「こいつと仕事をしたら楽しい」と思わせる--社外での気付きを新規事業に生かすNTT東日本・尾形哲平氏【前編】

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる大手企業の担当者さんを紹介しています。

東日本電信電話株式会社(NTT東日本) ソリューションアーキテクト部 スリープテック事業チームの尾形哲平氏(左)
東日本電信電話株式会社(NTT東日本) ソリューションアーキテクト部 スリープテック事業チームの尾形哲平氏(左)

 今回お話を伺うのは、東日本電信電話株式会社(NTT東日本) ソリューションアーキテクト部 スリープテック事業チームの尾形哲平さんです。NTT東日本からは、長谷部豊さん(現NTT DXパートナー 代表取締役)に続いて2人目のご登場となります。

 尾形さんは長谷部さんがNTT東日本で手がけたイントレプレナープログラムに参加されたことを発端に、現在スリープテックの新事業に取り組まれています。前半では、尾形さんの新規事業づくりマインドを形成するに至ったこれまでの活動について伺います。

地方での新規開拓でお客さんと話す楽しさを知る

角氏:長谷部さんにご登場いただいたときに、尾形さんの取り組みの話は少し伺いました。他にも以前登場していただいたエステーの奥平壮臨さんなどとも繋がっていて、実はARCHのキーマンであるとも伺っているのですが、改めて自己紹介からお願いします。

尾形氏:2012年にNTT東日本に入社し、最初はSEとして山形の支店に配属されました。もともと大学は情報系でしたがプログラミングはできなくて、SEといってもルーターの設定やWi-Fi導入などのインフラ系を担当し、文教系領域でネットワーク構築をしていました。

角氏:難しそうですね。

尾形氏:正直ちょっと苦手でした(笑)。技術というよりは、営業に同行する提案寄りのフィールドSEですね。支店では既存のお客様はベテラン社員が担当し、若手は新しいことを任されるんです。ただその時に、お客様と話す楽しさを覚えたんですよ。

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角氏:新規開拓は若手のミッションなんだ。

尾形氏:それで本社に戻ってからも新しいサービスの事業を担当して、それも新規開拓だったのですが、そういう泥臭くお客様にメールをしてアポを取って話を伺いに行くという仕事を20代はずっとやっていました。

角氏:お客さんが何を課題に思っていてどういうソリューションがヒットしそうかということを、肌感覚で知っていったわけですね。

尾形氏:そうですね。実際に会って話をし、提案書を修正してまた会いに行くということを続けてきた中で、長谷部がイントレプレナーの施策を立ち上げるタイミングで名乗りを上げ、そこから睡眠事業・スリープテックの取り組みが始まったんです。

角氏:なるほど。お客さんの話を聞いて、新しい提案をすることがそもそも好きだったんですか?

尾形氏:提案というより、仕事以外も含めて社外の人と話すのが好きでしたね。

角氏:社内の人と話すのは違う?

尾形氏:やっぱり違いますね。文化も違うし、考え方もうちの会社にないことが聞けますし。それが凄く楽しかったんです。

ワクワクしかなかった建築家のプレゼン

 角氏:その時に社外の方に教えてもらった発見や気付きの中で、印象的な話はありますか?

 
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フィラメントCEOの角勝

尾形氏:僕は以前から、ハマのトウダイというNPO法人の活動に参加しているんです。NGばかりになってしまった公園で、スノーピークと組んで防災目的でキャンプ道具を使って泊まったり、商店街でスリッパ卓球を広めるなど、街や空いている公共のスペースをいかに面白くするかに取り組んでいる団体なのですが、そういうところで街づくりをする人には建築家の人が多いんです。彼らはランドスケープだけでなく、コミュニケーションをいかに作るかにも向き合っていて、そういう人が集まるイベントに参加したとき、プレゼンがとても面白かったんです。ワクワクしかしなくて、何時間でも聴いていられる。そういう資料の作り方とか話し方とかは、今の自分を形作った1つのきっかけになっていますね。

角氏:なるほど、それはいい話だ。

尾形氏:山形にいたときも、イノベーションスクールという活動がありまして。これは空きができてしまった商店街に、事業をしたい若者たちを誘引することを目的としたイベントで、若者たちがフィールドワークをしてキーマンに話を聞いて、「今山形の商店街にはこういうものが必要だ」と定義をした上で、空き家のオーナーさんに対してプレゼンをするのですが、そこのメンターがコミュニケーションデザイナーの山崎亮さん、オープン・エーの馬場正尊さんと、まさに建築の著名な方たちだったんです。そこに参加したのが、自分の中では大きかったですね。

角氏:それは仕事ではないところで参加された?

尾形氏:そうです。街づくりというものに興味があったんですよね。もともと自分が住んでいる場所が廃れていくのが嫌という思いがある中で、山形に住んでいて結構面白い若い人たちがいるということを感じていて、空き家やスペースが増えていく傍らで、「こんな面白い人たちが街でこんな面白いことをやっているんだ」という事も大きな気付きになりました。

角氏:社会課題があって、現場がこうだからこういうものが必要だと。課題と現場のリサーチとソリューションの提案、よく考えると新規事業を作っていくプロセスと近いですね。

尾形氏:そうかもしれないですね。手法としてはストーリーテリングという形なのでしょうが、そもそもどういうコンセプトなのか、そこでなければいけない理由、その人だからやる理由とか、建築の人たちはそういう部分を凄く大事にしたいと言うのです。凄く納得できましたね。

「こいつと仕事をしたら楽しい」と思わせる

角氏:建築をやっている人はいろいろな視点でモノを見ますからね。いい経験をしているなあ。それはいつ頃?

尾形氏:まだ20代半ば・後半です。誰かと繋がろうとかではなくて、あくまで興味です。

角氏:そこに自分のプライベートの時間を投入して、経験をして学んで、それが今やっていることにつながっている?

尾形氏:何をやるにしても、プロジェクトごとに背景や前段にあるコンセプトは、絶対に作るようにしたいと思っています。提案するまでの繋がりは結構意識します。

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角氏:コンセプトがしっかりしていると、周りの人にも理解してもらいやすかったりしますからね。巻き込みやすいとか。

尾形氏:あとは睡眠事業を始めたとき、クリエイティブ系の企業さんとパートナーシップを組んだのですが、提案する時に事業の中身を話すのではなく、ワクワク感を話されていたんです。そういう伝え方をする必要性を凄く感じましたね。

角氏:思わず相手の人が乗り出して聞き入ってしまうような。

尾形氏:「こいつと仕事をしたら絶対に楽しいだろうな」という、打ち合わせでそういう雰囲気になっていくのが大事だと感じました。

靴の輸入販売ビジネスで事業運営を経験

角氏:多分、それってオープンイノベーションの神髄だと思うんですよ。「この人と何としても仕事がしたい」と思えるかどうかというところ。尾形さんはそれを作っていくのが上手そうな雰囲気があるんですよね。

尾形氏:本当ですか?

角氏:なんだかいい意味でNTTっぽくない雰囲気というか、カチっとした会社のイメージから少し外れている(笑)。杓子定規に物事を見たり、自分たちのカルチャーを押し付けようとしない雰囲気が漂っているんです。それが口元の髭やTシャツのデザイン、足元から透けて見える(笑)。それは凄く大事だと思います。それをわかってやっている風がある。

尾形氏:実は、個人事業主としてビンテージの靴屋もやっているんです。

角氏:え?靴屋をですか?

尾形氏:NTTは昔から申請さえすれば副業はOKなんです。学生の時にたまたま「チャーチ」というイギリスの古いブランドの靴を買ったのですが、社会人になってもずっと履いていられたんですね。それで調べていったら、今の皮より昔の皮のほうが質が良く、きめ細やかだということが分かりまして。それで古い革靴は長持ちするし価値があると思い、最初は自分用に仕入れていたのですが、他の人にも展開できるんじゃないかということで販売を始めたんです。

角氏:本当ですか?(笑)。今履いている靴もそうですか?

尾形氏:そうです。「クロケット&ジョーンズ」というイギリスの靴なんですけど。

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角氏:仕入れはどうしているんですか?

尾形氏:海外から買って、それをメンテナンスして販売します。古いものだと60年代、だいたい80年代、90年代前半までのビンテージ靴を専門で扱っています。デッドストックもあるし、USEDもあります。モノにも寄りますが、今の新品を買うなら当時のUSEDを買ったほうが良いです。

角氏:何だか急に雄弁に(笑)。儲かってますか?

尾形氏:赤になったら困るので、それなりに事業として回っている程度です。「JUST LIKE HERE」という名前でウェブページもあって、赤坂蚤の市などの催事の場にオフラインで出店しています。

角氏:どんな人が買うんですか?

尾形氏:基本詳しい人がいて、そういった方が買いに来られたり、ふらっと来た人が履いて、「革靴ってこんなに柔らかいの?」と驚いて衝動買いしてくださったり。多分ビジネスモデルとしては、そんなに正しくないんです。ぴったりとはまるシンデレラフィットを探す訳ですから。そういう意味でいうと、そんなにスケールはしませんよね。

角氏:いやあ、凄くいい話を持ってるなあ。革靴の達人でもあるんだ(笑)

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尾形氏:仕入れをするのも、今やっている新規事業に結構生かされているんです。1人で検証しているようなものじゃないですか。良さそうな靴を買って、出してみてと。あと蚤の市もそうですが、マーケットでの繋がりの中で、色々な気付きがあるんです。やはり社外の人と話すのが一番気付きが得られますよね。

角氏:そういう方だから、スリープテックに色々な企業の方々を巻き込んでいく話が現実的に聞こえるんですね。

 後編では、現在NTT東日本が進めているスリープテック事業とそこでの最新サービスについて伺います。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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