東急は3月14日、Shibuya Open Innovation Lab(SOIL)にて、同社が展開する共創型アクセラレートプログラム「東急アライアンスプラットフォーム(TAP)」の年次イベント「東急アライアンスプラットフォーム 2022 Demo Day」を開催した。
メインイベントとして、TAPにおいてビジネス化にチャレンジしているスタートアップと東急グループ各社のタッグによる事業共創ピッチコンテストが行われ、スタートアップ5社がプレゼンテーションを行った。
TAPは、東急グループが保有する幅広い顧客接点とアセットを活用して、他社との事業共創により新たな価値および新規事業を創出することを目的とした、公募型のオープンイノベーションプラットフォームである。東急グループの29事業者(22社)が参画し、19の対象事業領域で事業共創を推進している。
2015年に電鉄系初のアクセラレータープログラムとして取り組みを開始して以来、これまでの応募数は累計992件にのぼり、103件のテストマーケティングや協業、36件のサービス事業化や本格導入、7件の業務・資本提携という共創の実績を残している。
プログラムの特徴として、スピード感を持った取り組みとするために、通年応募制を採用している。その上で東急側から対象領域ごとにどんな会社がいて、具体的にどのような課題やニーズを持ち、どんな将来像を描いているかを発信。使えるアセットに加えて課題を可視化し、より適切なマッチング、オープンイノベーションを実現できるようにしている。
その中で、2022 Demo Dayでは、2022年度に応募があった100件以上の中から20件のマッチングを実施し、今回の事業共創ピッチには今後の事業発展が見込まれる5社(5組)が登壇した。
事業共創ピッチは、最初に東急側の担当者が共創の背景を1分間説明した後に、パートナー企業が事業内容について6分間プレゼンし、その後審査員との間で5分間質疑応答するという形で実施された。審査員は、SBIインベストメント 執行役員 CVC事業部長 加藤由紀子氏、ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸裕一郎氏、デロイトトーマツベンチャーサポート Morning Pitch運営統括 永石和恵氏という外部の3人と、東急 取締役社長 高橋和夫氏(高は旧字)および同社 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦亮典氏の計5人が担当。最優秀賞となる「東急賞」をはじめ、「渋谷賞」「二子玉川賞」「SOIL賞」「オーディエンス賞」およびグループ内表彰である「ベストアライアンス賞」を決定した。
事業共創ピッチに登場したのは、登壇順に(1)SUSHI TOP MARKETING×東急電鉄、(2)AXELL×東急 社会インフラ事業部、(3)クラダシ×東急モールズデベロップメント、(4)ノウンズ×東急エージェンシー、(5)アジラ×東急セキュリティ、という組み合わせ。審査の結果、東急賞にはクラダシが選出され、賞金109万円を獲得した。そのほかに、次点の渋谷賞(賞金42万8000円)にアジラ、二子玉川賞(賞金25万円)にノウンズ、SOIL賞にSUSHI TOP MARKETINGとAXELLが選出された。また、リアルタイム配信を視聴したオーディエンスの投票で選出されるオーディエンス賞はクラダシ、内部表彰であるベストアライアンス賞には東急モールズデベロップメントがそれぞれ選ばれた。
東急賞を受賞したクラダシは、食べられるにもかかわらず捨てられてしまう可能性がある商品をお得な価格で販売するEC型フードシェアリングプラットフォーム「Kuradashi」を運営。共創した東急モールズデベロップメントは、商業施設運営を通じた街づくりを事業としている。
Kuradashiは、会員数が44万人を超え、商品を提供するパートナー企業は1200社以上、サービスを通じたフードロス削減量は14000トン以上と成果を出しているが、日本の食品EC化率が2021年時点で3.7%という状況であるため、顧客へのタッチポイント拡大を視野にリアルへの進出にチャレンジし、複数の企業と実験的にポップアップストア展開をおこなった。特に東急グループとは、2022年に東急モールズデベロップメントが運営する商業施設など6カ所で期間限定のポップアップストアやイベントを計7回開催し、5万点以上の商品を販売するなどの成果を出している。
その顕著な成果を受けて、2023年5月下旬にはたまプラーザテラスに、オンラインとオフラインを連携させた地域密着型商業施設として、Kuradashi初となる常設店舗の出店を予定。両者連携の下で食品販売以外にイベントなども実施し、さらなるフードロスの削減や地元農家との連携によるサスティナブルな街づくりに取り組む計画である。
東急賞選出の理由は、フードロス削減に課題を抱えている食品を扱う事業者と幅広く接点をもつ東急グループとの親和性の高さ、サービスを通じて利用者が意識せずに社会貢献活動に参画でき、持続可能な社会の実現への寄与が期待できることとなっている。
ピッチに登壇したクラダシ 経営戦略室 室長 築地雄峰氏は、「私たちは、『ソーシャルグッドカンパニーであり続ける』というミッションを掲げ、日本で最もフードロスを削減する会社を目指しているが、なかなかスタートアップ1社でこれを実現することが難しい。そのような課題を抱えていた中で、東急モールズデベロップメントをはじめ、東急グループに支援してもらって自分たちの活動ができるようになり、このような賞を貰えたことはとても嬉しいし、励みになる」と受賞コメントを述べた。
審査員長を務めた高橋氏は、今回のDemo Dayの総評として、「今後は、リアルとオンラインをいかに融合させていくかでビジネスに幅が出てくる。当社はリアルな場には強いが、比較的デジタル領域は遅れている。今日のコンテストを良い機会として、ここに参加しているメンバーだけでなく幅広く東急グループの社員がデジタルに興味を持って、実際に自分たちもTAPで共創の取り組みに参加してみようというトレンドが生まれることを期待している。今日参加した皆様とも、この先も一緒に前進していきたい」とメッセージを送った。
また、東急賞のクラダシに対して、東急ストアでの食品ロス対策を提案。「スーパーマーケットには欠品は許さないという文化がある。お客様側に対する意識醸成も含めて店頭に並んでいるものロスをなくすための提案をいただけると、東急グループとのさらなる大きな共創の取り組みになる」と期待を示した。
イベントの最後に高橋氏は、今後のTAPの活動にも言及。「今まではどちらかというと課題を解決することを主体にオープンイノベーションに取り組んできたが、それをベースとしつつも今後はいかに新しい事業を創造するかというところに力点を置いていきたい」と述べた。
そのほかの受賞者については、渋谷賞のアジラは独自の行動認識AI技術を保有。同技の術を活用して、東急セキュリティと2022年7月に東急電鉄渋谷駅の防犯カメラを使い、駅構内での利用者同士のトラブルや急病人・異常行動の予兆などを検知する実証実験を実施した。その結果、禁止エリアへの侵入検知において、AI警備システムと警備員が連携した運用体制の確認を複数回行うことができ、高い侵入検知精度を確認できたとしている。
SOIL賞のSUSHI TOP MARKETINGは、NFTの発行・受け取りを用意にする独自のプラットフォームを活用したNTFマーケティングの確立に取り組んでおり、東急電鉄とは東急新横浜線開業を記念した鉄道車両やヘッドマークなどの限定デザインNFTを3月18日から無償配布する予定である。
同じくSOIL賞を受賞したAXELLは、ARやIoTを活用したリアル謎解きコンテンツ「TRIAD」を提供。東急との共創では昨年12月から6月30日まで、東急グループ創立100周年記念イベントとして、東急線沿線を周遊する体験型謎解きイベント「時の魔女と100の約束」を実施している。
東急はクラダシ以外の4社とも、東急グループの事業資産を活用したテストマーケティングなどの結果を踏まえ、業務提携などを検討するとしている。
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