アプリ
セブン-イレブン・ジャパン公式アプリ

1日の来店者数は2000万人--アプリのアクティブ率には成長の余地

 日本全国に約2.1万カ所という膨大な店舗数を展開するコンビニエンスストアのセブン-イレブン。セブン-イレブン・ジャパン マーケティング本部 リテールメディア推進部 総括マネジャーの杉浦克樹氏によると、1日に各店舗に約900人、合計すると日本人口の6分の1に及ぶおよそ2000万人が毎日来店しているという。

 これほどの規模になれば、来店客個人ごとの嗜好を把握し、それに応じた施策を的確に打っていくのは難しいことが容易に想像できる。実際、「多くのお客様にご利用いただいている反面、お客様1人1人とコミュニケーションを取ることの難しさがあった」と同氏は振り返る。

セブン-イレブン・ジャパンの杉浦克樹氏
セブン-イレブン・ジャパンの杉浦克樹氏

 人口が減少し続けているうえに、消費者の嗜好の多様化に応じてさまざまな領域での購買シーンが増え、小売業界の競争は激しさを増している。「これからはお客様1人1人に寄り添ったコミュニケーションを緊密に取っていかないとご支持いただけず、来店客数も先細りになる」という危機感は日々増していたという。

 一般的なスーパーマーケットにおける来店客1人あたりの購入点数は平均約10個とされているが、コンビニは3〜4個と少なく、滞在時間も約3分と短いという特性もある。さまざまな趣味嗜好をもつ大勢の利用者がおり、それでいて実店舗には短時間しか滞在せず、購入点数も少ない。そうした中で販促を効果的に行うにはどうするのが適切なのか。

 そこで多くのユーザーが利用しやすい「セブン-イレブンアプリ」を活用しようと考えたのは、自然ななりゆきだったとも言えそうだ。アプリ自体は2015年にリリースしていたものだが、基本的な販促機能を追加する形で2018年にリニューアルし、本格活用をスタートした。

 アプリでは、ユーザーごとの購買データなどを収集し、マーケティング施策に生かしているほか、来店客の購買の後押しになる割引クーポンを配布したり、各店舗で実施しているキャンペーン情報などを提供したりしている。2021年2月にはPayPay決済の機能を加えたこともあり、アプリ会員数は2000万人を超えた。

 「ただ、セブン-イレブンが会員数よりも大事だと考えているのは、デイリーおよびウィークリーのアクティブユーザー数」と杉浦氏。購買にまで至るアクティブユーザー数は現在のところ1日あたりおよそ180万人。1日2000万人が来店していることを考えると「デイリーアクティブユーザーはまだまだ成長の余地がある」という段階だ。

「シーズナル商品×天候条件」のマーケティング施策が効果大

 アプリでは具体的にどのようなマーケティング施策を行っているのだろうか。運用を支援している電通デジタルの担当者は、例として「シーズナル商品×天候条件」という組み合わせの施策を挙げる。「気温の上下動が大きくなったり、雨天になったりすると、お客様の足が遠のいてしまう。そんなとき、寒い日に温かいものを飲んでいただけるようなクーポンを配布し、アプリのプッシュ通知でお知らせするような施策は効果が高い」と明かす。商品によっては前年比1100%もの売り上げを記録したケースもあるという。

 このあたりは、デジタルマーケティングの効果だけでなく、セブン-イレブンという小売店舗で長年培われてきた知見も生きているようだ。「われわれに限らず小売業の人たちは、天候や気温、商圏周辺の施設での催し物など、常に変化する環境に対して可能な限り情報収集し、過去の実績から照らし合わせて、仮説を立てたりしながらずっと試行錯誤してきた」と杉浦氏。「こうすればもっと伸びる」といったアイデアや勘所があり、それをアプリから得た購買データなどと組み合わせることで「施策のヒット率が上がってきた」とし、これまでの知見とデータとの合わせ技で獲得できた成果であることを強調する。

クーポン画面
クーポン画面

 アプリを活用することによる副次的なメリットも得られている。従来は各店舗を通じて来店客にアプローチする方法しかとれず店舗側の大きな負担になっていたが、アプリを介することで「われわれ本部側が個人のお客様にアプローチして販促活動や情報提供ができる。店舗を介さずに店舗運営を支援できるのは、フランチャイズビジネスの面でもメリットがある」という。

 また、運用面は電通デジタルが全面的に支援しているものの、当初からセブン-イレブン・ジャパン社内の担当者レベルでマーケティング施策を動かせるようにする「社内DX」の実現も目的としており、それもすでに一定程度達成している。プロジェクトスタート時は、マーケティングオートメーション(MA)ツールを運用できる社内人材は少なかったというが、今では「自ら施策を動かせるようになったことで、よりクイックに対応できるようになった。施策の内容を決めた翌週には、すぐに走らせられるスピーディな実施体制が整ってきている」と話す。

個人への適切なプロモーションで「ロイヤルカスタマー」に

 とはいえ、来店客の購買データなどを収集でき、それを分析することでマーケティングに生かせるようになったと言っても、「お客様が多いのでその分いろいろな変数があり、人力だけでは取りまとめるのが大変」な状況は変わらない。ユーザー1人1人の嗜好に合いそうな施策を手当たり次第に打っていくような方法は効率的ではないだろう。そのため同社では、次なるステップとしてAIも活用し、「1to1のコミュニケーション」を重視したマーケティング施策へと進化させていく計画だ。

 杉浦氏によれば、そのきっかけの1つとなったのが、とあるアプリ会員の購買行動だという。2020年10月にアプリ会員になったある新規ユーザーの購買行動を1年以上に渡って追いかけたところ、最初はセブンカフェのクーポンを利用しただけで、その後は月数百円か、一切利用しない月もあった。

 ところが2021年5月に8回来店したことを皮切りに、翌6月からは「毎日もらえる50円引きクーポン」を全24回分のうち19回利用。購買金額も跳ね上がった。続いてテレビCMなどで健康系商品をPRした影響もあって、7月以降は健康系商品を定期的に購入し始めたという。その後もコンスタントに月1〜2万円の購買金額になっており、いわゆるロイヤルカスタマー化を果たした。

 分析に基づいてアプローチしたことで成果が引き出せた、というわけではなく、あくまでも結果論。それでも「“そういうお客様がいるんだ”という気付きになった。1人1人に適したアプローチができれば、このようなお客様が増えてくれる可能性がある」という確信に至ったと杉浦氏は語る。

 2023年はこうした「1人1人のお客様にご満足いただけるような1to1のマーケティング施策」を推し進めるため、データ分析とユーザーに向けた情報配信のさらなる精度アップとともに、アプリUIの改修も行なった。アプリ画面の一部を広告枠として活用し、新たにメディア事業としての収益を獲得していく計画も立てている。

 杉浦氏は、「アプリを開くと当たる、抽選で何かがもらえる、といった機能も現在テスト運用している。クーポンを乱発するような一時的な会員増を狙った施策ではなく、デイリーのアクティブユーザーを増やし、毎日継続的に満足度高く使っていただけるための改善を続けていきたい」とし、セブン-イレブンや「セブン-イレブンアプリ」ならではの強みを生かした新しい施策にも積極的に取り組んでいく方針だ。

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