Nanosysのマーケティング担当バイスプレジデントを務めるJeff Yurek氏に予告されていたのは、工場が「小型のビール工場のような感じ」に見えるということだった。まさに、そのとおりだ。「反応炉」と呼ばれているステンレス鋼製の大型容器で、発光する複雑な微細粒子の製造に必要な正確な量の各種化学物質が混合され、はき出されている。
量子ドットの説明としては、中に結晶の入ったナノサイズの「ウィッフルボール」を思い浮かべるといいだろう。それを、複数の工程を経て製造している。最初は、ナノ結晶を成長させる工程だ。このとき、結晶のサイズが重要になる。エネルギーを当てたときに発光する色は、結晶の大きさによって決まるからだ。結晶はもろいので、ウィッフルボールがここで活躍する。結晶の成長を止めてから、さらに化学物質を加えて、結晶を「保護殻」で覆うのだ。この殻には、光子や電子を取り込んで光子を放出できる程度のわずかな開口部がある。具体的な化学物質名、時間、その他いくつかの要素は極秘事項だったが、それは当然だろう。フォトレポートで、画像の一部をぼかしているのも、それが理由だ。
十分に成長してから保護殻で覆った結晶は、いくつものパイプを通る中で洗浄されて排出され、最終的にスチール製のドラム缶に格納される。テレビメーカーにはその状態で出荷され、メーカーによって異なるが、ドラム缶1本で数カ月もつという。テレビ1台あたりに必要な量子ドットは少量だからだ。そのくらい微細で効率的なのである。
最後に立ち寄ったのは研究開発室の1つで、エレクトロルミネセンス量子ドットの研究が進められていた。これまでの量子ドットを使ったテレビ、例えばサムスン、TCLなどが製造している量子ドットLED(QLED)テレビは、フォトルミネセンス方式の量子ドットだった。光エネルギーを、一般的には青色LEDやOLEDから当てると、特定の色で発光するのだが、それ自体では発光しない。
エレクトロルミネセンス量子ドットは、Nanosysでは「NanoLED」と呼んでおり、赤、緑、青の量子ドットを電気だけで発光させる。この方式は、次世代のディスプレイ技術として期待できるだけでなく、他の技術では実現できないさまざまな種類のディスプレイを開発できる可能性がある。
量子ドットの製造方法は、理論的には理解していた。公開されている情報のほとんどは、化学物質についての説明か、あるいは科学者が少量を製造しているところを見せるだけで、産業レベルの説明はなかった。今回の見学ツアーは発見ばかりで、以前から気になっていた、自分の知識の欠けていた部分を埋めてくれるものだった。これほど極小で、しかも複雑なものを、どうやって大量に作るのか、それが疑問だったのだ。蓋を開けてみれば、ビールの作り方と大きくは違っていないようだ。想像もしていなかった。
量子ドットが秘めている可能性は巨大だ。新しいディスプレイ技術としてだけでなく、医療、農業、その他の分野でも期待できる。極小のサイズからすると、そのインパクトはかなりの大きさと言えるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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