「プロAIアスリート」って何だ?--大渡勝己氏とサポートするDeNAに聞くAIシーンの未来像 - (page 2)

エンジニアの露出が増えて、スポットが当たってもいい

――田中さんにお伺いしますが、今回のスポンサードについての経緯と狙いをお話ください。

田中氏: 2021年末ぐらいに、大渡さんからプロAIアスリート宣言をするというお話とともに、スポンサードをしていただけないか、という打診があったんです。

 最初は戸惑いました。ここまでお話してきたような、そもそも何をしていくのかとか成し遂げたいこととか、今プロはいないけど、プロがいる世界になったらこういうことができるという未来像まで、いろいろなことを大渡さんとお話しました。

 対話を続けるなかで、こういう取り組みは世界を見てもやっている方はいないですし、きちんと形になれば面白い世界になるだろうと。それは、巡り巡ってDeNAにもメリットとして返ってくるだろうと、DeNAとしても支援するという判断になったことが経緯になります。

――田中さんから見て、AI開発者としての大渡さんの魅力はどこにありますか。

田中氏: 行動力と実装力、あとは精度を高めることへの執念、引き出しの多さと、それを実装までできるところは長けています。引き出しがいっぱいある方、アイデアが出る方は相応にいますが、実際に動かして実装するところまでできる方はそういないです。これができるということは、考えたことを実装して動かしてみて、それがうまくいくかダメかがすぐわかるという、そのサイクルが速いということですし、これを継続して取り組める存在は希少ですね。

 そんな大渡さんだからこそできることはいっぱいあるでしょうし、大渡さんに対しての投資でもあり、業界全体としての投資でもあることも含めて、サポートするのはDeNAとしてもひとつのチャレンジです。

――このお話を聞いて、大渡さんはどのように感じましたか。

大渡氏: ありがたいです。僕自身は好きなことをやっていきたいというなかで、おかげさまでやらせてもらっていますので。世の中にはすごいエンジニアの方はたくさんいますし、この方のこういうところには勝てないと思う方もいます。でも有名かというと、そういうわけではありません。エンジニアは基本的に裏方稼業のイメージが強いのですけど、そこを変えたいと考えていて。僕としてはもっとエンジニアの露出が増えて、スポットが当たってもいいのではと思っています。

――ちなみに、日本におけるAIに関わる方々のポテンシャルやレベルは、世界に比べてどのような位置にあるのでしょうか。

田中氏: 個人的な視点ではありますが、日本はすごく高いです。グローバルで活躍していける、それよりも上の人たちもいると感じています。ただ文化的であったり法律的なところで、日本よりもAIを活用したサービスを作りやすい環境が、海外にはあるというところで差が出ていると感じています。

大渡氏: 僕も、日本人のポテンシャルは高いと感じていますし、世界の上位に入ると思います。ただ、AIにおける研究というと、英語圏かそうでないかの差は大きくあります。とはいえ、言葉の壁はあると正直感じますけど、いろんなアプローチをされて乗り越えて研究している方々がいますし、例えば自動翻訳の精度がより高まれば、そこは関係なくなるという可能性もあります。

田中氏: 日本に生まれたので、日本のAIに関するレベルが低いという風潮があるとしたら、やはり悲しいですし、日本の中から変えていけるのであればチャレンジングで面白いでしょう。その意味では、プロAIアスリートを日本から誕生させて、活動してもらって、日本がAIの領域で世界トップに立つという世界がきてほしいですし、目指してほしいと感じています。

AIの魅力は「諦めない」

――大渡さんからみて、AIの魅力はどこにあるのでしょうか。

大渡氏:自分の子どもみたいな感覚……というのもありますし、自分がコーチとして教えているという感覚もあります。AIは24時間頑張り続けられる存在でして、大富豪であれば何千万試合を学習して作ったりしますし、それだけ努力ができる才能やポテンシャルは、人間では到底不可能な領域です。それに対して僕がサポートして、AIのポテンシャルを活かしてあげられることはすごいことですし、そこに魅力を感じています。

 講演をするときによく言っているのは「AIは諦めない」。最初は全然勝てなくても、何十万試合、何百万試合のあと、いきなり勝てるようになると。人間には精神的に無理だと思えることをやれるというのは、自分自身としても勇気をもらえますし、もっと多くの人に、その姿を見てほしいっていう思いはあります。

――AIという言葉は世間的に認知されていて、さまざまなイメージがある一方で、“人間の仕事を奪う”みたいな、センセーショナルな言葉として広まっているところもあります。おふたりから見て、AIに対しての世間的なイメージのズレや誤解されていると感じるところはありますか。

大渡氏: 僕自身はAIというものをかなり広く捉えています。例えば、からくり人形はAIと言っていいと思っているんです。自分が動いたり、入力を受け取って返すなど、人間側がインテリジェンスを見出せるものであれば、それはAIと言っていいと。なので、世間一般でAIに対してなにか間違ったイメージを持っているというようには感じていません。もう全てがAIという価値観でもありますので。

 ただ、AIは怖いというように思っている方もいらっしゃるとは感じています。それでも世界全体で認識も変化していくものだと思いますし、それを楽しみにしているという立場です。僕としては、AIに人格というか、諦めない強さがあるということをメッセージとして伝えたい。それでも、最終的には、世の中の人がAIについて思うことこそが、AIの本当の姿なのではと思います。

田中氏: 僕も似たような考えで、バズワードとしてのAIは、それはそれでいいのかなと感じていて。技術者寄りの考えですが、やることをやっていればいいかなと。解くべきものをAIを用いて、解決するとか、AIをひとつのパートナーとして見て、エンタメを提供するとか楽しさを届けるというところまで取り組んでいけば、世の中の流れも変わってくると思っています。センセーショナルな記事や言葉もありますけど、あまり気にしてないのが本音です。

 ガラケーからスマホに変わるような変化のひとつで、新しい技術が入ると、人間はそれにあわせて生活を変えていくものですし。それについていけないという方も現れてしまう一面は確かにありますが、徐々に適応していくものです。よくある、人間の仕事をAIが奪うということについても、仕事をつぶさないようにうまくAIを使って協業していくとか、むしろAIを活用してもっと楽しい仕事につけるようにしていくということは、社会全体で解決していかなければいけないことです。なので、その言葉通りにはならないとは思います。

大渡氏: AIに携わる立場から見て、人間の適応能力ってすごいです。ゲームAIはルールをひとつ変えたら動かなくなりますから。なんでもできる人間はすごいし、それは人間の才能ですし、強さでもあるかなと思います。

――それぞれ今後の展望についてお話いただけますか。

田中氏: 取り組みも始まったばかりですし、今すぐ何か見返りを求めるということは全然なくて。例えば、大渡さんが新しいAIを開発して、世の中に面白いものを提供できたとしたならば、それをDeNAがサポートしていたということが伝わったり、DeNAのサービスにも使われていけばいいな、ぐらいの感覚です。

 中長期目線で、こうした大渡さんの活動による循環が回っていけば、DeNAとして嬉しいですね。大渡さんの活動にかかっているところではありますし、DeNAへの還元も期待するところはありますけど、それよりも、世の中に面白いものを提供してくれるのであれば、ひとつ成功と言えるのかなと考えています。

大渡氏: 僕の夢についてお話をすると、そもそもAIが好きなので、シンプルにAIを作りたいと。科学の最高傑作としてAIがあると感じているので、それを人類全体として作りたいですし、僕もできる限り力になりたいです。世界にもすごい方はたくさんいますが、自分もその中に加わって作り上げたい。自分自身の思いとしてもありますし、それが恩返しにもなると思っています。

 興味があることをやっていたらこうなったので、世界中の方々に興味があることに対して突き進んでいくこと。そういった方々が世界中で増えていってほしいです。先進国では、ある程度増えてきたところもありますけど、国際学会に行くと、国の偏りというのはまだあります。ただ、今後は今の発展途上国からもっとすごい人がたくさん登場してくるという可能性も当然あるわけで。そうすれば、もっと世の中全体としてすごいものができていくポテンシャルがあります。

田中氏: DeNAとしては、グローバルと教育には貢献してほしいと考えています。プロと名乗る以上は世界にインパクトを残してほしいですし、教育は小中高、そして大学も含めて、AIの教育はこれから必須になっていくと思っています。その人たちのロールモデルというか、こうして活躍している人がいる、その姿を見てなりたいと思ってもらえる存在になってほしいです。

大渡氏: 小学校の歴史の授業のとき、なぜ歴史を学ぶのかとい問いに対して、当時は過去を学ぶことで、そこから自分たちの行動を決め、より良い未来にしていくからという模範解答のような答えを言ったことを覚えています。でも改めて考えると、楽しいから学ぶというのが正しいのかなと。ただ楽しいから歴史を学ぶのと同じように、ただ楽しいからAIを学ぶということでもよくて、その気持ちがすごいものを生み出していくのではないかと。

 自分が伝えられるのは、その世界観だと。楽しいことや興味あることに突き進んでいくということが、ほかにはない物づくりには必要ですし、ポジティブな姿勢を伝えていければと思います。

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