麻倉怜士のデジタル時評--実際に聴いて見て選んだ2022年の愛用品ベスト10

 2022年もさまざまなオーディオ&ビジュアル製品を試し、多くのコンテンツを視聴した。その中でも「これは」と感じたハード、ソフト10選を紹介する。大きな進化を遂げた最新テレビから、特定の人にのみ「刺さる」専用DACなど、実際に愛用しているモデルも含め、その使い勝手やクオリティ、選んだポイントを解説する。

10位:今なおファンを増やし続ける「ビートルズ」が最新技術で蘇える


ザ・ビートルズ「リボルバー」スペシャル・エディション 5CDスーパー・デラックス(UICY-80210 / 税込2万1450円)他ユニバーサルミュージックより発売中
(c)Apple Corps Ltd.
ザ・ビートルズ「リボルバー」スペシャル・エディション 5CDスーパー・デラックス(UICY-80210 / 税込2万1450円)他ユニバーサルミュージックより発売中 (c)Apple Corps Ltd.

「UNIVERSAL MUSIC「ザ・ビートルズ Revolver スペシャル・エディション」(CD)

 「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(2017年)、「ザ・ビートルズ(The White Album)」(2018年)、「アビイ・ロード」(2019年)、「レット・イット・ビー」(2021年)に続く、ビートルズのリミックス&リマスター&拡張版。オリジナルの4トラックのマスターテープを使用し、新たにステレオミックスし直している。ポイントは、音源分離技術によって、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスと、個々の音源を抽出し、あるべき位置に再配置している点。オリジナルでは左に寄っていたり、右側が薄かったりと音場がアンバランスだったが、それを修正している。

 1曲目の「Taxman」を2009年リマスター版(48KHz/24bit)と聴き比べてみよう。2009年版はギター、ドラムスは左、パーカッションは右、ヴォーカルとコーラスはセンター、ソロギターは右という配置だったが、今回は、低音のベースが大きくなり、明瞭かつ輪郭がしっかりとした。ヴォーカルは鮮明にシャープになり、ヌケがクリアに。全体的にベールをはがしたような鮮鋭感が出て、音がパワフルになった。

 今回採用された音源分離技術がもたらすのは、Revolver以外のアルバムにおけるスペシャルエディション化だ。ビートルズは解散から約50年を経てもファンが増え続けており、最近では若年層にも人気がある。新機軸の技術によって、新たな音源が発売されれば、ファンが欲しいと思うのは当然だろう。

 今なお新たなファンを獲得するビートルズだが、その旋律の特徴、特有のコード進行、転調技法を研究し、ビートルズ音楽の本質を多角的に掘り下げる講義を2023年1~3月に全7回に渡り行う。「ビートルズ全曲、ほぼ完全分析〈冬編〉」を早稲田大学エクステンションセンターで実施するので、そちらに行かれるとより理解が進む。

9位:クリアかつ一点の曇りない透明な描写を実現する新世代のミュージックモニター

スピーカー「KX-3SX」(クリプトン)

スピーカー「KX-3SX」(クリプトン)

 最近聴いたスピーカーの中で、飛び抜けて濃い感動を与えてくれたのがクリプトンの「KX-3SX」だ。世の中には、物理的な音は良いのに、音楽性が薄いスピーカーというのが存在する。クリプトンのスピーカーはまさにその真逆。周波数レンジ、ダイナミックレンジの広さ、時間軸再生の正確さなど、非常に優れたオーディオ性能を持ちながら、音楽の匂いが濃厚だ。

 私自身、「ミュージックモニター」という称号を贈ったことがあるほど、クリプトンのスピーカーは嗜好に合う。モニタースピーカーとして活用できる高い音性能を持ちながら、いわゆるモニター的な過度な伶俐さはなく、切れ味と質感が両立。音源の持つメッセージ性を明確に引きだすボキャブラリーも豊富だ。

 KX-3SXは、35mmリング型トゥイーター、170mmコーン型ウーファーの2ウェイ2スピーカー密閉型という基本構造で、これは旧製品「KX-3SPIRIT」と同一。内部配線とエンクロージャーを変更しただけのマイナーチェンジだが、意外なほどの大胆なグレードアップがなされ、驚かされる。

 音楽を聴くと、音の粒子が破格的に細やかになり、音調が圧倒的に緻密。ユニットに秘められていた潜在的な音質力が、仕様変更により、鮮やかに引き出されたように感じる。この実力は映像作品でも遺憾なく発揮されており、2022年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤー・コンサート2022」のBDでは、映像の高解像度、高彩度と巧みにバランスの取れた、クリアですべらかで濃密な音色を再現している。

 KX-3SXは、徹底してクリアかつ一点の曇りもない透明な描写をしつつ、感情表出が大変濃密な新世代のミュージックモニターと言えるだろう。

8位:22.2chコンテンツを「エコー」で堪能できる8K番組

「22.2chで楽しむ日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」

NHK「22.2chで楽しむ日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」(BS8K)

 NHKのBS8Kで放送された「22.2chで楽しむ日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」は素晴らしい出来栄えのコンテンツだ。内容は、洞窟や建物内など、「独特な響き」のする場所でゴスペラーズが歌うというもの。

 このコンテンツでは、8K映像の音響方式に採用されている22.2chをそのまま聴けること。実は、22.2chフルで聴けるコンテンツはあまり数がない。22.2chで聴くエコーは180度にひろがり、リアルな響きを存分に感じられる。

 特に面白いと感じたのは琵琶湖と京都をつなぐ運河の琵琶湖疏水にボードを浮かべ、ゴスペラーズがトンネルの中で歌った回。琵琶湖疏水のトンネルは2436メートルととても長い。手打ちをすると、長い残響を伴い、響きがゆっくりと減衰していくことが、聴き取れる。ゴスペラーズは、「サウンド・オブ・ミュージック」や「マイ・フェバリット・シングス」など、間のある曲を歌い、響きの減衰を体感する。

 実際に聴いてみると、たくさんの響きを感じられるが、でも言葉は明瞭に聞こえてくる。室内音響などの研究を手掛ける日本大学教授の羽入敏樹氏によると、なんと残響時間は24秒におよび、コンサートホールに比べ10倍近く長いとのこと。音響的に分析すると、大きな響きは進行方向の前後に、つまりトンネルの外に向けて進み、その時点で一気に減衰する。同時に水面とトンネルの壁との間で音が反射し、小さな響きはその場に残り続ける。そのため、言葉や歌は明瞭に聴き取れるという。

 こうした科学的分析も大変面白く、かつ22.2chの恩恵を存分に受けられる貴重なコンテンツだ。

7位:映画制作現場の声から生まれた、本物のバーチャルサラウンド

写真提供:Stereo Sound ONLINE
写真提供:Stereo Sound ONLINE

ソニー「360 Virtual Mixing Environment」(バーチャルオーディオ)

 360度の空間再現を謳うヘッドホンは、いくつか登場しているが、その多くは近似式程度で、完全に再現できるとは言い難い状況だ。しかし、ソニーから登場した「360 Virtual Mixing Environment」(360VME)は、それらとは一線を画す完成度で、目の前のスピーカーから音が出ているような、ものすごいリアリティが味わえる。完全に前方定位するのである。そんなヘッドホンシステムは史上初だ。

 開発のきっかけは、コロナ禍でソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)のスタジオが封鎖になり、ダビングステージでのミックス作業が不可能になったこと。ヘッドホンでダビングステージを再現できないかというSPEからの要請を受け、ソニーグループR&Dセンターが作り上げた。

 開発自体は2019年からスタートしており、現在のヘッドホンが4世代目。ヘッドホンには大きく分けて密閉型とオープン型があるが、密閉型ではイヤーカップの中で反射が起きるため、音が抜け、反射が少なくなるオープン型を採用した。3世代目では、低域が足りなかったため、ドライバーを改善し、さらなる低域再現力も増したという。

 使用するには、個人の耳を測定し、カスタマイズが必要になるため、現在はプロフェッショナル用途に限られている。すでに、一部のソニー・ピクチャーズ作品のエンドロールには「Virtual Mixing Environment」とクレジットされているなど、作品も公開済みだ。

 実際に聴いてみると、音がフレッシュでダイレクトな印象が強まり、フォーカスがしっかりと当たっている印象。ただ、低音の量感は出ているけれど、体で感じる振動がないのは寂しいところ。この部分をサブウーファーなどで補えるとさらに良いと感じた。

 ヘッドホンを使ったバーチャルサラウンドは、音質と音場の2つの再現性がとても大切。これまではどちらも良いというのはなかなか存在しなかったが、360VMEは音質、音場ともかなりのレベルにまで達している。そういう意味でも、360VMEは日本のホームシアターの新たな展開に進んで欲しい。ソニーグループ内に留めるのではなく、広く世間に問うべき技術と考える。ぜひ、民生用モデルに展開して欲しい。

6位:初号機から格段に進化した次世代テレビ


シャープ「AQUOS XLED EP1シリーズ」(液晶テレビ)

 「液晶のシャープ」として長く業界をリードしてきたシャープだが、ここ数年は有機ELテレビにも進出し、液晶と有機ELのどちらにも力を入れている。そのシャープが次世代テレビとして取り組むのがmini LEDバックライトを搭載した4Kテレビ「AQUOS XLED」だ。

 有機ELの黒表現力と液晶の白の再現力の両方を兼ね備えたとも言われるAQUOS XLEDだが、正直、第1世代を見た時は、液晶寄りの印象が強く、有機EL的な画質は感じられなかった。しかし2年目となる「EP1」シリーズは、有機EL寄りの画質になり、明らかに初代機からのパワーアップが感じられ、黒の再現性が向上した。加えて明るい部分のフォーカス感が上がったことも特筆すべきだろう。

 シャープによると、変えたのはシステムではなく、アルゴリズムとのこと。これにより、闇夜に浮かぶ月の映像など、エッジの周りに光が漏れるハロー現象が抑えられ、フォーカス感が改善されたようだ。以前のモデルでは、夜の街のネオンなどはぼわっとした印象だったが、新モデルではフォーカス感が上がり、シャキっとしている。こうしたフォーカス感の向上は多くのシーンで感じられた。

 これらを総合して考えると、全体的に画が引き締まり、黒の再現力も向上、質感的にはかなり良い仕上がりだ。決して有機ELと同じになったとは言わないが、初代機に比べると格段に良くなっている。

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