広島県と16市町で構成される広島県企業立地推進協議会は、県外の企業経営者やビジネスパーソン向けにビジネス拠点としての広島の魅力を紹介するスペシャルイベント「Hi! HIROSHIMA business days 2023」を3月14、15日の2日間にわたり開催した。主にデジタル系企業をターゲットとし、通常の出張ではできない体験や発見の場を提供する。
8つのイベントを通じて参加者同士や地元のキーパーソンとのネットワーキングを深め、相互のビジネスチャンスにもつなげる。広島の街を望む山頂で焚き火を囲みながら交流するビジネスサロンや、瀬戸内の若手起業家にスポットライトを当てるラジオ番組「SETOUCHI STARTUPS SELECTION」との連動プロジェクト、瀬戸内ワーケーション体験といったユニークなプログラムの中から、ここでは15日に実施された「先端ファクトリーツアー」の同行レポートを紹介する。
熊平製作所は1898年(明治31年)に広島市で創業された熊平商店から独立し、1943年から金庫メーカーとして本格的に活動を開始した。「安心、安全」「守る、収める」をコンセプトに、金庫扉や耐火金庫などの剛体製品、貸金庫など物理セキュリティに特化したニッチトップ製品の国内シェアでトップを誇る。100人を超える技術者が所属する研究開発部門と2つの工場があり、ショールームでは120年以上にわたって製造開発してきた製品が展示されている。
現在の主力製品である、入退出システムやセキュリティゲートなどのトータルセキュリティ製品がずらりと並ぶフロアは、すべて体験できるようになっている。特にセキュリティゲートはデザイン性と信頼性の高さで多くの施設に導入されており、扉が開く時に響く独自の電子音がドラマや映画のシーンで聞こえることもしばしばあるという。
熊平製作所 新規事業開発部 取締役部長の茶之原大輔氏は、「設置スペースや求められる機能に応じて開発しているためバリエーションがたくさんある。多くの人が利用するので耐久性を重視しつつ、空間にあわせたデザインを提供している」と説明する。
その他にも2フロアにわたり、金属探知器ゲート、電子ロック、保管庫、防盗・耐火金庫、監視カメラと録画システムなどが、実際に体験できる形で展示されている。
中でも圧巻なのは映画に出てくるような巨大な金庫扉で、実際に開閉させて中に入ったり、扉を閉めるところを体験できたりできる。
新たな研究技術では、美術収蔵品を守る保管庫や壁紙の開発や、空港ゲートにあるペットボトルの中身などをチェックする液体検査装置も開発している。
ショールームには昔の古い金庫も置いてあり、時代にあわせて金庫やセキュリティのニーズが変化していることが実感できる。
例えば貸金庫は映画で見るような人が入って取り出すタイプは減り、全自動化が進んでいる。
「これまで国内の金庫製造で高い信頼を得てきたが、今後も広島からあらゆる分野の”守り”に役立つためにも、IT企業や県外企業とのオープンイノベーションで、新しいビジネスを開拓していきたい」(茶之原氏)
モルテンと言えば、バレーボールをはじめとする競技用ボールのメーカーという印象があるが、実はスポーツ用品以外にもゴムをベースに、自動車部品、医療・福祉機器、マリン・産業用品という4つの事業を展開している。
これらの事業開発拠点はこれまで市内に分散していたことから1つにまとめ、エンジニアやデザイナーなどのクリエーターが世界中から集まり、世の中の課題を解決する新しいモノづくりができる「モルテンテクニカルセンター molten [the Box]」を建設。ツアーでは広島西飛行場跡地に2022年11月完成したばかりの施設を見学させてもらった。
[the Box] という名称は、既成概念を超えた独創性を発揮するという意味の ”Think outside the Box” から命名されている。その名のとおり、4階建ての巨大なセンターの敷地面積は約18,500平方メートル、延床面積は1万5000平方mあり、ガラスとメタリックな壁で覆われたシンプルな外観は、まさしく”箱”という印象だ。
しかし、入り口を抜けると木製の大階段と広々としたスペースが広がり、シンボルツリーの巨大なゴムの木やたくさんの植物が目に入る。全館バリアフリーで、中央は吹き抜けになっており、トイレや更衣室はオールジェンダーになっている。
1階のコミュニケーションスペースは食堂、カフェ、売店があり、くつろげるソファやゲームコーナーもある。
2階の一角はショールームになっており、競技ボールや自動車部品、医療・福祉機器、ゴムを利用した浮き桟橋、土木用資材など、これまでにモルテンが手がけてきた製品がずらりと展示されている。
ワールドカップでも採用されている競技用公式ボールの展示コーナーは、2017年に発売されて話題になった「スラムダンク」とコラボしたバスケットボールも並んでいる。
他にもこれから力を入れようとしている、オープンイノベーションや社会課題の解決への取り組み事例もショールームで紹介されている。
管理本部 経営企画部 広報室の瀧澤舞実氏は「社内でも他の部署で何を作っているか知る機会がなかったが、[the Box] ができたことで刺激が生まれ、外からの訪問者も増えた」と話す。
さらに風通しを良くするため、各階にあるガラス張りのオフィスはフリーアドレスになっており、ライブラリーやくつろぎながら交流できるスペースもあちこちに設けられている。
館内のほぼ中央にある「the Studio」は製品を試作する工房であり、研修スペースも兼ねている。
スポーツ用品事業の研究施設「the Court」はその名のとおり、バスケやバレーのコートとして使うことができ、プロトタイプをすぐに試めせる。
「the Garage」は自動車を複数台置けるスペースに、音響解析ができる半無響室が隣接されている。
有機物にふれることで創造性を刺激する屋外スペースの「Hakoniwa」では、約260種類の野菜やハーブなどの植物とひつじが育てられている。
熊平製作所とモルテンはいずれも業界トップの地位を確立しており、知名度もある。しかしながらその評価に甘んじず、進化していくためにオープンイノベーションに力を入れていることがよくわかった。ツアーを企画した広島県庁 商工労働局 県内投資促進課 投資促進担当 主任の八巻淳氏は「広島には素晴らしい企業がたくさんあるが、県民もその存在や魅力を知る機会が少なく、時代にあわせて変化していることをもっと紹介していきたい」とコメントする。
ツアーの参加者も、ビジネスでの関連がなければ機会がない、世界的に知名度のある企業を訪問できる、いわば大人の社会見学に大きな刺激を受けていた。観光地とは異なる、広島ならではの空気を味わえる場所にも行くことができ、満足度も高かったようだ。
企業誘致プログラムや県外のファンづくりで実績が出来つつある広島県庁では、今後もイベントの継続に意欲を見せていることから、次はどのような企画が行われるのか注目していきたい。
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