Metaの共同創業者でCEOのMark Zuckerberg氏は、メタバースをテクノロジーの進歩にとって素晴らしい、新たな段階だと見ている。メタバースでは人々は全く新しい方法で働き、遊び、交流する。月面でIMAXの映画を視聴したり、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」に出てくるような酒場でビジネス会議を開いたりできる。お気に入りのバンドと同じステージに立つことさえ可能だ。
だが、テクノロジー業界がメタバースの展開をどのように描くのかが期待される一方で、Zuckerberg氏は生き残りを賭けた戦いに備えているようだ。その相手はAppleになるだろう。
米国時間10月11日開催の「Meta Connect」カンファレンスの基調講演で、Zuckerberg氏は未来に向けたビジョンを説明し、「マーベルアイアンマン VR」のようなゲームや、生産性向上アプリにおけるMicrosoftとの提携、「Quest Pro」という1499ドル(日本では22万6800円)の新ヘッドセットなどについて語った。このヘッドセットには、ユーザーの実際の表情を読み取るセンサーなど注目の機能が搭載される。だが、82分間のプレゼンテーションで同氏は、名指しこそしなかったものの幾度となくAppleを非難した。
Zuckerberg氏は、Appleの秘密主義の企業体質から、広告ではなく主にハードウェアから収益を得ているビジネスモデルに至るまで遠回しにあげつらった。また、「iPhone」「iPad」「Apple Watch」のアプリを「App Store」を介してのみ提供するという、アプリ開発に対するAppleの「閉鎖的な」エコシステムの手法も批判した。この手法は、アプリのセキュリティに関する問題をチェックし、同社の規約に沿っているかどうかを判断するためもので、「Uber」や「TikTok」などの成長に一役買ったが、独禁法違反の懸念から厳しい視線を向けられている。
Zuckerberg氏は「コンピューティングの各世代には、つねにオープンなエコシステムとクローズドなエコシステムがあった」とし、かつてのPCと「Mac」間のプラットフォーム争いや、Appleの「iOS」に対抗するGoogleの「Android」を引き合いに出した。同氏は、Appleによる厳格な統制が独占を生み出し、それが同社の収益に貢献しているとしたうえで、メタバースはこのようになってはならないと語った(AppleにZuckerberg氏の発言についてコメントを求めたが、すぐには返事はなかった)。
Zuckerberg氏によるApple批判は今に始まったことではない。初代iPadが登場したときにも公然と批判していたが、今回の件は、テクノロジー業界の次なる大きな争いの火種になるかもしれない。
両社は近い将来、現実世界にコンピューター画像を重ねる拡張現実(AR)や、コンピューターが生成する没入型の世界にユーザーを導く仮想現実(VR)を実現するテクノロジーを頭に装着する日が来ると信じている。映画鑑賞から仕事まで、あらゆる用途にヘッドセットを使うようになれば、テクノロジー業界が成長する新たな波が到来する可能性がある。現在でもすでに、PCは年間数億台、スマートフォンは15億台以上が販売されている。
AppleのCEOを務めるTim Cook氏は、インターネットがこの数十年間にもたらした変化と同様に、自身が好むARテクノロジーが世界を大きく変えると思うと述べた。同氏は9月、オランダのメディアBrightに対し、「われわれは過去を振り返り、ARなしでどうやって暮らしていたのかと不思議がることになるだろう」と語った。
Zuckerberg氏は、自社が構築しているデジタル世界であるメタバースのことを、Cook氏がARに対するのと同じように信じている。Zuckerberg氏はMeta Connectで次のように語った。「われわれはメタバースのビジョンを強く信じているからこそ、それにちなんで社名を変更した。われわれは今、メタバースを強化する多くのテクノロジーが力を発揮し始める瞬間に立ち会っている」
Appleが何年も前からうわさされているARグラスを発表すらしていないタイミングでZuckerberg氏が口火を切ったことは、多くを物語っている。
Appleは多数のメディアが報じている、同社ヘッドセットについて公式には認めていない。
その代わり同社は、iPhoneとiPadにAR関連の機能を追加することに注力しているとした。2017年には現実世界とやり取りするアプリを開発するための開発者向けツール「ARKit」を発表した。注目すべきiPhone向けARアプリには、iPhoneのカメラと画面を通してモンスターを探し出し、「捕まえる」ゲーム「Pokemon Go」がある。家の中の空間を測り、購入候補の家具を置いたらどう見えるかを表示するアプリ「IKEA Place」もある。
Appleはヘッドセットを発表する時期を慎重に選ぶ必要があるとアナリストらは指摘する。Strategy AnalyticsのアナリストTim Bajarin氏はMetaのイベント後に、Appleが業界初のデバイスを最初に発表することはめったにない(「iPod」発売以前からオーディオプレーヤーは多数あり、iPhone以前にスマートフォンは多数あった)が、Appleは最終的に「より優れたソリューション」を提供することで有名だと記した。「それには革新的なデザインと使いやすいソフトウェアやサービスも含まれる。これまでの歴史を考えるに、Appleはアプリやサービスとともに使いやすいヘッドセットでイノベーションをもたらすだろう」
Appleの従業員も業界ウォッチャーも、同社のヘッドセットのデビューを熱望する一方、Cook氏はそのヘッドセットを説明する際に、Zuckerberg氏の定番ワード「メタバース」を使うことはないだろうと冗談混じりに言う。Cook氏は9月のBrightのインタビューで「一般的な人がメタバースとは何かを説明できるかどうか私には全く分からない」と語った。
AppleがMetaに一撃を加えた理由には、同社がMetaをこの分野で最大のライバルとみなしているためだろう。「Meta Quest 2」はこれまでで最も売れているVRデバイスの1つとされている。
Moor Insights & StrategyのアナリストAnshel Sag氏は、Zuckerberg氏がメタバースについて語る中で、新しいヘッドセットであるQuest Proを、AR開発やビジネスアプリのためのデバイスだとも表現していたと指摘した。ゲームやインターネットにとどまらないその拡張性が、Zuckerberg氏の取り組みの鍵を握っているとSag氏は言う。「これもプラットフォーム戦争の1つだ。Appleは独自のプラットフォームを確立し、その他の企業はAppleと競争しようと互いに競い合っている」
「Metaは、戦うチャンスを得るためには他に先駆ける必要があることを知っている」(Sag氏)
Metaは2014年に新興企業のOculus VRを20億ドル(当時約2230億円)で買収し、有利なスタートを切ったと言える。この買収のおかげで、同社のVRアプリストアはこれまでに15億ドル(約2200億円)の販売を達成し、33タイトルの粗利は1000万ドル(約14億7000万円)を超えた。
Zuckerberg氏は単にMetaのヘッドセット向けアプリを構築するためではなく、来るAppleとの戦いに挑むため、こう主張する。
「われわれは新たな時代の始まりに立ち会っている。コンピューティングにおけるこれほど大きな変化は、そう頻繁にあるものではない。われわれの役割は、オープンなエコシステムの構築に貢献するだけでなく、この次世代のインターネット世界でオープンなエコシステムを確実に勝利させることだ」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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