麻倉怜士のデジタル時評--実際に聴いて見て選んだ2022年の愛用品ベスト10 - (page 2)

5位:大ヒット映画を支えるサウンドのすごさ

パラマウント・ピクチャーズ「トップガン マーヴェリック 4K Ultra HD+ブルーレイ」(UHDBD)

パラマウント・ピクチャーズ「トップガン マーヴェリック 4K Ultra HD+ブルーレイ」(UHDBD)

 大ヒットした映画「トップガン マーヴェリック」の魅力は、サウンドが担っている部分が大きい。ストーリーも素晴らしいが、セリフ、音楽、サウンドエフェクトと音の要素におけるクオリティが高く、音響がとにかくすごい。

 なかでもチャプター12の蛇行する峡谷の彼方、火口原中央の地下ウラン濃縮プラントを破壊するオペレーションでは、効果音が戦闘機の飛行音、ミサイル発射音、爆発音とたいへん豊富。台詞も現状報告から危機の叫びまで多彩で、音楽も、緊迫シーンをエモーショナルに盛り上げている。

 作品に没入するための、効果音の鮮鋭さと量感、ダイアローグのクリアな伸び、音楽の上質感と浸透力などの音に加え、戦闘機やミサイル飛翔の移動感もUHDBDは圧倒的に明晰に表現。効果音とダイアローグに音楽が重なるシーンでは、重奏のレイヤー構造が明確で、音像がクリアに立つ。

 本作の本質的な魅力は「低音が表現するドラマトゥルギー」だ。台詞は安定し、腰が座る。本作においては、感動の半分くらいは音によるものだと確信している。音のすごさがこの大ヒット作品を支えているのである。

4位:カーナビとしての使い勝手を極めたスマートウォッチ


グーグル「Pixel Watch」(スマートウォッチ)

 各社から続々とスマートウォッチが発売される中、1人沈黙を貫いてきたグーグルからついに「Google Pixel Watch」が登場した。41mm径のサイズは機械式時計の標準サイズで、アール形状のガラス部はクラシックウォッチの雰囲気を持つ。ディスプレイは有機ELならではの深い黒を背景にしており、視認性がとても高い。

 Google Pixel Watchのなにが素晴らしいかというと、Google マップのナビゲーション機能だ。最近、スマートフォンをカーナビとして使っていることもあり、今やGoogle Pixel Watchなしでは運転ができないというほど、必需品になっている。

 特に使いやすいと感じるのは、腕に装着しているため、前方を見据えたまま道案内を確認できること。ディスプレイには、黒地に白の大きな矢印表示が、きわめて鮮やかで、前方を見ている目の隅に自然に入ってくる。加えて、連携したスマートフォンが声でナビゲートしてくれるため指示を取り逃す不安がない。

 通常時は時刻が表示されているが、腕を少し動かしただけでカーナビモードに変更されるもの大変便利。私は通常時計を右腕につけていて、左手にはつけないが、Google Pixel Watchは左に装着するようになった。この便利さは実際に使ってみないとわからないもの。まさにグーグルならではの価値あるスマートウォッチと言えるだろう。

3位:たいへんニッチだが、確実にニーズはある

GeerFab Audio「D.BOB」(HDMIオーディオ分離機)

GeerFab Audio「D.BOB」(HDMIオーディオ分離機)

 デジタル・ブレイクアウト・ボックスの意味を持つ「D.BOB」(ディーボブ)は、米国ウィスコンシン州に拠点を持つ新進オーディオメーカーGeerFab Audioが開発したHDMIオーディオ分離機だ。デジタル信号のHDMIを分配する機器だが、通常の分配機とは異なり、映像と音声を同時に伝送するHDMI信号から、映像と音声の各信号を分ける。

 使用シーンは、手持ちの高級DACで音声をデコードし、高品位な2チャンネルサウンドを聴く時。BDプレーヤーで、CD、SACD、BD、UHDBDなどの2チャンネルコンテンツを再生するには、プレーヤー内蔵DACでDA変換するか、HDMI接続したアンプ内蔵のDACで変換し、アナログを出力する。その音質性能はいうまでもなく、プレーヤーやアンプ内蔵のDACに規定される。しかし、高級な単体DAC、もしくは高級なDACを内蔵したCD(SACD)プレーヤーが手元にあれば、そのDACを使った方が高音質再生ができる。そのための分配器がD.BOBだ。

 これまでBDプレーヤーの再生に愛用のULTRADACを使うという発想は、まったく持ったことがない。そもそも、BDプレーヤーからは一応、S/PDIF同軸で接続できるが、BDオーディオなどのハイレゾディスクを再生しても、オーサリング時の制作者の選択により、48kHzなどのSDにダウンコンバートされてしまうからだ。一部、SACD再生ができるものもあるが、そもそもDSD信号は著作権保護によりSPDIFを通らない。なので、BDプレーヤーにはULTRADACは無用だった。

 しかし、HDMIインターフェイスでは、そもそもHDMIが著作権保護を行うので、特別な保護フォーマットは存在せず、ディスクに収録された最高音質で出力される。D.BOBでは入力したHDMI信号から最大192kHz/24ビットのリニアPCMやDSD64(2.8MHz)の音声信号を分離し、同軸・光デジタル信号として出力する。ここでBDプレーヤーは、外部の単体DACにストリーム信号を送り込むディスク・トランスポートとなるわけだ。

 実際に試聴してみたが、一聴してたいへん驚いた。ベールが数枚剥がされ、この音楽の本質がそこに忽然と現れたという印象。ボーカルの質感が全く異なり、音の粒子が格段に細かくなる。音のグラデーションもたいへん滑らか。条件的にはたいへんニッチだが、確実にニーズはある機器だと言えるだろう。

2位:クラシック音楽史上最高の録音

キャプション

ユニバーサルミュージック「ニーベルングの指環」(SACD)

 クラシック音楽史上最高の録音と言われる「ニーベルングの指環」の2022リマスタリング版が登場した。1958年当時、DECCAレーベルのプロデューサーだったジョン・カルショー氏が制作した、ショルティとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるワーグナーのニーベルングの指環の全曲スタジオ録音だ。総演奏時間は15時間を超え、DECCAレーベルの総力を結集した史上最高の作品と言われている。

 2022年版リマスタリングでは、1958年から1965年にかけて行われた録音セッション以来、DECCAの保管庫に保管されていた貴重なアナログ・マスターテープの修復プロジェクトにより実現。一番古いテープで65年経過した38本のオリジナル・マスターテープの中には、編集修理や酸化膜剥離が必要なものもあったが、状態の悪いテープは、55度で10時間焼成することで修復し、24bit/192kHzの高解像度で新たにマスタリングを実施。従来の作品に比べ、細部まで鮮明に、そしてダイナミックなサウンドに仕上がった。

 ポイントは音がアナログ的だということ。まさしくアナログ録音の「らしさ」を壊さずデジタルに変換されている。また、日本で制作する際はオリジナルマスターテープからコピーしたテープで制作することがほとんどだが、本作に関しては、そもそものマスターテープを使用しているので、音の情報量や奥行き感が、その他のバージョンとはまったく異なる。全クラシック、ハイレゾファン、必聴の名アルバムだ。

1位:耳から外したくない完全ワイヤレス

final「ZE8000」(完全ワイヤレスイヤホン)

final「ZE8000」(完全ワイヤレスイヤホン)

 完全ワイヤレスイヤホンの音質については、長く懐疑的だったが、finalの「ZE8000」はとてもいい。「耳から外したくないような完全ワイヤレス」だと感じている。

 音質は生音に近く、発音体が広がっていく様が見えるよう。単に直接音が耳に届くのではなく、間接音ひとつひとつをケアし、一聴すると柔らかな音だが、よく聞くと音がしっかりとしていて、中核があり、ほわっと広がる。聞く人を幸せにする音だと感じる。

 完全ワイヤレスイヤホンをはじめ、ヘッドホンやイヤホンは実にたくさん発売されているが、すっと耳に入るような音づくりをしているモデルは少ない。多くのモデルは強調型で音をしゃきっとさせ人為的な音に。逆に言うと、強調せずにきちんとした音を出すには相当な技量がないできないことだ。

 「イエスタデイズ・ワンスモア」を聞いたときは、まったくこれまで、聴いたことのないようなクオリティの高さ、しなやかさ、そして音楽的なボキャブラリーの多さに驚かされた。「情家みえ・エトレーヌ」は私が作ったCDだから、音の内容はすべて知しつしている。一曲目の「チーク・トウ・チーク」は、イコライジングや編集をせずにワンテイクで録音するという方針のもと、徹底的にナチュラルを貫き録音したもの。この曲を、過度な強調感や人工感は微塵も感じさせず、素直で、何の色づけもされない、プロデュース側の狙い通りの、生成りの音を聴かせてくれた。

 ZE8000はこれまでとはモデルとはまるで別物の、ハイエンドオーディオ的な地平まで音質を高めた完全ワイヤレスイヤホンとして、長く歴史に残るに違いない。それほど、時代を画する音なのだ。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]