スマートフォンネイティブが見ている世界

TikTokが18歳未満に「1日60分」の制限を追加した深い理由

 TikTokに3月1日から、18歳未満の子どもを保護する機能が追加された。全世界を対象とした機能追加であり、「未成年のTikTok利用は禁止されるのか」「なぜ一律で利用時間が一日60分以内に制限されるのか」という驚きの声が上がっている。TikTokで規制機能が追加された理由と背景について解説したい。

従来の未成年保護を強化したもの

 今回追加された機能の概要は次のようなものだ。18歳未満のユーザーには、自動的に60分の視聴時間制限が設定される。今後数週間のうちに18歳未満のユーザーのすべてのアカウントに追加される予定だ。

 ただし、それ以上長い時間視聴できないというわけではなく、パスコードを入力すれば延長可能。あくまで、自分が長い時間視聴していると意識させるための機能なのだ。

 TikTokには元々ペアレンタルコントロール機能が用意されていたが、さらに新たな機能が追加されている。元々、保護者側で子どものアカウントを非公開アカウントにしたり、動画にコメントできるユーザーやダイレクトメッセージを送れるユーザーを制限したり、検索機能を無効にできる機能が用意されていた。これによって子どもが知らない人と交流して事件に巻き込まれるリスクが減らせるというわけだ。

 さらに今回、1日の視聴時間として、1日あたりのTikTok利用時間に40分、60分、90分、120分の時間制限を設けることも可能となった。TikTokの視聴時間、開いた回数、日中と夜間の合計視聴時間の内訳も、「スクリーンタイムダッシュボード」で確認できる。

 なお、TikTokは規約で13歳以上を対象としており、2021年からはサービス開始時に生年月日を登録、対象外の年齢では利用できないようにしている。ただしこちらは自己申告制であり、それより前の時点で利用していたユーザーは対象外である。そもそも年齢を偽れば利用可能になるという問題点もある。

 これまでも13〜15歳のユーザーのアカウントはデフォルトで非公開設定となり、ダイレクトメッセージは16歳以上のみ利用可能、16歳未満の動画のダウンロード許可もオフなど、さまざまな未成年に対する保護を目的とした設定が用意されており、新たに強化された形だ。

10代のメンタルヘルスに悪影響も

 運営会社であるバイトダンスは、最新の研究や、ボストン小児病院のデジタルウェルネスラボの専門家との議論などから判断し、制限内容を決定したという。

 背景の1つには、Instagramと同様、TikTokが10代のメンタルヘルスに悪影響がある可能性が指摘されていることがある。具体的には、自殺に至る自傷行為や摂食障害に関する動画を10代ユーザーにおすすめしてしまうアルゴリズムの問題だ。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは、TikTokで13歳という設定で約10個のボットアカウントを作成、調査を行ったところ、数週間で減量に関する動画が何万本も表示されたと発表している。1日の摂取カロリーを300キロカロリー未満に抑えたり、数日間水だけを摂取したり、過食したあとに下剤を飲むことを勧める動画も含まれており、深刻な摂食障害を助長するリスクがある。

 TikTokは、2021年に世界で最もダウンロードされたアプリだ。Qustodioによると、2020年から3年連続で10代の若者はYouTubeよりTikTokを視聴する時間が長くなっている。Z世代の若者の40%は検索する際にも、GoogleではなくTikTokやInstagramを利用することもわかっている。

 元々TikTokは、AIでユーザーが好みそうな動画が表示されるため、長時間利用につながりやすい仕組みがある。TikTokに限らないが、特定のことに関心が募っている若者が、積極的に関連動画等を視聴し続けることで、メンタルヘルスに重大な影響を与える懸念が考えられるのだ。

 未成年の子どもがいる保護者は、子どもがどのような動画をTikTokで見ているのか、会話を通して把握しておくといいだろう。本当の問題は利用時間の長さだけではなく、内容にある。不適切な動画ばかり視聴しているのであれば、専門機関への相談なども検討すべきだろう。

全面禁止を防ぐためにあえて制限機能搭載か

 もう1つ背景としてあるのは、運営会社がある中国への情報流出への懸念だ。既に米国やカナダ、EU、台湾、インド、日本でも政府支給端末でのTikTok利用を禁じている。

 米国では下院の外交委員会がTikTokの一般利用を禁止する法案を可決。今後、下院の本会議で審議が行われる予定となっており、上下両院の本会議での可決と大統領の署名があれば法案が成立し、TikTokは米国では原則利用できなくなる。米連邦議会では米Googleと米AppleにアプリストアからTikTokを排除するよう求めたこともあり、禁止の流れは強まっている状態だ。

 今回、運営会社が自ら制限機能を入れてきたのは、このような流れに対する牽制の意味が大きいだろう。本来、サービス側にとってはユーザーの利用時間は長いほうが望ましい。しかし全面的禁止を防ぐため、あえて制限機能を入れたと考えられるのだ。未成年保護を目的とした機能が搭載されたことで、完全禁止という論調は弱まる可能性がある。

 「TikTokは楽しい」と多くの10代ユーザーはいう。「流行もわかるし好きな動画がたくさん見られて暇つぶしになる」。世界中で10代におけるTikTok人気は高まるばかりだ。米国でも10代の支持は強く、全面禁止となると大きな影響を受けることは間違いない。

 TikTokは全面禁止とされる事態を防ぎ、10代と保護者を含めたすべてのユーザーに安心して利用してもらえる環境を用意できるのか。今後も注目していきたい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/

Twitter:@akiakatsuki

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]