12月6日は「音の日」に制定されていることをご存知だろうか。1877年の12月6日にエジソンが蓄音機を作ったことで、音を記録再生する技術が生まれ、この日をオーディオの誕生日として一般社団法人 日本オーディオ協会は音の日として定め、音に関する記念行事を毎年実施している。
日本オーディオ協会は1952年に設立し、2022年で創立70周年を迎えた。音の日以外にもイベントの開催や音楽、オーディオに関する情報を積極的に発信している。ハイレゾや3Dオーディオといった新たなオーディオ規格が登場する一方、アナログレコード人気が復活するなど、目まぐるしく変化するオーディオ業界において、協会はどんな役割を果たしているのか。オーディオ協会会長の小川理子氏と専務理事 の末永信一氏に聞いた。
「オーディオ協会が誕生した1952年は、終戦から7年という、まだ日本の復興が始まったばかりの時期。ソニーの創業者である井深大氏が米国出張でステレオ再生を体験し『オーディオの世界が変わる』と帰国後に報告したことがきっかけ」と末永氏は設立の経緯を説明する。
同年の12月には展示会「全日本オーディオフェア」を開催し、NHKラジオ第1放送(Lch)と第2放送(Rch)を使って、ラジオ2台によるステレオ実験放送を実施。まさに日本におけるオーディオの最先端を作り出してきた。
昨今の取り組みとしては「ハイレゾロゴ」の登場が記憶に新しい。「オーディオ協会と言えばハイレゾと言われるほど、ロゴの普及、啓発には積極的に取り組んできた。普及を加速するだけではなく、高音質化文化にも寄与している」(末永氏)とする。
高音質化を推進すると同時に、オーディオ協会が力を入れているのが若年層と女性層の取り込みだ。オーディオ離れとも言われる時代、日本オーディオ協会はどのようにしてこの層にリーチしているのだろうか。
「オーディオ協会自体も、2022年から女性の理事が3名増え、多様性を意識した組織体制になってきている。加えて嬉しかったのは、個人会員として18歳の大学生が加入してくれたこと。話しを聞いてみると、オーディオが好きで、コミュニティを探していたところ、ここを見つけて飛び込んできてくれたと。こちらとしてもまさか18歳とは思わなかったので、非常に喜ばしい出来事だった」(小川氏)と変化を話す。
この背景には、オーディオ協会が長く取り組んできた新たな層への開拓がある。2022年、3年ぶりのリアル開催となった「OTOTEN 2022」では、オーディオにも関心を持つ音響の専門学校生がナビゲーターを務め、お客様のおもてなしや会場内を案内する役を担った。
「学生の方には、手が空いている時間帯は会場内を好きに見てもらえるようにした。そうなると会場内に若い人たちの行き来が増え、出展企業からも『若い人が増えてよかった』というポジティブなフィードバックが得られるようになる」(小川氏)と好循環が生まれているという。末永氏は「学生の男女比は半々というか、女性が多いくらい。オーディオのイベントは男性が多くて行きづらいという女性客の後押しにもなっている」と話す。
「オーディオ、車、カメラ、腕時計は男性の趣味嗜好が強いところと言われてきたが、音楽好き、楽器好きは女性が多い。私自身もピアノと音楽が大好きで、オーディオは父や叔父を通して興味を持った分野。何かきっかけがないと興味を持ちづらいジャンルだと思うので、女性が訪れやすいイベントを作っていきたい」(小川氏)と意気込む。
しかし、今のような好循環を生み出すまでには、試行錯誤も重ねたという。「イベントに人に誘引するにはいくつか方法があって、その1つがタレントなどを呼ぶ方法。オーディオ協会でもチャレンジしたことがあるが、一過性になってしまいがち。今回ご協力いただいている音響の専門学校は、ミキサーやレコーディングエンジニアを目指す人たちで、会場内を見学することで勉強にもつながる」(末永氏)と相性の良い組み合わせを見つけ出した。
一方で「音楽配信も、若年層がオーディオに興味を持つ大きな追い風になった。通信環境の向上とともに、音楽配信の音質もどんどんリッチになってきた。文化と技術の進化の両輪で、音楽、オーディオを楽しむ環境はどんどん良くなっている。音楽配信の登場で変わったのは、音楽に出会える機会が莫大に増えたこと。瞬時に世界中の音楽に触れられる。同時に、YouTubeなど自らが発信できる場ができたのは大きいと思う」(小川氏)と音楽配信の登場がもたらした変化を話す。
「少し前のオーディオを楽しむイメージは、大きなスピーカーがあって、その前に座って聴くという感じだったと思うが、エンターテインメントはどんな楽しみ方をしてもいい。今、空間オーディオが人気を集めているが、その延長線上には、リアルとバーチャルの壁を越えるような世界が出てくる。ゲームはさらに高音質化していくだろうし、メタバースやVRといった新しいツールもどんどん出てくる。こういう楽しみが増えていく中で、オーディオ協会として何ができるか、どんな楽しみを提供できるかを追求していきたい」(末永氏)とオーディオ協会のこれからの方向性を示す。
「オーディオ協会はその時代の音楽を探究しながら、ライフスタイルに寄り添い、一人ひとりの価値観に寄り添っていろいろなトライをしてきた。井深氏が初めてステレオ再生を聴いたときの衝撃は相当なものだったと思う。その技術力が進化して、今は、空間オーディオやハイレゾなどが登場し、選択肢が広がっている。一方で、アナログレコードの売上が伸び、米国ではCDの販売数と逆転したというニュースもある。完全に姿を消した時代もあったがアナログ文化を再び楽しむ文化が復活してきている。そういった選択の幅の広がりからしても、今はアナログとストリーミングなどのバーチャルがバランスよく世の中に出てきている。若い人は楽しみながらその両方を使い分けている。この状態はオーディオ業界にとって、大変やりがいのある世界になっている」(小川氏)と現状を分析する。
次に見据えるのは、ファミリー層の獲得だ。「海外のオーディオショーに行くと、目立つのはファミリー層。特に欧州は音楽、オーディオを自宅で楽しむ風土が根付いていて、家族連れのお客様がとても多い。日本は、ファミリーで出かけるところというと、テーマパークなどを思い浮かべてしまいがちだが、OTOTENにもぜひ足を運んで欲しい」(小川氏)と今後に期待を寄せる。
2022年の12月6日、音の日には「音の匠 顕彰式」「学生の制作する音楽録音作品コンテスト 表彰式」「日本プロ音楽録音賞 表彰式」のセレモニーを開催。「12月6日は音の日と認識している人は多くない。だからこそ、もっと認知が広がるようにイベントなどを実施し、活動していきたい。まずは外に発信していくことが大事。これからも積極的に認知を広げていきたい」(小川氏)とした。
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