Appleは1月、同社のフラッグシップコンピューターである16インチ「MacBook Pro」の最新版を発表した。2021年に登場し、大幅に刷新された前モデルと比較すると、今回のアップグレード内容は控え目だ。具体的には、新たに自社製プロセッサー「M2」シリーズの最新世代を搭載したほか、Wi-Fi 6E、HDMI 2.1による最大8K解像度、60Hzのディスプレイ、4K解像度、240Hzのディスプレイ、可変リフレッシュレート(VRR)に対応する。前モデルが達成した進化と今回のアップデートにより、クリエイターと開発者向けの高性能コンピューターというMacBook Proの位置付けは、さらに揺るぎないものとなった。
2021年に発売された前モデルは、16インチMacBook Proを抜本的に進化させるものだった。例えば「Touch Bar」が廃止され、HDMIポート、SDXCカードスロット、MagSafe充電ポート、キーボードのファンクションキー列が復活した。また、ウェブカメラはフルHD(1080p)に進化し、CPUと内蔵GPUはApple製プロセッサーに移行した。
まるで広告のようだが、確かに「モバイルワークステーション」と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。実際、そう位置付ける以外にMacBook Proの価格やその用途を正当化する方法はあまりない。今回のレビュー対象である16インチモデルの価格は、実に3499ドル(日本では48万8800円)だ(MacBook Proのターゲット層は、「『Apple TV+』や『Disney+』などのコンテンツ制作者としてイメージされるような人々だ)。
ゲーム用のノートPCなら、この価格もありえなくはないが、Appleの場合はどうだろう。やはり、受け入れられにくいように思う。新しい16インチMacBook Proは、最安モデルでも2499ドル(同34万8800円)だ。現在のAppleには、「MacBook Air」を超える性能は必要ないが、画面は大きい方がいいという人に勧められる大画面ラップトップがない。
しかも最小構成の場合、SSDは512GBしかない。「M2 Pro」プロセッサーは12個のCPUコア(高性能コア×8、高効率コア×4)と19個のGPUコアを内蔵しており、大量の写真編集も快適にこなす。しかし、もっと高度な画像処理をするなら、もっとスペックがほしい。大枚をはたいてMacBook Proを買わなければならないレベルの作業をするなら、少なくとも1TBのSSDは必要だ。RAMも32GBは積みたい。すると、価格は3100ドル近く(同43万2800円)に跳ね上がる。
では、最大構成の場合はどうだろう。プロセッサーは「M2 Max」(コアCPU×12、コアGPU×38)、メモリーは96GB、SSDストレージは8TBを選択すると、価格は6499ドル(同91万8800円)となる。これは多くの人にとって受け入れがたい額であり、少なくとも数値上は費用対効果が悪い。RAMを最大96GBしか積めず、128GBに対応していない点も少し気になるが、前モデルの最大64GBよりは多い。メモリーを増やしたい場合は、ハイエンドの「M2 Ultra」が登場するまで待つべきかもしれない。と言っても、前世代の「M1 Ultra」はラップトップには搭載されなかった。
Appleのいいところは、デバイスは違ってもCPUの性能は一貫していることだ。つまり、同じチップを搭載している場合、同等のハードウェアを持つMac MiniとMacBook Proは、ほぼ同等の性能を発揮する。ハードウェアが高額なほどパフォーマンスも向上した方が良い気もするが、この一貫性のおかげで製品の購入判断が少し楽になっている。
前述したように、MacBook Proのデザインは、2021年モデルから大きく変わっていないが、古さは感じない。個人的には、特にファンクションキー列とSDカードスロットの復活がうれしい。テストはまだ終わっていないが、ディスプレイの画質は高そうだ。
しかし、細かい部分では文句もある。画面上部の切り欠きが、iPhoneほどではないが気になる。iPhoneの場合、切り欠きによって情報の表示スペースが物理的に減ってしまうため、機能面で支障があるが、MacBook Proの場合は美的な問題だ。また、これは少数派の意見かもしれないが、MagSafeは純正電源コネクターの使い勝手が悪く、個人的には使ってない。通常、磁石は問題解決に役立つことが多いが、MagSafeの場合、電源に挿した状態でベッドに置いたりすると、電源コードが頻繁に外れてしまう(電源と言えば、Appleにはこのひどいアダプターの設計を見直してほしい。このアダプターは、慎重に扱わない限り、ほぼすべてのコンセントで外れてしまう)。また、前モデルではウェブカメラが強化されたが、「Face ID」は相変わらず導入されていない。
レビューはまだ終わっておらず、動画編集やエンコード性能、HDMIのVRR、強化されたNeural Engineなどのテストが残っている。バッテリーのテストも終わっていない。しかし、すでに実施したテストの結果から、いくつか分かったことがある。
Wi-Fi 6Eについては、最初はルーター(「ASUS ROG Rapture GT-AXE11000」)への接続や接続の維持がうまくいかなかったが、最終的には解決できた。バッテリー設定の「Wake for network access(ネットワークアクセスによるスリープ解除)」を「Only on Power Adapter(電源アダプタ使用時のみ)」から「Always(常に)」に変えたら、すぐに接続され、接続状態を維持できた。その後は快適に使用できている。バッテリー駆動時間に与える影響はまだ分からない。
少なくとも筆者の環境では、総じてWi-Fi 6よりも6Eの方が性能は安定しているようだ。Speedtestで簡単な接続テストを実施した結果、Wi-Fi 6Eではダウンロードが483Mbpsと安定していたが、Wi-Fi 6では平均392Mbpsだった(400Mbpsサービスの場合)。Wi-Fi 6は、スタート直後は高速だが途中から遅くなった。
「macOS」には、バッテリー駆動時の電源設定が2種類用意されている。デフォルトでは、電源アダプター接続時と同じように、フルパワーでシステムを動かせる。この設定では、電源アダプター接続時とほぼ同じ速度が得られる。バッテリー駆動時間も長く、あるテストでは約19.5時間もった。低電力モードにすれば、バッテリー駆動時間はさらに延ばせるだろう。
静かに長時間動作させるための低電力モードでは、シングルコアの性能が最も低下した(ただし、Intelよりは悪くない)。最も差が少なかったのはGPUだが、筆者が実施したテストはGPUに大きな負荷をかける内容ではなかった。マルチコアのスコアの差は想定の範囲内だ。「HTML5」「Javascript」「WebAssembly」等を使用したウェブサイト関連のテストはまだ終わっていない。発熱は明らかに少ない。文字通り、膝の上(ラップトップ)に置いて使いたいなら、発熱が少ないのは利点だ。重さはそこそこあるが、高密度設計のラップトップは重くなる傾向がある。
わずかでも速い方がいいという場合を除いて、前世代の16インチMacBook Pro持っているなら、2023年モデルを焦って買う必要はないだろう。しかし、Apple製プロセッサーを初めて搭載し、話題をさらった2021年モデルを買わなかった人、かつIntelプロセッサーでしか動かないアプリケーションが必要ない人は、新型MacBook Proへの買い替えはおそらく賢明な選択だ。
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