「iPad」はコンピューターだ。しかし、まだノートPCの完璧な代用品にはなっていない。iPadと「Mac」の方向性はかぶりつつあるが、最新の「iPad Pro」はノートPCを目指しているわけではない。第10世代のiPadと共に発表された2022年モデルのiPad Proは、むしろスタイラスペン「Apple Pencil」を愛用するクリエイターに照準を合わせている。
筆者はクリエイターではないが、進化するiPadの恩恵に浴してきた。最新のiPad Proと前モデルの違いは、基本的にはスペック面の向上のみだ。プロセッサーは「M1」から「M2」に変わり、最新のWi-Fi規格である「Wi-Fi 6E」とより高速な5Gミリ波にも対応する(いずれも日本では利用不可)。
iPad Proの前モデルが登場したのは2021年5月だったので、久しぶりのアップデートとなる。2021年モデルはM1チップの初搭載、5Gへの対応、12.9インチ版ではミニLEDディスプレイの追加などがあったが、「Magic Keyboard」やLiDAR対応の背面カメラなどが追加された2020年モデルと比べると、小幅な進化に感じられた。
最新のiPad Proの価格は、据え置きではあるが高額だ。今回のレビュー対象である12.9インチモデルは、容量が最も小さい128GBで1099ドル(日本では17万2800円)、最も大きい2TBでは2199ドル(同34万8800円)もする。5G対応版はさらに200ドル(同2万4000円)が上乗せされ、第2世代のApple Pencilやキーボードケースなどのアクセサリーを追加すれば価格はさらに跳ね上がる。12.9インチモデルは最も安い構成でも第10世代iPadを2台買うより高い。
もちろん、iPad Proは素晴らしいマシンだ。非常に高速で、カメラも複数搭載している。前面カメラと背面カメラには深度センサーが備わっているので、その気になればARや3Dスキャンも可能だ。スピーカーとディスプレイも質が高い。特に12.9インチモデルのディスプレイは秀逸だ。
最新の「MacBook Pro」にも搭載されている「ミニLED」バックライトは、今回もiPad Proの12.9インチモデルのみに搭載されているので、(「iPad Air」もM1プロセッサーを搭載していることを考えると)小さい方の11インチモデルは検討に値しないかもしれない。「iPhone 13 Pro」や「iPhone 14 Pro」と同様に、ディスプレイは「ProMotion」テクノロジーを利用して最大120Hzのリフレッシュレートで表示でき、スクロールや操作感はとてもなめらかだ。
現在のiPadは、価格帯によって機能に多少の差はあるものの、どのモデルもiPad Proのデザインに近づきつつある。例えばiPad Airには、Face IDも、LiDARスキャナーやデュアル背面カメラも、ミニLEDを搭載した大型ディスプレイ(または120Hzディスプレイ、高速Wi-Fiと5Gミリ波接続)もないが、第2世代のApple Pencilに対応し、高速なM1チップを搭載している。最新の第10世代iPad(10.9インチ)は、iPad Proほど画面の質は高くなく、第2世代のApple Pencil(とMagic Keyboard)にも対応していないが、前面カメラはセンターフレーム機能に対応した。
5Gの速度は、筆者が自宅で使っているVerizonのネットワークでは569Mbps程度だ。しかし筆者が住んでいる地域のセルラーネットワークはかなり不安定なので、この値は参考程度に考えてほしい。
新型iPad ProではプロセッサーがM1からM2にアップグレードされた。価格は据え置かれていることを考えると、もともとiPad Proを買う予定だった人にはうれしい進化だ。しかし、アップグレードによる速度面の変化は緩やかで、飛躍的に高速化したわけではない。M1が初めて搭載された2021年モデルの方がインパクトは大きかった。
クロスプラットフォームベンチマーク「Geekbench 5」でCPUスコアを測定してみると、シングルコアスコアの改善幅はかなり控えめで、M1搭載のiPad Airと大差なかった。マルチコアスコアでは顕著な改善が見られたが、劇的というほどではない。とはいえ、A14 Bionicプロセッサー搭載の第10世代iPadと比べればマルチタスクの処理速度は2倍以上だ(今回のレビュー機のRAMは16GB)。
重いグラフィック作業や写真・動画の編集をiPadで行いたい人にとっては、M2の搭載は歓迎すべき進化だろう。しかし筆者の用途では、以前のiPadでも十分に速かった。
機能面でMacに近づいたと感じるほどの具体的な変化もない。「iPadOS 16.1」で実装されたマルチタスク機能「ステージマネージャー」は、外部ディスプレイにも対応しており、iPad Proの画面上だけでなく、接続した外部モニター上でも4つのアプリを実行できるようになる。これは筆者が以前から欲しかった機能だが、まだ動作は安定しておらず、まるでベータ版を使っているようだ。この機能については、どうしても追加モニターが必要だという人以外は、来年まで待ったほうが賢明かもしれない(ステージマネージャー機能はiPad Airを含めて、M1搭載のすべてのiPadで使える)。
新型iPad Proの目玉は、Apple Pencilを画面に近づけるだけで認識する「ホバー」機能だ。Apple Pencilで画面をタッチしなくても、一部のアイコンやツールが動いたり、アニメーションが表示されたり、グラフィック効果を選択前にプレビューしたりできる。もっとも、この機能はスタイラスペンに対応した他社のタブレットやノートPC、スマートフォンには以前から搭載されていたもので、特に目新しいわけではない。
Appleによると、この機能は第2世代のApple Pencilで体験でき、M2チップによって実現されているため、他のプロセッサーを搭載したiPadでは動作しない。また、この機能を利用するアプリも現時点ではほとんどない。おもしろいことができそうな予感はするが、画面にタッチしなくてもApple Pencilを近づけるだけでカーソルがハイライトされるというだけでは、購入の決め手にはならないと感じた。
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