「共創型プロダクト開発」成功の鍵とは--企業の垣根を越えたマクアケとゆめみが明かす

 朝日インタラクティブは2023年2月1日から28日まで、「CNET Japan Live2023」をオンライン開催した。今回のテーマは、共創の価値を最大化させる「組織・チーム・文化づくり」。本稿では2月21日に行われた、応援購入サービス「Makuake」などを運営するマクアケと、支援会社であるゆめみが共同登壇した「組織課題を解決できるチームづくり、共創型プロダクト開発の実現」のレポートをお届けする。

 当日は、マクアケ開発本部サービスプロダクトマネジメント室のマネジャーの片岡了一氏、ゆめみからはアート組織担当取締役兼コンセプターの吉田理穂氏、デザイン担当取締役兼シニアプロダクトデザイナーの田中翼氏が登壇し、モデレーターは本誌CNET Japan編集長の藤井涼がつとめた。

 創業23年を迎えるゆめみは、インターネットサービスの企画、開発、制作、運用支援を手がけており、ビジネスモデルとしては「クライアントと共創するBアンドB2Cモデル」を掲げている。同社が提供する価値は、「ものとそれを生み出すチームを一緒に作る」こと。現在は、開発、デザイン、営業など約300名のメンバーが在籍し、大企業からスタートアップまで幅広い支援を行っている。

 マクアケは、「新しいものや体験の応援購入サービス」というコンセプトで、想いを持つ事業者と生活者を結びつけるプラットフォーム「Makuake」を運営しているが、実はそれにとどまらない。プロデュース(企画)、デビュー(先行販売)、グロース(一般流通促進)という3つのフェーズごとに、新しいものが広がるために必要なサービスを開発、提供している。

両社の関係性と支援プロセス

 「みなさんは社内や外部パートナーと、良い関係性をつくれていますか?」これは、両社からの1つめの問いだ。

 ゆめみの田中氏は、「マクアケさんの支援では、いわゆる発注者と受注者という関係ではなく、Makuakeというプロダクトを起点にしたフラットな関係性を構築してきた」と切り出した。具体的には、発注者とパートナーの両者で、1つのプロダクトチームを構成して、開発を進めたという。

 チーム構成のポイントは、職種を混ぜたチーム構成の「職種混合型」。単に開発者やデザイナーなど「作るだけ」のメンバーだけでチームを組むのではなく、ビジネスサイド、マーケティングなど様々な職種のメンバーが、発注者とパートナーの双方から参画し、共通の目標を持つ良いチームを構成できた。

 そして、だからこそ、アプリサーバー開発、UX・UI支援、PO支援、ビジネス領域の支援まで、点と点をつなぐように柔軟に、様々な領域における支援につながったのだという。

企業を超えたチームビルディングと、共創を生む状態とは

 「みなさんの会社では、組織体制や会議体設計、目標設定を作れていますか?」これは、両社からの2つめの問いだ。

 マクアケの片岡氏は、ゆめみとの共創を振り返り、「ワンチーム化」にかなり留意したことを明かした。そこには、「体制の整備」と「共通の目標設定」が必要だったという。

 「体制の整備」では、会社混合・職種混合型のワンチームをスケールさせ複雑な問題へも適応可能にするためにスクラムを組織に導入した。また、同時に意思決定を高速化させるために官僚機能を最小限に抑え、各チームが連携して複雑な問題に対応できるよう、組織やチームのスケーリングに合わせた会議体設計を行った。

 「共通の目標設定」では、マクアケがもともと活用していたOKRや、最終目標であるKGIと中間地点での目標達成率を測る指標であるKPIの中間に位置する指標のNorth Star Metricという手法を用いて、目標の設定から、計測の仕方まで、両社が一緒に検討した。特に、支援会社であるゆめみが設計段階から関与したことは、ワンチーム化に有効に働いたという。

 ゆめみとの共創から学んだ「3つのポイント」はこうだ。1つめは、組織へのスクラムの導入と、POのスケーリング。2つめは、各会議の役割の明確化と、チーム同士の連携の強化。3つめは、目標設定と顧築体験を備えた指標の策定。片岡氏は、「企業間の垣根を越えたチームビルディングは、この3つのポイントを抑えることでうまくいく」と説明した。

 続いて、話題は「どういう状態であれば共創を生み出すことができるのか」に移った。

 片岡氏は、 「定性的な話になるが」と前置きしたうえで、共創を生む状態を整えるためには、「やはりお互いを知り、理解することが大事だ」と断言。実は、両社間の共創においても、職種ごとに異なる意見を引き出し合える場作りには、かなり配慮したようだ。

 基本的には、上が決めた目標に単に従うのではなく、「ボトムアップで目標を設定しつつ、全社の目標とチームの目標を接続していく」という方針で物事を進めた。そして、「課題(Why)」と「何をしたいか(What)」をきちんと定義したうえで正しく伝える、という行動規範をまずはPOが守ることで、それをうまく機能させたという。

 ちなみに、ゆめみが企画した「企業や部門を越えた共創型ワークショップ」も、功を奏した。「部署を越えた連携と、共通の目標意識があったからこそ、実際にこのワークショップで生まれたアイデアが、別のチームの企画になったり、さらに別の形で我々のチームの企画になったりと、つながりが生まれていった」(片岡氏)。

心理的安全性を生むポイントと、POの「3つの心得」

 このように、意見を言い合える関係性を築くためには、何が必要になるのだろうか。それは、「企業間を越えた心理的安全性」だという。

 片岡氏は、心理的安全性を生むための関係構築を目指して、「コミュニケーション」「意思決定」「チーム体制」「態度(マインド)」「リーダーシップ」という、5つの観点に注視したと説明した。

 「コミュニケーション」では、そもそも「人対人」という大前提の上に、職種や立場がある、というスタンスを徹底した。「人対人」というお互いのコンセンサスを得たうえでのフラットな関係性だからこそ、「何を目指していくべきか」といった各論について対話するときにも、企業間を越えた心理的安全性が担保されるという。

 「意思決定」では、開発メンバー自身が「やりたい」と熱量高く取り組めるよう、意思決定そのものに対する信頼を獲得できるように努めた。ビジネス戦略とプロダクト戦略をうまく接続できるよう配慮したという。

 「チーム体制」では、多職種混合で横断的なチームの実現を図った。例えば、施策の決定やデザインの策定などの段階で、普段は関わりを持たない職種のメンバーも入ってもらい、意見が反映される体制を取ったという。

 「態度(マインド)」では、チームメンバーがオーナーシップを持つことを目指し、お互いの理解を深めることで、それぞれの目標、ミッションを理解したうえで挑戦できる雰囲気づくりに尽力したという。

 「リーダーシップ」では、委任型を貫いた。ある程度コントロールできる余白は残しつつも、基本的には「任せる」というスタンスで、最終的な成果につながるよう、仕事遂行の責任を委ねたという。

 「5つの観点を大切にして関係性を築くことで、結果的に心理的安全性が生まれ、チームの成長にもつながった」という片岡氏は、その具体的な事例として、組織課題にもなっていた、配送ステータス可視化の取り組みを挙げた。

 Makuakeには、配送ステータスの確認ができないという課題があった。原因を紐解いていくと、応援購入というサービスの特性上、リターンの状況が分かりにくく、その結果カスタマーサポートのメンバーが疲弊しているという組織的な課題も見出されたのだ。

 しかし、ゆめみの支援のもと、プロダクトとチームの双方の課題解決を、2ヶ月という早期に実現できた。ゆめみの吉田氏と田中氏は、“うまくいった”要因をこのように振り返る。

 「マクアケさんの会議体のなかでも、さまざまな部署のステークホルダーが参画する会議に、僕たちゆめみメンバーも参加させていただいて、発言する機会、意思決定にも関わる機会をいただけたので、すり合わせがすごくうまくいったと感じている」(吉田氏)

 「普段のコミュニケーションでは分からないような、マクアケさんがどういう背景を抱えていらっしゃるのかがすごくよく分かった。意思決定の場への参加から、ドメイン理解につながったことは、すごく大事な機会をいただいたと思っている」(田中氏)

 2人のコメントを受けて、片岡氏は「うまくいったと思っていたのが、自分だけじゃなくてよかった」と微笑みつつ、POとして大切にしてきた「3つの心得」を紹介した。

 1つめは、「人として接する、よき人として振る舞う」。立場、職種が違えども、お互い感情ある人同士なのだから、そこを大切に関係を築きたいというスタンスを重視した。

 2つめは、「理想の言語化と課題の共通化」。何ができたら自分たちは嬉しいか、ユーザーは喜ぶのかなど、理想の状態についてチーム内で共有されている状態を維持できるよう心がけた。

 3つめは、「自分の役割を明確に」。自分の役割が何か、どういう責任を持つかといった“何物か”が分からないと、お互いを信頼し合えないチームになってしまうと危惧し、まずは初期段階で各人の役割の明確化に努めた。

共創の価値を成長させる「組織・チーム作り」とは

 最後に、ゆめみの田中氏が、共創の価値を成長させる組織・チーム作りを行う上で、ゆめみが大切にしてきたことを紹介した。

 「共創型プロダクト開発の実現には、共通の目標を言語化できる職種混合型のチームと関係性が、非常に鍵になると思う。そのためには、環境を整え、仕組み化して、役割を明確にすることがとても大切。その上で、仕組みだけに頼らず、企業間を超えて常にフラットに議論し合うことで、プロダクトおよびチームの成長を実現することができる」(田中氏)

 今後もゆめみは、下記3つのポイントを大切にしながら、内製化支援サービスを提供していくという。

 1つめは、「メンバーが自律的に考え、主体的に行動すること」。そのためには各人がオーナーシップを持つことを重視する。

 2つめは、「チームや職域を超えて、課題解決に柔軟に取り組むこと」。そのためにはPOやチームの状況に合わせて柔軟に対応する。

 3つめは、「組織とプロダクトの継続改善をサイクルル化させること」。プロダクト改善を通じて、組織が抱える業務課題そのものを改善していくことで、事業課題の解決にもつながる。

 講演後の質疑応答では、モデレーターの藤井が両社にいくつか質問をした。まず、マクアケの片岡氏に、「ゆめみさんとご一緒した感想や、今後はどう共創していきたいか」を尋ねるとこのように回答した。

 「ゆめみさんは、技術力が非常に高く、施策の決定においてもフレームワークやスキルが豊富で素晴らしかった。また、我々のスタンスにかなり寄り添ってくれるなど、組織としての柔軟性も非常に高い。これまでは、マイナスをゼロにする開発や改善が主だったが、今後はよりプラスアルファになるような開発を目指しているので、その文脈で引き続きご支援いただきたい」(片岡氏)

 また、ゆめみの吉田氏と田中氏には、「成功の秘訣」や「ウォーターフォール型の発注者とフラットに付き合うための取り組み方」などについて尋ねた。

 「マクアケさんの事例での成功の秘訣は、普段ならパートナー企業がなかなか立ち入れないような、さまざまなステークホルダーが集まる場に呼んでいただけたこと。知ったから全てうまくいくわけじゃないけど、背景を理解することはとても重要だと、改めて思った。また、フレームワークの導入を、最初は小さく始めて徐々に展開していったこともよかった。やはり、担当者といかにいいチームを作れるか、お互いにフィードバックし合えるかによって、プロダクトや組織を一緒に作っていこうという“仲間であり共犯という関係性”を築けるかどうかが決まってくる」(吉田氏・田中氏)

 また、視聴者からは「うまくプロジェクトを進めるために、発注者側に気を付けてほしいことはあるか」という質問も寄せられた。これに対してゆめみの両者は、「気をつけてほしいことというか、一緒に気を付けていかなければいけないポイント」として、共通目標を見失わないことや、背景を理解してストーリーに対する共感を持つことのほかにも、コミュニケーションツール、デザインツール、開発ツールなどを共通化することなども挙げた。

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