手探りで進む日本の子どもの「金融教育」--海外動向や役立つFinTechも解説

見原思郎 (シャトル 代表取締役)2022年11月09日 09時00分

 金融教育の重要性が増している。背景にあるのは収入の低下だ。厚生労働省によると、額面給与平均は1992年の472万円をピークに、2018年には8%以上下がる433万円となった。加えてここ30年の変化として、社会保険料率が約9%から約15%へ増加、消費税が3%から10%へ増加、物価が10%上昇となり、単純に足し合わせると実態価値ではさらに2割ほど減り、額面給与の減少分と合わせれば約3割減っていることになる。

 親子一世代30年でこの減少幅であるから、今の子ども達が大人になる未来を見据えて、子どもを含めた日本人全体の金融リテラシー向上は、緊急度の高い問題である。

 一方、個人でできる対策の1つとして運用で資産を増やすことがあるが、1998年からの20年で見たとき、家計金融資産のうち運用リターンによる伸びが米国では2倍、英国で1.6倍なのに対し、日本では1.2倍となっており、欧米と比べて遅れている。その背景として、家計の保有する資産における投資割合の少なさがあると言われている(日本15%、米国55%)。

 これらのことから金融庁により、金融教育を国家戦略として推進することが提言に向かっており、学生、社会人含む、全世代の金融リテラシー向上が期待される。

手探りで進む、子どもへの金融教育

 2022年から高校の授業で資産形成についての学習が取り入れられるようになった。貯金する以外にも運用で増やせると知る機会になる意味は大きいが、授業時間数でみると限られたなかで実施されているのが実態で、知識に触れる程度にとどまっている。

 大事なのは知識をいかして、実際の計画や家計管理をしていくという習慣であり、各家庭での親のサポートが重要だ。ところが、auじぶん銀行の調査では、家庭で金融教育を行いたい人は約7割いる一方、自身の金融に関する知識不足を感じている人は約8割となり、8割以上が家庭で金融教育を行ったことがない、というのが実態だ。

海外では「子ども向けFinTech」が金融教育のツールに

 一方海外では、親子で実践を通してお金の良い習慣が身につく、子ども向けFinTechサービス(アプリと連動し金融教育にもなる子ども向けキャッシュレス決済サービス)が先進国を中心に伸びている。

 はじまりはキャッシュレス化がいち早く進んだ英国だ。2015年に開始した子ども向けFinTechの「goHenry」は、すでに利用者が200万人を超え、毎年順調に成長している。それに続いて、米国の「Greenlight」や、オーストラリアの「Spriggy」など、多くの国で類似サービスが立ち上がっている。

子ども向けFinTechサービス
サービス名開始年利用者数
goHenry英国2015200万人
Greenlight米国2017500万人
Spriggyオーストラリア201665万人
pixpayフランス201920万人

 キャッシュレス化が進み、リアルタイムに買い物データの参照や送金ができるようになったことで、現金ではできなかったさまざまな体験が実現されているのが特徴だ。

 各国のサービスの大まかな共通点は以下の通りだ。

  • 子ども向けアプリと親向けアプリがあり、親は買い物の見守り、ペアレンタルコントロールが可能
  • 子ども向けアプリには、金融教育をサポートする、貯金、利息といった機能がある
  • 親が子どものプリペイドカードにいつでも送金ができる
  • ターゲットは小中高校生の子どものいる家庭
  • 月額300〜500円程度の月額課金
Greenlight(出典)
Greenlight(出典)

 さらに、米国のGreenlightは子ども向けに投資の機能が提供されており、実際に子どもがお小遣いのなかから少額を投資することで、将来に向けて運用の重要性を早くから体験することができるようになっている。

Greenlight(出典)
Greenlight(出典)

日本でも進むキャッシュレス環境

 日本のキャッシュレス比率は、子ども向けFinTechサービスが広がりつつある国と比べると遅れはとるものの、2021年末では32.5%と、10年で2倍以上伸びている。使える場所が拡大するとともに、近年着実に伸びているのが実情だ。

経済産業省(出典)
経済産業省(出典)

 キャッシュレス化が進んでいる背景には、アプリと連動した新しいキャッシュレス決済サービスの普及がある。大規模なキャンペーン展開で急速に利用者が拡大した、「PayPay」「d払い」のようなコード決済や、誰でも作れるプリペイドカードを利用し、クレジットカードを使わない若年層中心に普及してきたバンドルカードや「Kyash」といったサービスである。

サービス名開始年決済方法利用者数
PayPay2018コード決済4100万会員
LINE Pay2015コード決済4000万会員
d払い2018コード決済3700万会員
au Pay2019コード決済2700万会員
バンドルカード2016カード決済500万ダウンロード
Kyash2017カード決済非公開

 これまで、子どもたちの買い物は少額が中心なこともあり現金の利用が大半で、キャッシュレスといえば交通系ICカードが中心であったが、これら新しい決済サービスの登場やカード払いがタッチ決済に対応するなどの進化を通して、日常の少額の買い物でもキャッシュレス利用がしやすい環境や習慣が広がりつつある

 また、日本は「お小遣い帳をつける習慣がある」「安全な国であるため、子どもがひとりで外でお金を使う機会が多い」など、子ども向けFinTechが先行する諸外国と比べても、子どものお金のキャッシュレス化と親和性が高い面もある。

日本でも出始めた子ども向けFinTechサービス

 このような市場の変化を受け、国内でも子ども向けFinTechサービスが出始めた。筆者が代表を務めるシャトルでは、2022年7月に、お金の使い方や管理を通して、親子で良いお金の習慣が身につく、子ども向けプリペイドカード「シャトルペイ」をリリースした。

 シャトルペイは、Mastercard加盟店で使える、子ども専用のプリペイドカードを発行し、親と子、それぞれに最適化したアプリで、利用状況を管理することができる。 親は子どものお買いものや貯金の履歴を通して、日常の様子をリアルタイム通知やマンスリーレポートで知ることができる。子どもも、自動おこづかい帳などの機能を通して、自身のお金の使い方について、定期的に振り返ることができ、目標をもって貯金する習慣を身につけることができる。 月額料はかかるが、送金は無料でいつでも可能だ。

 
 

 背景にあった課題意識は、少子高齢化が進み子どもに投資されにくい社会環境と、社会保障費の増大と経済の停滞で家庭の手取り所得が減り続けていることである。シャトルペイでは、お金の使い方や管理を通して、親子で良いお金の良い習慣が身につき、子どもが自律的にお金と付き合えるようサポートする。

 シャトルペイのサービス開始後、「お金の使い方をどう教えてあげたらいいのか悩んでいたので、ちょうどよい」、「親が見えて安心するので、干渉がへり、子どもに任せられるお金が増えた。子どもも自分でコントロールできることに満足しているようだ」、「学用品代など、スポットでお金を渡すのが楽になった」などの声をいただいており、今後も、子どもの自律に向けたお金の良い習慣がつくような機能拡張をしていく予定である。

 シャトルペイのほかにも国内では、親子だけでなく家族全体で使える「かぞくのおさいふ」や、GMOあおぞら銀行の口座開設をすることで使える「manimo」というサービスがある。また、JCBのスマホ決済や家計簿プリカの「B/43」が親子向けサービスへの参入について言及しており、複数プレイヤーがでることで、子ども向けFinTech自体の認知が進み、市場が形成、盛り上がっていくと予想している。

子どもたちの可能性が最大化される世界に

 親子にとって大きなテーマは、子どもたちが将来どういう人生を歩みたいか、生活のためにどう働いて稼いでいきたいか、を適切にプランニングしていくことである。

 子ども向けFinTechを使った金融教育は、これをサポートすることができる。子どもたちにとって、ひとつひとつの買い物が、好きなこと、わくわくすること、興味の対象を見つけることのきっかけになる。こうして将来を考えるための価値観を育てていけば、おのずと目標や、そのために今、正しい行動をするという習慣ができ、自律に向かっていく。そして、子どものよりよい成長のためには、最も身近な大人である親のサポート、共感や応援が必要である。

 シャトルペイを通して、子どもたちの自律や、よりよい親子関係のサポートを通して、未来を担う子どもたちの可能性の最大化に貢献していきたい。

見原思郎

シャトル株式会社

シャトル株式会社 代表取締役。インターネットコンシュマープロダクトづくり20年。
GREEでメディア関連の子会社社長。コネヒトでママリの課金事業立ち上げ。メルペイで複数部門統括マネージャを経験後、2回目の起業で、メルカリへのイグジット含む複数の事業立ち上げ経験があるCTO上田とシャトル株式会社をスタートし、親子向けフィンテックのシャトルペイをローンチ。

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