あらゆる趣味がアナログだった1980~90年代にかけて、トレーディングカードが全盛期を迎えたことを覚えている人もいるかもしれない。トレーディングカード市場は必ずしも効率的とは言えず、信頼性も乏しかった。それでも老若男女を問わず、何百万もの人々がトレーディングカードに価値を認め、投資の対象と見なしていた。
しかし、ここ数年の間に、トレーディングカードへの投資熱が再び高まっている。しかも、その形態は、お気に入りのカードを古い靴箱にしまっておくよりはるかにハイテクだ。
NFT(非代替性トークン)を利用したデジタル収集品が登場しては(少なくとも今のところ)消えていく一方で、トレーディングカードは関心を集め続けている。著名なユーチューバーのLogan Paulさんが超希少なカードを身に着けてプロレスのリングに上がったり、元プロ野球選手のDerek Jeterさんがトレーディングカード取引所を開設したりしたことなどが良い例だ。
これは大きなビジネスでもある。スポーツトレーディングカード市場は、2026年までに67億ドル(約9300億円)増加すると見込まれている。
トレーディングカードはなぜ急に、これほど大きな注目を再び集めているのだろうか。その理由の1つは、端的に言って、人々はトレーディングカードが好きだからだ。
トレーディングカードなどの収集品を売買するプラットフォームPWCC Marketplaceで販売担当バイスプレジデントを務めるJesse Craig氏は、次のように述べている。「今でもこれがスポーツに関するものであり、米国の文化であることに変わりはない。投資と収集や自分の好きなものを組み合わせられるのなら、大多数の米国人は株式市場に資金を投じるよりも、むしろ好きなものに投資することを選ぶだろうというのがわれわれの見方だ」
トレーディングカード市場が再び盛り上がりを見せている背景にはコロナ禍の影響があると同氏は見る。
「家で過ごす時間が増えたことが、昔の情熱に火をつけた」と同氏は言う。「時間に余裕ができた、あるいは自宅で仕事をするようになったことを機にクローゼットを整理して、昔集めたカードを見つけた人もいる」
人々が懐かしい気分に浸っている間に、収集したアイテムをかつてないほど手軽に売買できる技術も登場した。PWCCは、Amazon Web Services(AWS)上でオークションや固定価格のマーケットプレイスを運営している企業だ。同社のトレーディングカード売買サイトは世界最大規模を誇る。
しかし、同社は単なる「トレーディングカード専用のeBay」ではない。トレーディングカードなどの収集品を売買するプラットフォームを提供する一方で、売買の対象となる資産を物理的に管理するクリアリングハウスの役割も担っている。取引の対象となる資産を迅速かつ安全に追跡するために、米オレゴン州タイガード市に専用の施設を設け、特注ロボットや高性能カメラ、約340トンのコンクリートで作られた銀行水準の保管庫を配備した。
PWCCに出品するためには、まず売りたいアイテムを同プラットフォームに郵送しなければならない。到着したアイテムは、郵便室で開封された瞬間からカメラで追跡される。すべてのアイテムにQRコードが付与され、管理番号や出品者の口座番号といった基本情報とひも付けられる。PWCCには毎日何千枚ものカードが送られてくる。そうしたアイテムをもれなく処理し、必要な情報をプラットフォームに入力するために活躍しているのが2台の特注マシンだ。
このマシンにはロボットアームが装着されており、カードを一枚一枚拾い上げて写真を撮り、さらに裏返して背面を撮影する。撮影された高解像度と低解像度の画像は、対応する管理番号とひも付けられ、出品者のアカウントに記録される。このマシンはOCR機能を使ってカードの種類を識別し、オークションサイト用のラベルを作成する。機械学習により、処理したカードが増えるほどラベル付けの精度も高まっていく。このプロセスに要する時間は1枚当たり6秒程度だ。
PWCCに送られてくるトレーディングカードやその他の収集品のうち、毎月開催されるプレミアオークションに出品されるアイテムは、さらに360度イメージングステーションに運ばれる。ここではカードを360度回転させながら、3台のカメラで36枚の画像を撮影する。同社は、この工程に要する時間を1枚当たり約5分から、わずか30秒に短縮した。
「スポーツカードは、カードの状態が非常に重要だ」と、同社の資産管理マネージャー、Jared Hippler氏は言う。PWCCのオークションサイトでは「あらゆる角度から、3段階の高さでカードを見ることができる。しかも、すべて超高解像度の画像だ」「解像度が高いので、拡大して細かい部分まで確認できる」
次はカードの鑑定だ。これは同社の融資プログラムにとっても重要な意味を持つ。同社はトレーディングカードを担保として、顧客にローンやキャッシングサービスを提供している。融資事業を拡大するため、9月にはWhitehawk Capital Partnersが主導する資金調達ラウンドで1億7500万ドル(約240億円)を調達した。これは過去に類を見ない機関銀行取引だった。大量の取引・販売データをもとにオークションでの落札価値を正確に予測できることを実証できたことが、融資の決め手となった。
「データは当社のビジネスの肝だ」とCraig氏は言う。
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