建設、不動産テック業界のエンジニア採用、組織力強化を考える

 不動産テック、建設テックのスタートアップによる日本最大のコミュニティであるPropTech JAPANは10月21日、「PropTech & ConTech Startup Conference 2022」を開催した。スタートアップピッチカンファレンスとともに、注目のテーマと登壇者が登場するパネルセッションも実施。ここでは、「不動産DXと組織開発」をテーマにしたパネルセッションの様子を紹介する。

左から、東京大学 不動産イノベーション研究センター(CREI)特任研究員の長瀬洋裕氏、GAテクノロジーズ 代表取締役社長執行役員CEOの樋口龍氏、estie 代表取締役CEOの平井瑛氏、Spiral Capital パートナーの千葉貴史氏
左から、東京大学 不動産イノベーション研究センター(CREI)特任研究員の長瀬洋裕氏、GAテクノロジーズ 代表取締役社長執行役員CEOの樋口龍氏、estie 代表取締役CEOの平井瑛氏、Spiral Capital パートナーの千葉貴史氏

 不動産DXと組織開発のパネルセッションでは、東京大学 不動産イノベーション研究センター(CREI)特任研究員の長瀬洋裕氏、GAテクノロジーズ 代表取締役社長執行役員CEOの樋口龍氏、estie 代表取締役CEOの平井瑛氏が登場。Spiral Capital パートナーの千葉貴史氏がモデレーターを務めた。

 長瀬氏は、国土交通省に入省し、研究のため渡英した経験も持つ。不動産イノベーション研究センターは「不動産業界における新しい関係のあり方を研究する機関」(長瀬氏)と位置づける。一方、樋口氏は、エンジニアの採用からリアルな不動産の現場まで「全部をやっている」(樋口氏)不動産テック企業、GAテクノロジーズのCEO。平井氏は、賃貸オフィスマッチングサービスを手掛けるestieを率いる。前職は不動産デベロッパーで海外不動産の投資に携わっており、「日本には米国の不動産テック企業が使っているようなツールがなく、それを作ってみようと思い始めた」(平井氏)のが起業するきっかけになったと話す。

エンジニアのパフォーマンスを発揮するためには

千葉氏 まず、最先端の不動産テック企業がどのような組織づくりをしているのか教えてください。estieはエンジニア採用力のあるスタートアップですが、採用や組織づくりの面で工夫されていることはありますか。

平井氏 estie自体は2018年の設立で、始めてから3年半程度です。組織としては、直近半年で人数が倍になりました。2021年末は20名後半だったのですが、現在50名以上に拡大していますね。

 最近、少しずつ上手く回り始めたなと感じているのですが、必ずひっかかるポイントみたいなのがあって、エンジニアやデザイナーを採用するときに不動産に興味がない人が多いんですよね。そこで、どうしたら不動産の面白さをわかってもらえるのか、またestieは、オフィス不動産を取り扱っていますので、商業用不動産とは、リモートワークになってオフィスはどうなっているのかなど、この業界のことを知ってもらうことがスタートラインだと感じています。

千葉氏 業界自体が地味で、採用したいエンジニアにひびきにくいというのもあるかもしれませんね。だからこそ、業界のことを伝えて共感する人を集めるのが大事になってくると。

平井氏 不動産における職種ごとに、どういった部分が面白いのかという説明をできるだけ丁寧にしています。例えば、不動産は人が手で打ち込んだ情報が多いですよね。リアルアセットをデジタルの世界にモデリングすることは難易度が高い。そこにエンジニアの面白さがある。その説明を職種ごとに、相手のリアクションを確かめながら伝えています。

千葉氏 採用したエンジニアのパフォーマンスはどうやって発揮させていくのでしょう。特徴的なのはマルチプロダクト戦略などだと思いますが。

平井氏 マルチプロダクト戦略は突飛なことではなくて、お客様の業務に使っていただいているサービスが業務のある一部の部分だけだとしたら、その隣の業務も私たちのプロダクトにできるようにしていくことで実現できます。例えばestieが持つオフィスのデータを、物流施設や商業不動産まで広げて行く。そうした地続きの開発を進めていけば、お客様のお困りごとを解決していけます。

 estieでは、個人情報以外のデータは基本的に全社員が閲覧できるようになっています。そうしたドキュメント文化が大事だと考えています。

企業M&Aはいかに人間関係を築くが重要

千葉氏 一方で、GAテクノロジーズが特徴的なのはM&Aがとても上手い。失敗する可能性が高い中で、外の人材を活用し、組織を融合するのに、どういった方法をとっているのか教えて下さい。

樋口氏 M&Aをやってみてわかったのはめちゃくちゃ難しいということ(笑)。会社を1つ増やすことで、思い描く事業に到達する時間短縮ができたように見られているかもしれませんが、ビジネスモデルが良くても、結局は人。先方のキーマンといかに人間関係を構築できるかどうかがポイントだと思っています。

 例えば、イタンジは野口(イタンジ 代表取締役社長執行役員CEOの野口真平氏)がキーマンだったので、食事に行くなど、1〜2年に渡ってコミュニケーションを重ねていました。信頼関係を構築できていない段階で、あれもこれもと要求しても先方には全くひびきません。こちらの言葉をきちんと聞いてもらうためには、信頼関係をまず築くこと。ここができていないと一気に破裂しますね。

 これは、M&A後にも効いてきます。信頼関係を構築していれば、こちらから何かお願いしてもすぐに着手してもらえたりする。もう一つは企業の中で上下を作らずにお互いが補完する認識でいること。これが信頼関係の構築につながりますね。

千葉氏 信頼関係を作り、権限移譲を進めるとお互いのシナジーが出やすいということですね。信頼して任せる方向に比重を置いていますか。

樋口氏この部分は、マネジメントと全く一緒で、任せるだけでは先方にこちらの価値を感じてもらえません。ただ、介入しすぎてしまうとやりづらい。例えばイタンジはプロダクト力、エンジニア力は十分にありましたが、組織運営やセールス力で私たちが補える部分があるなと感じました。ここを補完することで、信頼関係が生まれていく。ここがポイントかなというイメージです。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

コロナ禍で普及したリモートワーク、現場を持つ企業の対応は

千葉氏 どこを任せるのか目線を合わせた上で運営しているということですね。次に、不動産会社がDXを進める中でのイノベーションの進め方について深堀りしたいと思います。うまくいった例や阻害される要因など、どんな要素があるのか長瀬さんに伺いたいのですが。

長瀬氏 仕事のやり方をどう変えるかということだと思いますが、現場主義で長く仕事をしているとなかなか変えられませんよね。コロナ禍で普及したリモートワークですが、物流業界でリモートワークができるか調査してみたところ、大企業でも取り入れられない会社もありましたし、中小だとなおさら難しいという結果になりました。

 実現するには、経営者の問題も大きかったですが、テクノロジーが使えている、使えていないという問題もあり、それも、経営者や従業員など自社内だけでなく、仕事相手や関連企業まで含めてテクノロジーが使える状態でないと浸透しづらいという状況がわかりました。

 もう1つは、業務全体が変わらないとリモートワークはできないということ。部分最適化されていても、ほかの部分で出社が必要になるケースもある。そのためには仕事が分業していることも大事で、一気通貫でやらなければいけないという会社だとなかなか変われない。これは現場を持つ業界全体に言えることだと思います。

千葉氏 平井さんはBtoBのビジネスが主流ですが、大きな組織にシステムを実装していくのはかなり難しいですか。

平井氏 試行錯誤中ですね。会社ごとに環境も業務性質も全然違いますから、それらを前提として向き合っていかないといけないですね。営業では、同じ会社の部署をまたいで、さらに部署内の異なる年代の方に会ってと、とにかく多くの人にお会いして、もうこの会社に会っていない人いないみたいな状態になってようやく導入に至るというケースもあります。

千葉氏 あらゆるレイヤーにアプローチしていくことが大事だと。

平井氏 ただ、会社のどこかに業務体制を変えよう、改革しようと考えている人が必ずいます。それは最近強く感じますね。

この先エンジニアは取り合いに、その時建設、不動産業界ができること

千葉氏 不動産業界で長く使われてきた電話やFAXは非効率と言われますが、いまだに現場で働いている人はそのやり方に慣れているし、仕事も早くできる。そこをどうDXしていくのがいいのでしょうか。

樋口氏 不動産テックと言われる会社でも創業者は不動産業界出身者が多いんですよね。ですからITリテラシーがあまりない人もいる。ではどうテクノロジーを入れていくのかというと、まず外注でシステムを作ってもらう。もちろんこれでは業務で使えるものは作れません。次のステップとして外注をコントロールする人を採用する。ようやく使えるものが出てきますが、外注していると、ボタン1つ付け替えてもらうにも時間と費用がかかってしまう。

 ここまできて、内製化したほうがいいというフェーズに入る。エンジニアを採用して、高品質なものが作れるようになるが、今度は現場が使ってくれない。ここでプロダクトマネージャーの必要性に気づく。大体ここまでに3〜4年かかります。

千葉氏 estieは初期からエンジニアと不動産の現場がわかる人がいるハイブリッドな組織を作られていたように思いますが。

平井氏 エンジニアと不動産の現場がわかるスタッフと、お互いが理解しようとするのは大事ですね。私自身もできなくてもコード作ってみるとか。私たちのエンジニアのトップの人間は、実は、とある大手デベロッパーの本社で仕事を教えてもらった経験あるんです。そういう姿勢は現場、エンジニア、営業にも伝わるのですごく大切だと思います。

千葉氏 企業努力を改めて感じますね。最後に一言ずついただけますか。

長瀬氏 ビジネスが少しでも効率化できるよう新しいひらめきなどをお手伝いできればありがたいです。ぜひ日本をよくするために一緒に頑張っていきたいと思っています。

樋口氏 不動産業に関わるエンジニアはまだ数が少ない。今後10年、20年とテクノロジーが進化していく中で、技術者は取り合いになる。その中で、建設テック、不動産テックにきてもらえるような土壌をつくり、15年先につなげていきたいです。

平井氏 私たちのサービスはオフィス賃貸業の大手7〜8割に使ってもらっていますが、それらの会社はすごくいい取り組みをしていると思います。そうしたベストプラクティスをあわせ、業界全体で大きなレベルアップをしていきたいですね。

千葉氏 業界全体のエンジニア採用力を上げていくのが重要なポイントですね。以前に比べ、不動産テック企業はだいぶ増えました。「イケてる」会社が増えれば採用力も上がる。プレーヤー同士が連携していくことも大事ですね。

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