資本主義が産んだ新たな挑戦--元アップル・三浦健人氏が「脱炭素企業」に転職したワケ

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2023年01月26日 09時00分

 地球温暖化を防ぐため、世界的に脱炭素に取り組む動きが広がっている。日本国内でも二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指し、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)が改正され、2022年4月に施行したばかり。さらに同じタイミングで東京証券取引所のプライム市場上場企業は温室効果ガスの排出量の報告が義務付けられることとなった。

 そうしたなかで注目を浴びつつあるのが、脱炭素経営の基礎となる温室効果ガス可視化ソリューションだ。企業が脱炭素を目指すには、関連する法律への対応や世界標準として定められた複雑な要件を満たすことが求められ、単独でキャッチアップするのは極めて難しい。そこで専用のソフトウェアソリューションが力になるわけだ。

 
2022年5月にパーセフォニ・ジャパン カントリーマネージャーに就任した三浦健人氏

 そんな脱炭素を支援する会社の1つであるパーセフォニは、日本法人を立ち上げるなど日本市場へのコミットメントを強めている。しかも、2022年5月には同社のカントリーマネージャーにAppleなどで要職を歴任した三浦健人氏が就任した。

 同氏には、GAFAなどのテック企業の人材が脱炭素などに関連する環境企業に転職する例が増えていることや、その理由についてインタビューしている。続いて今回は、三浦氏がなぜAppleからパーセフォニに転職したのか、またパーセフォニがどのような会社で、何を目指し、日本企業の脱炭素に向けた取り組みについてどう見ているのか話を聞いた。

企業が利益を追求するほど二酸化炭素を排出する

——まずは、三浦さんのこれまでの経歴を簡単に振り返っていただけますか。

 私は新卒でNTTに入社し、Dell、Microsoft、Appleと、IT企業に25年ほど勤めてきました。インフラやハードウェア、ソフトウェアなど、ITを駆使してどうやったら人々の暮らしを豊かにできるか、いかにテクノロジーを使って人々の生活に良い影響を与えられるか、ということを考えながら仕事をしてきました。

 そこから、なぜパーセフォニという脱炭素関連企業に転職したかというと、一番大きな理由は、パーセフォニのミッションである「テクノロジーによって地球環境にポジティブなインパクトを与える」というのが、まさに自分のやりたいこと・使命を感じられることに100%合致していたことです。

 新卒でNTTに入社した理由は、インターネットを普及させたいと思ったからでした。当時インターネットのインフラが家庭にはほとんど普及しておらず、電話回線を使ったISDNによる通信を、ADSLや光ファイバーに切り替えることにより、高速インターネットを普及させられれば、人々の生活が一気に便利になる、と思ったからでした。Appleに転職したのは、日本にiPhoneが上陸した直後のタイミングです。iPhone 3Gをユーザとして使ってみて、メール、ブラウザ、カメラやメモ帳などいろいろなツールがiPhoneという端末1つに集約されて、さらにネットワークでつながることで、パーソナルデバイスとしてとてつもなく大きな可能性を産むだろうと考え、Appleに転職し、iPhone 3GSの立ち上げから関わることになりました。

 翻って、いまは地球全体で環境、気候変動が大きな問題になっていますが、注目度が高く、問題解決に向けて投資が集まっていながらも、テクノロジーによる革新はなかなかやり切れていない。テクノロジーを使ったビジネスモデルの立ち上げに関わることは、私にとって大きな情熱をもてる分野でありかつ得意な分野でした。2022年5月に入社しましたが、パーセフォニに入って良かったと思っています。

——Appleではさまざまな実績を上げてきたと伺っています。そのまま勤め続ける選択肢もあったと思いますが。

 Appleには12年ほど在籍し、さまざまな経験をさせていただきました。日本でのiPhoneの立ち上げ後、三大通信キャリアと協力しながらiPhoneのシェアを拡大しました。その後、Apple Payの責任者となり、交通系ICカード・各種電子マネーを立ち上げ、安全で簡単なキャッシュレス決済を普及しました。NTTでインターネットを、Dell、Microsoft、Appleでハードウェアやソフトウェアサービスと、テクノロジー企業でひと通りビジネスをやってきて、資本主義的な成功を体験してきました。

 ただ、環境、気候変動に興味をもって勉強してみると、企業が利益を追求しビジネス活動が拡大することで、その分二酸化炭素の排出量が増えていくことがわかります。たとえば、電力を購入する際に、利益のみを重視すれば、企業は安く使える夜間電力をより多く利用することになります。しかし、日本の現在の夜間電力は火力発電の割合が多く、太陽光発電など再生可能エネルギーの割合が高い昼間の電力より、二酸化炭素排出量が相対的に多いため、環境負荷は大きい。夜間電力は安いけれど、カーボンニュートラルを目指すためには良くないということになります。

 それだと、カーボンニュートラルは達成できません。いま大切なことは、企業が財務会計だけではなく、炭素会計(温室効果ガス排出量の算定・可視化)を進め、同時に国がカーボンプライシングなどの制度を整備し、温室効果ガスを排出する企業などに排出量見合いの金銭的負担を求めていくことです。利益だけを追求して温室効果ガスを排出するとペナルティが発生するという仕組みを産官で連携してビジョンを持って進め、地球・環境にかける負担を一刻も早く減らしていく必要がある、今はそういう切羽詰まった状況です。

 この資本主義の発展と共に深刻化した気候変動問題と向き合いながら、企業がこれからも健全にかつ継続的に利益を追求していくためには、この社会課題に対して、正確なデータに基づく適切な投資が必要となります。これらのデータやリソースを再活用することで、新たなビジネスチャンスが生まれていく。私の今までの経験やテクノロジーを活用することにより、社会全体が効率的に正しい投資をしていくお役に立ちたいと純粋に思ったのが、パーセフォニ入社を決めたもう1つの理由でもあります。

世界標準に完全対応し、日本の法令もカバーする脱炭酸支援ツール

——Appleを退職してまで入社したパーセフォニですが、改めてどういった会社なのか教えてください。

 具体的には、脱炭素を推進する際の最初の重要なステップとして、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量を算定し、可視化するSaaSサービスを企業向けに提供しています。2020年1月にケンタロウ・カワモリという日系人が米国のアリゾナ州で立ち上げ、現在は本社のある米国を含め、日本、英国、ドイツ、シンガポール、カナダの6カ国に拠点があります。

 パーセフォニ設立のきっかけは、ケンタロウ・カワモリが、米国チェサピーク・エナジーというエネルギー企業でチーフ・デジタル・オフィサーとして働いた際に、手作業でやっていた炭素会計のデジタル化に取り組んでいたことです。いわば、ESGの世界にDXを取り入れたという感じでしょうか。その後パーセフォニを起業し、炭素会計のSaaSプラットフォームを多くの企業に提供することにより、大きなスケールで脱炭素に貢献してきています。今後の炭素会計の重要性や報告の義務化などを考えると、ビジネスとしての機会もとても大きいです。

 現在、シリーズBラウンドで、Climate Tech(気候テック)の領域においては、世界最大の資金調達額、日本円で約140億円の出資を受けています。今後も、引き続き製品・サービス・人材に投資を続け、お客様によりよい製品をお届けしていきます。

——日本においてはどのような役割を担っていますか。

 現在、すでに東京証券取引所のプライム市場に上場している企業は、将来的な脱炭素に向けて二酸化炭素排出量の算定・報告が必須となっていて、企業のサプライチェーン上にいらっしゃる取引先中小企業の排出量も含めて報告しなければいけません。プライム市場1800社の担当者の方々が、手間と時間をかけて環境省のウェブサイトなどから独学を重ね、排出量の算定・可視化をしていることになります。私たちは、その作業を専門知識がなくても簡単に自動化できるようにするSaaSサービスを開発・販売しています。

 具体的には、電力の使用量や出張旅費など、企業が財務処理で扱っているデータを整理して連携すれば、二酸化炭素排出量を算定して可視化し、報告用のフォーマットに沿って出力できる、というものです。つまり、算定と可視化という企業のみなさまが、大変な手間と労力をかけているところを自動化して、そこで削減した稼働を、法人のお客様が本来注力すべきこと、どうやって二酸化炭素排出量を削減していくのかというところに注力し、脱炭素を推進するサポートをさせていただく ことで、結果的に企業、ひいては社会の脱炭素に貢献しようとしているわけです。

——競合に対する「パーセフォニ」の強みはどういったところにあるのでしょう。

 私たちのサービスは、2022年に米フォレスター・リサーチ社によって、サステナビリティ・マネジメント・ソフトウェア部門のリーダーとして選定されています。特に、正確な排出量の算定が自動で行える点、金融機関やグローバル企業にとって包括的に利用できる点で評価されています。

パーセフォニのウェブサイト
パーセフォニのウェブサイト

 正確な排出量を自動で算定するのはかなり難しいです。パーセフォニは、GHG(Greenhouse Gas)プロトコル、PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ)という世界標準に完全に対応しています。そのためには合計1800ページ超のドキュメントをひも解いた上でプログラムとして実装し、企業が自分たちの財務データなどを投入したときに二酸化炭素排出量に換算する、といった処理をする必要があります。日本でもグローバルでも、世界標準に完全準拠した形で正確な算定ができるツールは他にないですし、そうした大変な作業を企業のお客様が全く意識することなく利用できるのが一番の強みになるかと思います。

 次に、包括的なスコープ3算定についてお話しします。現在もスコープ3算定の正確な自動計算には高い評価をいただいていますが、2023年4〜6月期に新たにパーセフォニ無償版の提供開始を予定しています。法人のお客様がスコープ3(事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量)の算定をするためには、企業間同士でのデータ連携が今後とても重要になってきます。パーセフォニ有償版をご利用の企業が、無償版をご利用のサプライチェーン上の事業者や投融資先企業より、スコープ3のデータを入手・連携していくことができます。現在、実証実験中ですが、多くのお客様より関心をいただいています。

 パーセフォニとしては、日本は米国の次に大きく重要な市場と捉え、多くの投資をしていますし、これからも投資していきます。人材への投資、製品の日本語化はもちろんですが、日本国内法令に関連する定期報告書の作成を補助するための機能も追加するなど、日本のお客様のご要望にも引き続き応えていきます。日本国内における排出量算定基準に対応するために、これまでに約2900もの排出係数を追加しました。グローバル基準に完全準拠している信頼性に加えて、日本へのコミットメントによって、日本のお客様、特にグローバルなビジネス展開をされているお客様にとって、価値の高いサービスになっているのが大きな強みです。

政府より企業が主導して変わっていくのが脱炭素への近道

——パーセフォニのサービスの日本企業における導入実績について、公開できるところがあれば教えていただけますか。

 私たちは現在のところ、まず大企業・プライム上場企業に注力しています。三井住友銀行様や広告代理店のADK様、資格取得などの学習ツールのニチイ様などのお客様に、パーセフォニを導入していただいています。三井住友銀行様とENEOS様からは投資家として参画いただいており、金融業界・エネルギー業界において今後の日本の脱炭素を牽引していくリーディングカンパニーから高い評価をいただけたことは、パーセフォニにとって大きな意義があると考えています。

——製造業のような二酸化炭素排出量が多そうな企業の導入状況はいかがでしょう。

 製造業のお客様の多くは、すでに自社で独自のツールを開発していたり、表計算ソフトを使って、排出量の算定をしていたりします。ただ、サプライチェーンを含めたところまで考えると自社開発は難しいとのことで、サプライチェーンの上流・下流の排出量を算定・可視化するにはどうすればいいか、というご相談をいただくことが多くなってきています。とはいえ、私たちのツールを利用するにも、現在独自の方法で算定しているところとの整合性をとりながらサプライチェーン全体を把握する、という形になりますので、そこの調整で時間がかかることがあります。

——将来的に、個人向けに自身の脱炭素の取り組みを可視化できるようなツールを提供する可能性はありますか。

 今のところ個人向けのツール提供は考えていませんが、移動距離や手段に応じて二酸化炭素排出量がどれだけ削減できたか教えてくれて、ポイントが貯まるようなスマートフォンアプリもすでにありますし、そういったツールは今後もいろいろなものが出てくるのではないでしょうか。それ以外には、商品パッケージにカロリーと同じように二酸化炭素排出量や削減量を表示するようにして、「これを購入したら排出量が抑えられるんだ」と意識してもらえるようにする、という取り組みも始まっています。米国では洋服や靴、欧州では食品に二酸化炭素排出量の表示が始まっているところもあります。

 
 

——日本は欧米と比べると、脱炭素についてまだ自分ごとと捉えていない方も多く、企業でもCSRの一環にとどまっているところもあるように思います。そのあたりの意識改革はどうすれば進むと考えていますか。

 政府中心で進めていく方向性や規制も重要ですが、私としては企業のしかるべきポジションにいる方が、今まで以上に危機感を持って脱炭素について考えること が最も重要だと考えています。なぜなら、国家予算よりも、プライム市場1800社全体がもっている予算の方が圧倒的に大きく、実際の脱炭素を推進する原動力となるからです。また、サプライチェーン上のサプライヤーに対して、脱炭素についてしっかり考えて実践している会社から優先的に部品を購入する、金融機関も脱炭素にきちんと取り組んでいる会社に有利な条件で融資をする、などいろいろな働きかけが今後短期間で加速していくと予想しています。

 そうすれば、より多くの企業が真剣に脱炭素に取り組み、従業員の方々は職場以外でも自然と脱炭素について考えるようになると思います。大企業から中小企業、中小企業から従業員と脱炭素に取り組む意識が広がっていけば、脱炭素にしっかり取り組んでいる企業がよりブランド力を高め、企業価値及び売上を向上させ、その利益を投資することにより、お客様からさらに良い評価をもらっていく。

 そして、脱炭素に本気で取り組んでいる企業で働きたいと考える人が増え、人材の質も向上していく。特に、気候変動・環境保護に強い関心を持っている次世代に対して、企業価値を効果的にアピールできます。脱炭素に取り組んでいる会社が脚光を浴び、投資家からの資金を集め、成長することにより、社会全体としての脱炭素が推進される。そういった好循環を、企業主導で実現していくことが、脱炭素実現への有効な策だと考えています。パーセフォニも、二酸化炭素を含む温室効果ガス排出量の算定・可視化をサポートすることで、その好循環を後押しし、前倒しで脱炭素を進めていくお手伝いができればと思います。

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