インターネットサービスプロバイダー(ISP)が光ファイバーやケーブルを敷設しない人口過疎地では、ブロードバンドの実現が依然として課題となっている。しかし、SpaceXの巨大ロケット「Falcon Heavy」によって軌道に打ち上げられる、衛星通信事業者Hughes Network Systemsのバス車両ほどもある通信衛星が、地上のブロードバンド網に接続できない人々に100Mbpsの高速通信を提供しようとしている。
EchoStar傘下のHughesは、地球の赤道上3万5785kmの静止軌道上にある同社の「Jupiter 1」および「Jupiter 2」衛星を使い、長年にわたって衛星インターネットサービス「HughesNet」を提供してきた。しかし、データ転送速度はダウンロードが最大25Mbps、アップロードが最大3Mbpsにとどまっている。同社のシニアバイスプレジデントであるMark Wymer氏によると、2023年第2四半期にフロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられる「Jupiter 3」によって、同社は年内に北米で50Mbpsと100Mbpsのプランを提供開始する予定だという。
Hughesは3月、カリフォルニア州パロアルトにある組立試験場で直立しているJupiter 3の外観を初めて公開した。細長い箱型のフレームには、アンテナ機器用のブーム、電波を地球に送り返す大きな円形の反射板、折り畳まれたソーラーパネルが取り付けられている。一部が鏡で覆われているのは、太陽の強い赤外線にさらされて過熱するのを防ぐためだ。
Jupiter 3は、大衆のデータニーズを満たすうえでの宇宙の重要性を象徴している。ブロードバンドは人口密度の高い地域では容易に利用できるが、それ以外の地域に住む大勢にとって、人工衛星はネットに接続する現実的な技術としての存在感を増している。米大手ISPの多くは、人口過疎地では十分なサービスを提供できていない。
Jupiter 3の設置場所から少し離れた場所に、巨大な青色の真空チャンバーがある。このチャンバーで、冷却用の空気がなくても動作することを示す熱テストが行われ、これに合格する必要があった。チャンバーのすぐ前には、ロケット打ち上げの過酷な環境に耐えられるかどうかを確認する振動試験のための台がある。最終的な機能チェックの後、軌道に打ち上げられてHughesNetの加入者に通信を提供する準備が整う。
「加入者をさらに数十万人増やせるだろう」とWymer氏は述べた。HughesNetには現在100万人以上の加入者がいる。
ブロードバンドは現代の暮らしに欠かせないものとなっており、衛星は銅線ケーブルや光ファイバーが届かない、いわゆるデジタルデバイド(情報格差)のある地域の人々にブロードバンドを提供する重要な役割を担っている。
今日のブロードバンド衛星の取り組みは、その多くが地球低軌道(LEO)の比較的近いところを周回する「コンステレーション」(衛星群)に注力している。LEOでは、国際宇宙ステーション(ISS)や他の多くの宇宙船はもちろん、Amazonの「Project Kuiper」、OneWeb、SpaceXの「Starlink」など多数の衛星が周回している。しかし、Jupiter 3はLEOよりはるかに高い、静止軌道(GEO、対地同期赤道上軌道とも呼ばれる)を周回することになる。
地表から高度2000km以下のLEOの場合、人工衛星はさまざまな高度を利用できる。一方でGEOは、地球の自転周期と衛星の公転周期が一致する特定の高度の軌道だ。宇宙空間で最高の条件が揃ったこの軌道にある衛星は、地球から見ると上空のある一点に静止しているように見える。GEO上の位置は規制当局の承認を得るのが難しく、Jupiterはその位置を確保するために旧型の通信衛星と入れ替わっている。
静止軌道の高度を考えると、Jupiter 3は地球の西半球全体に届くことになる。GEOでは確保できる位置が少ないため、衛星は大型で高性能になる傾向がある。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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