待望の仮想現実(VR)ヘッドセット「Meta Quest Pro」が正式に発表された。ついにベールを脱いだQuest Proの姿は、過去にMetaが披露した「Project Cambria」のプロトタイプや、9月にホテルに残されているところを発見されたプロトタイプとも一致している。ハード面は期待通りだったが、その用途に対するMetaの計画は想定外だったかもしれない。
MetaはQuest Proを、まずビジネスユーザーや企業に売り込もうとしている。キーワードは「コラボレーションと生産性」だ。新たにフルカラーの複合現実(MR)に対応したことで、Metaは仮想の作業空間や会議室、共同設計プロジェクトへのシフトを大胆に推し進めようとしている。この取り組みをさらに拡大すべく、MetaはMicrosoftやAccentureと連携し、「Microsoft Teams」など主要な生産性向上ソリューションにQuest Proを簡単に統合できるようにした。
その結果、VRのホームユーザーやゲーマーは今のところ二の次となっている。しかし、Quest Proの技術は役員会議だけでなく、エンターテインメントにも大いに役立つはずだ。この「Pro」仕様のヘッドセットにより、短期的にはビジネスユーザーが、そして長期的にはVRゲーマーができるようになることを見ていこう。
ハードウェアは今回の機能拡張の要であると同時に、Metaが目指すメタバースの核心を担うものだ。Quest Proのハードウェアは、ほぼすべての点で「Quest 2」からアップグレードされているが、特に注目すべきポイントは以下のとおりだ。
Quest Proは、まったく新しい光学技術を採用している。Quest 2のぶ厚く重いフレネルレンズとディスプレイから薄型の光学モジュールに移行したことにより、コントラストは75%強化され、解像度は1インチ当たり37%向上し、40%のスリム化が実現した。その結果、ヘッドセットの厚みや重さが減り、レンズが生み出す「ゴッドレイ」(光の筋)の問題が解決され、文字やディテールが鮮明になった。特に最後のポイントは重要だ。MetaはVRヘッドセットが仕事に使えることを広くアピールしようとしているからである。
Quest 2の4倍の画素数を持つフルカラーのパススルーカメラを搭載したことで、MRとの相性が格段に高まった。これにより、現実の仕事机の上に仮想のワークスペースを構築したり、全員に見える仮想のプロトタイプを使って共同作業をしたり、現実世界で仮想オブジェクトを操作したりすることが可能になった。
視線だけでなく、表情も追跡できるようになった。視線トラッキングはユーザーの視線とヘッドセットの視界を自然な形で統合するため、現実世界に近い感覚でVRを楽しめるようになる。また、表情トラッキングはユーザーの表情や反応をアバターに反映することで、ソーシャル体験の「不気味の谷」現象を軽減する。これにより、Metaが運営するメタバースプラットフォーム「Horizon Worlds」などでのソーシャル体験がより自然なものになると期待されている。
非常にシンプルだが、利便性の面では最も重要な改善と言えるかもしれない。新しい充電ドックではヘッドセット本体だけでなく、コントローラーも充電できるようになった。
Quest 2を含めて、過去のヘッドセットは光をできる限り遮断しようとしてきた。しかしQuest Proでは、用途に応じてVR体験中も周辺の様子を確認できる。完全な没入感が必要な場合は、同梱されているマグネット式遮光ブロッカーを使うことでバーチャルの世界に集中することが可能だ。
同梱の新型コントローラーもデザインが見直されており、安定感が向上し、より人間工学に基づいたものとなった。センサーも小型化し、360度あらゆる方向に動かせる。付属品も充実した。新しいスタイラスペン先をコントローラーの底面に接続すれば、互換性のある仮想空間では仮想マーカーのように使える。これにより、仮想のホワイトボードに書き込んだり、空中に絵を描いたりといった双方向の活動が可能になった。
Quest Proはプロ向けのツールと位置づけられており、これは価格設定にも反映されている。価格は1499ドル(日本では22万6800円)だ。10月12日から予約受付が開始され、10月26日から順次発送される。
Metaによれば、Quest Proのターゲットは「建築家、エンジニア、建設業者、クリエイター、デザイナーのような人々」だ。現在、多くの人が当たり前のように使っている技術の中には、当初は企業や専門家、場合によっては軍事用に開発されたものが少なくない。専門家向けの技術も、次第に一般ユーザーに裾野を広げることがある。Quest Proの技術がこの流れに乗るのに、それほど時間はかからないだろう。
Metaがマーケティング戦略を転換し、価格を少し下げたバージョンを完全なコンシューマー向けVRソリューションとして売り出す可能性もある。Metaの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏は、Quest Proを「新しい高性能ヘッドセットの第1弾」と呼んだ。ということは、同じようなハードウェアを搭載した、まったく新しいゲーマー向けモデルが遠からず登場する可能性はある。
いずれにしても、PICOをはじめ、VR製品を展開する企業は世界中で増え続けている。現在のところ、Metaは米国のVR市場では安定した地位を謳歌(おうか)しているかもしれないが、「PICO 4」のようなVRハードウェアが登場し、その座を脅かすのは時間の問題だ。PICO 4は、Quest Proと同じハードウェアをいくつか搭載しているが、最初からゲーマーを対象としており、販売予定価格は500ドル以下(日本では4万9000円〜)だ。MetaがPICO 4にどう対抗するのか、今後もビジネス路線を継続するのか、ゲーマーに照準を合わせるのか、あるいはその両方を追究するのかについては今後の展開を見守る必要がある。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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