「新型コロナの流行で、住みやすい環境で働くという意識が強まった」「Iターンとして、札幌に移住して働いている方がかなり多い」--北海道札幌市に設立された「株式会社セガ札幌スタジオ」(札幌スタジオ)代表取締役社長の瀬川隆哉氏は、インタビューでこのようなことを語った。
札幌スタジオは、セガの国内開発スタジオとして2021年12月に設立。主にセガのIPに関するタイトル開発と、ゲームのデバッグ作業など品質チェックを担うという。設立の経緯をはじめとして、設立から約1年経過した現状や札幌の魅力をはじめ、今後の展望などを、瀬川氏とともに、常駐スタッフである研究開発部 部長の高柳智朗氏に聞いた。
――まず、札幌スタジオ設立の経緯を教えてください。
瀬川氏: ゲーム産業の現状をお話ししますと、2023年には21兆円規模の市場に拡大すると予測されています。またゲームを取り巻く環境として、遊んでいただいているプレーヤーだけではなく、ゲーム実況のように配信して広げてくださるインフルエンサーの方、ゲームプレイを見て楽しむ方もいらっしゃいます。そのような方々を含めて、日々ゲームに関わっている方が大体32億人ぐらいで、全世界の40%がゲームに触れられているとされています。
親会社であるセガとして、いろんな国々にゲームを提供、発信していくなかで、その国によって親しまれているプラットフォームやジャンルは異なるという現状があります。そして、ひとりでも多くの方にゲームを届けていくには、開発ラインの強化が必要であるという考えがありました。また、購入していただいたプレーヤーの方々に、バグや不具合で満足に楽しめず嫌な思いをさせてしまうというのも避けたいので、品質管理の強化もあわせて必要です。そのような組織を作りたく、新たに開発スタジオを設立したというのが経緯になります。
これまでも、国内ではアトラスやプレイハート、海外でもM&Aなどで開発力の強化を図ってきました。東京のセガでも、開発力強化に向けた採用を行っていますが、厳しくなってきている状況があります。新型コロナの流行以降、東京から移住された方も少なくありません。住みやすい環境で働くという意識の高まりも、札幌スタジオ設立のポイントになりました。
もうひとつ、セガという会社はチャレンジをするという精神が強いというところも背景としてあります。これまでも大ヒットしたタイトルもあれば、人知れず埋もれていったタイトルも多くあります。でも、チャレンジしたからこそ今でも記憶に残るゲームを提供できていると思います。そのチャレンジスピリットは、イチから会社を立ち上げて、集まったスタッフに啓発をしながらやらないと根付かないとも考えています。
――札幌に決めた理由は何でしょうか。
瀬川氏: 私自身、国内外含めて各地をまわることが多いですし、設立にあたってさまざまな都道府県、市町村に至るまで調査したのですが、やはり環境の良さ、住みやすい場所が大事という考えがあります。特に新型コロナの流行前と後では、働き方も含めていろんなものの考え方が変わったところがあります。
新型コロナの流行前は、会社は従業員分の机と椅子を用意して働くというものでした。会社の立ち上げ段階では新型コロナの流行真っただ中だったのですけれど、かねてからIターン、Uターンという言葉もありましたし、少し前には働き方改革という名のもとで、在宅勤務や地方の遠隔地から仕事をするということにも着目されはじめていました。新型コロナの流行で、住みやすい場所で働くことにより多くの関心が集まりだしたので、みなさんが住みたい場所に拠点を置くことは重要視するべきというのが、まず背景にあります。
札幌市については、北海道の中心部で大都会と言える場所です。人口は200万人近いですし、不便らしい不便はない。それでいて、20~30分ぐらい移動すれば大自然に囲まれているような立地の良さというのは、日本中探してもなかなかない。住みたい街のランキングにも上位に入っていますし、細かいところでは食べ物がおいしい、空気がうまい、住む場所も安いなど、魅力的で人が集まる街であるということは言えます。
加えて、札幌はもともとゲーム会社も多く存在していて、専門学校やゲームに関わる人材を育てていく教育機関がある程度発展しています。かつてハドソンがありましたし、それが今はゲームのデベロッパーに変わっています。そういった環境があるというのは大きいです。
――業務は主に開発と品質管理が中心で、初期段階では「ファンタシースターオンライン2」(PSO2)を中心に手掛けていくとされていましたが、1年経過するなかで変化はありますか。
瀬川氏: 「PSO2」は一番多く関わっていると言えます。それ以外にもスマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(プロジェクトセカイ)は、札幌でも開発の一部を担っています。また「SuperGame」(※セガが持つ総合的な技術を横断させて開発する、AAAタイトルの創出に向けて掲げたビジョンであり、コードネーム)についても、札幌スタジオは開発に参加しています。ほかにもゲーム開発だけではなく、インハウスツールやユーザー動向を分析するツールなども手掛けていまして、結構多岐にわたっています。開発人員が増えて、その方が得意であろう業務を担うこともできるようになったため、携わるところも増えてきています。
――スタッフの方は、かねてから札幌に在住している方が多いのでしょうか。
瀬川氏: 設立段階では、札幌出身・在住の方が多くなるとイメージしていました。でも実際にはIターンで、今回初めて札幌に移住して働いている方がかなり多いという状態です。プライベートは、結構札幌を楽しんでいるようですね。東京在住だとウインタースポーツをするにも、旅行するぐらいのパワーが必要ですけど、札幌スタジオのスタッフの中は、仕事終わりにスキー板やスノーボードを持って移動している方もいます。
心配なところは、立ち上げ時のメンバーは札幌の冬を経験していて、特に昨シーズン(2021~2022年)の冬は、記録的な大雪もあって大変でしたから。その冬を経験していないメンバーもたくさんいるので、なんとか楽しく過ごしてもらいたいですね。
――求人に応募される方はどういう方が多いですか。
瀬川氏: 純粋に、セガのゲームに携わりたいという方が多いですし、地方からも東京からも応募があります。やはり札幌という環境がいいという理由もあるようです。またスタッフには、海外出身の方も相応にいまして、札幌で働きたいという意向が強い感じですね。世界から見ても、札幌は魅力的に映っているようです。
高柳氏: 海外出身の方はもともと札幌にいて、一定の在住歴がある方が働いています。どうも札幌に住みたくて来日したようです。ロシアや米国の中西部あたりだと気候が比較的近くて、日本のなかでも札幌は肌に合っているようです。
――採用は進んでいるのでしょうか。
瀬川氏: 当初の計画よりも順調すぎるぐらいに進んでいて、第2スタジオとなるような場所を探しているような状態です。立ち上げ時からこのペースで増えていくのであれば、はじめからもう少し広いところにすれば良かったと思うぐらいです。9月、10月ぐらいには、次のオフィスを探す状態になったので。
札幌のオフィスは、なかなか空いていなくて。北海道新幹線の札幌駅までの延伸や、オリンピック招致にあわせて、2030年に向けて再開発を進めている状況なのです。今はオフィスを借りるのが厳しい時期ということもあって、早めに探している状態です。
――行政側とお話ししたり、実際にサポートなどもあったのでしょうか。
瀬川氏: 開設するにあたって候補地を4~5程度に絞った段階で、各行政の方々にも問い合わせやお話をさせていただきましたが、札幌市のサポートがすごく良かったですね。会社設立における支援金や不動産業者の紹介もそうですけど、私たちが大学や専門学校とも関係性を構築していきたいという意向も理解していただいて、各学校も紹介していただきました。
札幌市とゲーム開発会社8社合同で、10月に「Sapporo Game Camp 2022」を実施したのです。札幌のIT人材やゲームクリエーターの育成を目的としたもので、スタジオ開設段階からこういうことはやっていきたいというお話はしていましたし、札幌市側でもその意向を持っていました。次世代に向けた若手の育成の取り組みや考え方で合致して、イベント開催に繋がったところがあります。短期間でのレスポンスの良さや考え方がすごく近かったところが大きかったですね。
――札幌にはデベロッパーとなるゲーム開発会社もありますが、セガがスタジオを設立することへの反応はどういうものでしたか。
瀬川氏: セガが来たことで、札幌スタジオに人が移ってしまうのではないか、という危機感みたいなものがあったようで、開発会社さんの心配は大きかったと伺っております。それもあって、札幌スタジオでは最初からある程度Iターンを想定して、中途採用の説明についても札幌以外の東京や地方に向けて行っていったところがあります。
また私のほうから、みなさんと一緒にやっていきたいというお話はさせていただきました。ゲーム開発もピンキリではありますが、多くの人手が必要となっているのが実情で、札幌スタジオでは抱えきれない案件や業務が増えてくることも想定しています。そこは札幌のデベロッパーさんと協業しながら進めていくことも考えていますし、そのための連携も大事だと感じていましたので。
あわせて、札幌のITやゲーム開発人材の人員育成も連携して取り組みたいというお話をさせていただきました。Sapporo Game Campを通じて、一緒に育てていくという意識はできてきたのかなと、個人的には感じています。
――札幌というと、「プロジェクトセカイ」をはじめ、セガのゲームでもなじみがある初音ミクなどを展開している、クリプトン・フューチャー・メディアの本社があります。
瀬川氏: 伊藤社長(代表取締役の伊藤博之氏)とも以前からお話をしておりまして、事業の領域は違いますが、ともにエンターテインメントを盛り上げていきたいと。また、札幌のいいところや課題となるところもヒアリングさせていただきました。これはクリプトンさんに限らず、札幌の各社さんにいろいろお話は聞かせていただきましたし、良好な関係ができているとこちらではとらえています。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス